直近10試合で9勝1敗と、サンダーズの好調の理由を探る

超満員のファンで埋め尽くされたオープンハウスアリーナ太田。2月11日の大阪戦ではクラブ最多観客数の5754人を記録

 今季のサンダーズの目標はチャンピオンシップ(CS)に出場することだ。「優勝する」とは言わないところに意味がある。水野宏太ヘッドコーチはシーズン前の囲み取材で、「僕たちはいまだにCSに出たことのないチーム。『優勝を目指します』という前に、まずはCSのステージに立たないといけない。まずはCSに進出することを目標に、その先の優勝に挑戦していきたい」と語っていた。安易に「優勝」と口にしないところに、本気でCS進出を目指すチームの覚悟を感じた。
 新戦力では、リーグ屈指の3Pシューターの辻直人選手、抜群の身体能力を持ち、昨季の琉球優勝の立役者となったコー・フリッピン選手、ユーロリーグの強豪チームでプレーしていたベン・ベンティル選手、スラムダンク奨学生出身でシューターの木村圭吾と、シュートを得意とする選手たちを獲得した。

 今季は、開幕戦の宇都宮戦で連敗したものの、2節の横浜BC戦に連勝。これから勝利を積み上げていこうとしたところに、トレイ・ジョーンズ選手とベンティル選手の2人の主力を同時にケガで欠くことになった。その後、3連敗した後に3連勝するものの、そこから泥沼の6連敗を喫し、順位も東地区上位に浮上できず6位に沈んだ。この6連敗中に、ジョーンズ選手とベンティル選手が復帰。彼らのコンディションが上がっていくにつれ、チームも調子を上げ、1月後半から2月にかけての6連勝につながった。

ケガ明けからコンディションを上げ、エースとしてキャプテンとしてチームの勝利に貢献するトレイ・ジョーンズ選手(2024年2月10日大阪戦、オープンハウスアリーナ太田)

 今のチーム好調の理由として、まず1つ目は、ジョーンズ選手とベンティル選手のケガからの復帰が大きい。2月28日のメディアへの公開練習後の囲み取材で、今季ここまでの感想を聞かれた水野HCは、「満足はしていないですが、シーズン序盤はケガ人がいた中で、なかなかいい流れでシーズンを始められませんでした。そこで我慢して耐え抜いて、ここでようやくいい流れがきました。後半戦に入り、チームも1つ上のレベルにステップアップしていると感じます」と答えていた。
 ベンティル選手は、「中からも外からもシュートを打てる選手。優勝経験のある選手」と望んで獲得している。ここまでの3Pシュートの成功率47・9%と驚異的な数字を叩きだしている。ケガによりリーグ戦出場の85%を満たしていないため、3Pシュートの成功率のランキングには載らないものの、1位の42・5%を超える数字だ。このベンティル選手の3Pシュートの確率の高さもチームの勝利を支えている。

かつて所属していたユーロリーグのチームで、優勝経験のあるベン・ベンティル選手がサンダーズに勝者のメンタリティーを注ぎ込む(2024年2月10日大阪戦、オープンハウスアリーナ太田)

 2つ目は、選手たちがチーム内で、各々の役割を見つけられたことだ。
 ジョーンズ選手は28日の囲み取材で、「シーズン開幕はケガ人が出たりして上手くいかないことも多かった」と言いつつも、「タレントが多いチームにおいて、これまではそれぞれのチーム内で重宝されてきた選手だったのが、ここでは5番、6番目の選手としてプレーしなきゃいけなくなりました。役割が変わる中で、開幕から自分の役割を見つけていって、チームのケミストリー(化学反応)に変えていった部分が大きな改善点です」と語っている。
 例えば、琉球ではスターティング5として活躍していたフリッピン選手は、サンダーズではベンチスタートとなり、10月28日の戦後に、「ここでは自分はいろんなポジションをやっていかなかいけない。ナリさん(並里成選手)、辻(直人)さんはガードの主軸として固定されているので、(自分がコートに入った時に、)ガード2人、場合によっては3人といった状況に変わるので、そこにフィットするのが一番難しかったです」と明かしていた。シーズン序盤は、フリッピン選手が1人でボールを運んでそのままシュートに行くことが多かったが、2月11日に大阪戦でも見られたように、しっかりとボールを散らして、相手がディフェンスで的を絞れないような状況を作れるようになっている。

身体能力抜群のコー・フリッピン選手。PGとしてゲームメークにも磨きをかける(2024年2月10日大阪戦、オープンハウスアリーナ太田)

 3つ目が、1月6日の島根戦からPGのフリッピン選手をスタートから起用したのがチームに良い流れを引き寄せていることだ。
 フリッピン選手は高い位置から相手を捕らえて、自分がマークについている選手の嫌がるプレーができるため、そこで試合のリズムをつかめるようになっただけでなく、チーム全体のディフェンスの強度が上がった。
 フリッピン選手の後には、ドライブでペイントエリアに切り込んでオフェンスにリズムを作る並里選手、持ち前のディフェンス力で流れを引き寄せる菅原暉選手が控えており、それぞれが特徴を生かしたゲームメイクをできることがチームの強みになっている。

 4つ目はチーム全体のオフェンス力の向上だ。
 「(1月20、21日の)京都戦ぐらいからボールをしっかり回し、それに合わせてドライブでペイントエリア内に侵入することを増やしていきながら、(相手の)ディフェンスを収縮させてリング付近でのフィニッシュ(シュート)、もしくはキックアウト(パスを内から外に出すこと)から3Pシュートに持って行けるようになりました。さらに、相手のディフェンスを動かして、複数回のアクションを起こしながら、アグレッシブに(リングに)アタックすることがしっかりとできるようにもなりました」と水野HCはオフェンス面でのチームの成長を口にする。
 水野HCは、「スピード」「フロー」「スクリーン」「スペース」の4つのキーワードで選手たちにオフェンスの考え方を伝えている。このキーワードをベースにトレーニングを積み重ねた結果、今ではボールや人が動くようになり、チームが求めているオフェンスを表現できるようになっている。

急成長の八村阿蓮選手。外国籍選手とのマッチアップでも当たり負けない強さを持つ(2024年2月11日大阪戦、オープンハウスアリーナ太田)

 5つ目はディフェンス力の向上と逆転のメンタリティーが養われたことだ。
 「少しずつ(戦術の)遂行能力が上がってきて、何よりもチームとして諦めないようになってきた」と水野HCは言うように、試合前半は負けていても、我慢しながら後半で勝てるようになってきた。
 例を挙げると、1月31日の北海道戦。2Q終盤で36-27と負けている中で、辻直人選手の3Pシュートが立て続けに3本決まり、38-36で前半を終えて勝利につなげた。この試合では、これまでやったことのないディフェンスのマークの仕方(カバレッジ)を試していた。最初は上手く機能しなかったものの、皆で我慢しながらゲームの中で自分たちで考えながら修正し、94-82と勝利を手繰り寄せている。
 また、2月7日の仙台戦でも、4Q残り1分19秒でネイサン・ブースに3Pシュートを決められ71-76と点差が開いたが、そこで誰一人諦めることなく戦い続け、そこからベンティル選手が3Pシュート2本、フリースロー2本、マイケル・パーカー選手が2Pシュートを決め逆転に成功。終了間際に相手に3Pシュートを決められるものの、81-79で逃げ切っている。水野HCも「あの試合は誰一人、諦めることなくしっかり最後までやり切ることができました。チームとしてのそのメンタリティーが徐々に成熟する方向に向かっていると思います」と語った。

 そして7つ目が、チームが1つにまとまっていることだ。
 今季、サンダーズの選手は13人。試合に登録できるのが12人。必ず誰かがベンチから外れる。「やっぱり選手でやっている以上は、自分のキャリアアップを考えて試合に出たいと思うんです。例えベンチ入りできなくても試合に出られなくても、選手たちはしっかりと自分の役割を見つけて、すごく一生懸命にやってくれていると感じています。対戦相手をイメージした練習では、レギュラーのPGにプレッシャーをかけてくれたり、試合中にベンチからチームを盛り上げてくれたりして、今、自分にできることを探して懸命にやってくれています。それがチーム力向上の助けになっています」と感謝の言葉を口にした。
 チームについて、今季、日本で初めてプレーしているベンティル選手も笑顔でこう語る。
 「チームの雰囲気もとても良いですし、チームメイトにもすごく助けてもらっています。このリーグではどうプレーしたらいいのか、どういう特徴があるのかも教えてくれます。僕はチームメイトがとても大好きです」
 囲み取材でファンへのメッセージを求められたとき、「今日、めっちゃ調子いいわ」とクラブのYouTubeチャンネルの「ボール取りゲーム」で披露していた日本語で、記者たちを笑わせてくれたベンティル選手。クラブ誕生からずっと取材を続けている筆者から見ても、今季のチームが一番まとまりがあり、雰囲気が明るく活気があるように思える。実に良いチームだ。

 今季も残り21試合となった。サンダーズの成績は21勝18敗で東地区5位である。目標のCSに進出するためには、東地区2位以内、もしくは各地区2位を除いた東・中・西の3地区を合わせたワイルドカードの順位2位以内に入らなければならない。東地区の1位がA東京、2位が宇都宮といずれも32勝7敗で、サンダーズが2位以内に入るのは残り試合を考えると厳しい状況にある。そこで狙うのはワイルドカード2位以内だ。現在の1位は千葉Jで25勝14敗、2位は島根の22勝17敗。3位SR渋谷~7位のサンダーズまで21勝18敗と5チームが同じ勝率で並ぶ。現在の好調さが維持できれば、ワイルドカード2位以内に入る可能性は十分にある。
 では残り21試合でサンダーズはどんな戦いを見せてくれるのだろうか。
 「僕たちはタレントの揃ったチームです。直近10試合のようなプレーがこの先もできたら、自分たちにとても良い形でシーズンを終われるんじゃないかと思っています。皆で一つになってCS進出を目指していきたいと思っています」とジョーンズ選手。
 水野HCも「CS進出、そしてその先の頂に挑戦するために、残り21試合、全力で戦います。そして皆さんも一緒に戦ってください。見たい景色を、皆さんと一緒に見られるように、全力で努力していきたいと思います」と力強く抱負を語った。
 これからの21試合で、サンダーズはさらなる成長を見せてくれるはずだ。目標のCS進出に向けて、負けられない試合が続く。

<了>