開幕から連敗に苦しむサンダーズに見えた成長の兆し

ダンクシュートを決めるケーレブ・ターズースキー。今季は活躍が光る(2023年10月28日、茨城戦、オープンハウスアリーナ太田)

 今季は、本気でチャンピオンシップ進出を目指し、その先の優勝にチャレンジしていく目標を掲げたサンダーズ。しかし、宇都宮ブレックスとの開幕戦で連敗を喫し、ホーム開幕戦となった横浜BC戦で連勝したものの、その後アウェーゲームの三遠ネオフェニックス、専大89ERSに3連敗と、なかなか調子が上がらない。
 その一番の要因は、第3節の三遠戦からトレイ・ジョーンズとベン・ベンティル(10月24日に負傷者リスト入り)の主力2人をコンディション調整とケガを欠いているからだ。 しかしベンティルの戦線離脱により新たに加入したエリック・マーフィーが戦力として機能していることや、今季新加入のコー・フリッピンが活躍し始めたこと、ジョーンズの不在で八村阿蓮のプレータイムが伸び、スターティング5としてしっかりチームを支えていることなど、今後のサンダーズにとって明るい兆しが見えている。そして危機に際し、チーム一丸となって戦う気持ちが選手たちに植え付けられたのはプラス材料だ。
 今回は、その3つの明るい兆しについて紹介しよう。

文・写真/星野志保(Eikan Gunma編集部)

途中加入のマーフィーをチーム一丸で支える

 サンダーズは主力2人を欠いたことで、三遠戦68-93、78-95と得点が伸びず80点以下に抑えられた。
 21日の三遠戦後の会見で、ジョーンズ、ベンティル不在の影響を記者から質問された水野宏太HCは、「トレイはキャプテンで、チームの精神的支柱で、プレー面でも大きな役割を担ってくれている選手。ベンもウチはビッグマンの数が少ないチームでもあるので、2人がいなかったことは影響したとは思います」と語っている。

B2の福島ファイアーボンズで活躍していただけあり、日本のバスケを知るエリック・マーフィーの加入は心強い(2023年10月28日、茨城戦、オープンハウスアリーナ太田)

 CS進出を目指すクラブは、この状況を解消するためにテコ入れに動く。B2の福島ファイヤーボンズで3シーズンに渡りプレーし、日本のバスケットを知るエリック・マーフィーを獲得した。10月24日に加入したばかりのマーフィーは、翌日の仙台戦からサンダーズの選手として出場。試合には75-87で敗れたものの、マーフィーは2本中2本の3Pシュートを決めて6得点を挙げるなど能力の高さを見せてくれた。ちなみにマーフィーは、大学卒業後にNBAドラフトでシカゴ・ブルズに2巡目49位で指名され、1年目に24試合に出場している。
 10月28日、29日の茨城ロボッツ戦でマーフィーは、攻守にわたり存在感を見せ、79-72、67-66と接戦での勝利に貢献。チームの連敗危機を救った。
 マーフィーが加入後すぐにチームに馴染んだ理由はチーム力にある。水野HCはこう明かしている。
 「エリックは、急遽チームに合流して、いきなり試合に出なくてはいけなくなったので、『彼が速くチームに馴染めるよう環境作りをしよう。スタッフ、選手関係なく、彼を助けて、1日でも速くなじんでプレーをできるようにしよう』とチームの皆に話していました。もう本当に選手、スタッフ含めて全員が彼としっかりコミュニケーションを取ろうとしてくれたり、彼が困っているところに手を差し伸べたりしてくれていました。僕はそういうところに、このチームの良さっていうのがあるんじゃないのかなと思っています」
 マーフィーも「シーズン途中で新加入選手として入って来てプレーすることはすごく難しいことではありますが、スタッフも選手も含めて温かく迎え入れてくれました。特にプレーでは、自分から助けを求めることなく、選手側からたくさんのいろんなことを助けてもらいました」と28日の試合後に語っている。
 これは、主力2人を欠くという危機的状況の中で、チーム一丸となって危機を乗り越えようとした証(あかし)でもある。

目覚ましい八村阿蓮の活躍

目覚ましい成長を見せる八村阿蓮。試合では積極的に得点を取りに行く(2023年10月28日、茨城戦、オープンハウスアリーナ太田)

 エースのジョーンズをコンディション調整で欠く中で、プレータイムを伸ばし、飛躍的に成長しているのが八村阿蓮だ。 
 昨季は、56試合の出場で1試合の平均得点が4.7点だったのに対し、今季は9試合で同8.8点。3Pシュートの試投数は、昨季が1試合平均1.9本に対し、今季は同4.7本。3Pシュートの成功率も昨季は同36.1%、今季が同38.1%と、公式記録を見ても得点力が上がっているのが分かる。八村の良さは、オフェンスだけではなくディフェンスでも発揮されている。
 ディフェンスの手応えについて八村は、「フィジカルにプレーすることが僕の強みなので、それをやらなければいけないと思っています。コーチからもそれを求められていますし、次のステップに行くためには毎試合徹底してそれをやることが大事だと思っています。やはりいいディフェンスができると、いいリズムでシュートが打てますし、自然といい結果につながっていくと思います」
 水野HCもこう八村を評価する。
 「彼の武器はディフェンス。(身体の)サイズや運動能力を使ってディフェンスができるので、それを今日(28日の茨城戦)はすごく生かしてくれたと思います。それと同時に今日は本当に攻撃の部分でも、最近ずっと外の3Pシュートの調子良くて、積極的に打つことを徹底してきました。今日のゲームに関しては、ディフェンスとの駆け引きがしっかりできるようになって、より次のレベルに向かうためのパフォーマンスを見せてくれたと思います。ここから継続して相手との駆け引きができたり、外のシュートだけではない部分が出てきたりすれば、より守りづらい選手に変わっていくんじゃないのかなと思うので、これからも彼の成長を楽しみにしていきたい」
 余談ではあるが、28日の茨城戦で、相手にじりじりと追い上げられる緊迫した状況の中でも生き生きとした表情で楽しそうにプレーする八村の姿が印象的だった。試合後にそのことを尋ねると、「高校の時からずっと楽しんでバスケットをやっています。楽しいからこそ、今も続けていられると思うんです。それに5000人の観客が入った空間でプレーするのは当たり前のことじゃないですし、改めてすごいアリーナなんだと思ってプレーしています」と教えてくれた。
 楽しくプレーするにはメンタル面の強さも必要だ。
 「これまでは、プレータイムが少なかったら落ち込むこともあったのですが、コートに立ったときにやれることはやろうと心に決めたことで、それが自然とプレータイムにも結果にも表れているんだと思います」と力強く笑顔で応えてくれた八村。今季の見どころはチームにCS進出できるかどうかだけでなく、八村の成長にも注目してほしい。

フリッピンがチームにフィットし始める

コー・フリッピンを起点とした攻撃はチームの強みになる(2023年10月28日、茨城戦、オープンハウスアリーナ太田)

 3つ目の明るい兆しは、コー・フリッピンのオフェンス面での活躍だ。
 昨季、CS第2戦で21得点を挙げて琉球ゴールデンキングスをクラブ初のB1王者に導く活躍を見せたフィリッピンが、今季、サンダーズに加入した。攻守にわたり能力の高い選手であるが、開幕からオフェンス面で苦戦していた。
 その理由についてフリッピンは、「これまで在籍していた千葉や琉球は強豪チームであり、すでに(スタイルが)できあがっているチーム。(一方で)サンダーズはこれからスタイルを作り上げていくチーム。ここでは(ローテーションや選手の組み合わせによって)いろんなポジションをやらなければいけないし、状況によって自分の役割も変わってくるので、そこにフィットするのが一番難しかった」と話している。
 だが、徐々にフィリピンがチームにフィットしており、茨城戦では彼の代名詞でもあるスティールからそのままシュートまで持ち込むプレーが光った。
 水野HCも「チーム内で彼をどう生かすかという共通理解ができ始めています。彼はペイントエリアに侵入する能力がすごく高い選手で、自分でフィニッシュに行ったり、中(ペイント内)から外に展開したりするインサイドアウトというプレーをやり始めてくれていますので、それでボールが動くようになっています。彼を起点にした攻撃は今後チームの強みになっていくでしょう」とフリッピンの活躍に期待する。

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 明日からオープンハウスアリーナ太田で、西地区3位の名古屋ダイヤモンドドルフィンズと対戦する。7勝2敗、勝率0.778のチームで、前節の宇都宮戦で連敗を喫している。チームのスコアリーダーは、新加入のロバート・フランクスで、1試合平均得点は17.1点(リーグ12位)。この他、須田侑太郎、レイ・パークスジュニアなどのスコアラーもいる。彼らをいかに抑えるのかが見どころに一つになるだろう。さらに、平均リバウンド8.1本(リーグ21位)のジョシュア・スミスと、ケーレブ・ターズースキーとのリバウンド争いにも注目したい。
 サンダーズは4勝5敗で、東地区5位の順位。開幕からなかなか調子が上がらない中、3連敗を喫するなど勝てない原因を選手一人ひとりが理解している。
 「苦しい状況になってくると、個の力で打開しようとして、それが空回りしてどんどん悪い方向に行ったのが3連敗(三遠戦、仙台戦)の負けでした。アシストが多いチームが強いと思うので、今後もチームで戦う意識を持ちたいと思います」と、28日の茨城戦後に語っていた八村。
 29日の試合では、67-66とわずか1点差で勝利をつかんだことに水野HCも、「チームで戦い切ったゲームだったと思います。オフェンスで流れが悪いところが後半も出ましたが、昨日と今日のゲームに関しては、流れが悪い中でも集中力を切らさずに我慢して戦い続けられたことは、(3連敗した)三遠戦と仙台戦に比べて、チームとして成長をしていける兆しが見えてきたと思っています」と手ごたえを口にした。
 そして名古屋D戦について、「現状、西地区の上位にいる名古屋さんに対して自分たちがどこまで戦えるのか、自分たちらしいプレーをどこで出せるのか、そういうところに果敢にチャレンジしてプレーをしていきたいと思っています」と抱負を語った。
 名古屋D戦は、上位進出への試金石になるだろう。
 試合開始時間は、11月4日は午後2時5分、5日は午後3時5分、オープンハウスアリーナ太田で開催。試合会場に行けなくても今月26日までは「バスケットボールLIVE」で、無料で試合を視聴できる。

※11月4日の試合開始時間が間違っておりました。通常より1時間早い試合開始です。(11月4日午前9時13分訂正)

<了>