群馬の高校野球2023夏 太田高校編①

「つながりノート」で自分を客観視し、他者理解を深めるチーム作りでチーム力を高める

つながりノート。互いの考えや思いを共有し、チーム力強化につなげている。右下はキャプテンの石倉希実の「個人ノート」

 太田高校硬式野球部ではチーム力強化のために野球ノートを活用している。その名も「つながりノート」。数人のグループに分け、グループ内でノートを書いていく。練習や練習試合で出た課題はもちろん自分の考えを仲間と共有するためのものだ。ノートの狙いは、互いの課題を共有し、互いに現状をどうとらえているかを理解するためで、いわゆる「他者理解」の効果もある。もちろんノートを書くことで自分を客観視するという効果もある。
 文武両道の太田は公立校の中で躍進が期待されるチーム。ここでは、野球ノートを活用した太田のチーム作りと今夏の戦力について紹介しよう。

取材/Eikan Gunma編集部

 6月18日に東京学館新潟と練習試合をした時のこと。太田は8回まで5-4でリードしていたが、9回裏2アウトの守備の時にエースの宮下誉生が投げた緩い球がホームランとなり、延長戦に持ち込まれた。10回に1点を挙げて再びリードした太田だったが、その裏の最後の打者となるはずの場面で、ショートゴロをキャプテンの石倉希実がエラー。そこで本来ならピンチになってもキャプテンやエースがチームメイトに声をかけるべきところを2人とも肩を落としてしまった。次に迎えた代打の選手にヒットを打たれ逆転負けを喫した。
 この練習試合を通じて2年生のある選手は、勝てるチームがどういうものなのかをノートに記している。
 「今日の1試合目(東京学館新潟戦)はいい試合であったが勝てなかった。この試合が大会だったら、結局勝てるチームではなく、良いチームで終わってしまっていた。(2年先輩の)阿部圭汰さんも夏大後に『良いチームにはなれたが、勝てるチームにはなれなかった』と言っていた。先生方や先輩の話を聞いていると勝てるチーム、太田で言うと(2年前の)澤田(大和)さんの代は岡田先生をはじめとする先生方をこえてくる人たちが何人もいた。ということが勝てるチームの雰囲気の1つなのだろう」

 岡田友希監督は、「物事の本質を理解することが大切」だと言う。それは「練習をやらされているだけではうまくならない。なぜその練習が必要なのかを考えて実践することが大事」だからである。この2年生のノートを見ると、勝てるチームになるためにどうしたらいいのかを真剣に考えている。
 また、ノートには他者理解を深める効果がある。先ほどの東京学館新潟との練習試合では、エラーでキャプテンが落ち込んだ時や、ピンチでエースが冷静さを失っている時に、誰かが声をかけていれば状況は変わっていたかもしれない。太田高校硬式野球部は、例えるなら「喉が渇いているときに、さっと水を差し出せるようなチーム」(岡田監督)を目指している。
 
 夏の大会に向け岡田監督にとってもチームとの向き合い方に変化があった。今年6月16日の抽選会の日に、昨年のキャプテンの小林風斗からLINEが入った。
「真剣勝負を楽しんでください」
 この言葉に岡田監督は、「去年勝てなかったのもあり、今年は去年の分まで勝ちたいという思いが私の中で強くなっていた」という自分に気づいた。そして、「やることをやって、子どもたちに純粋に野球を楽しませてあげたい」と思うようになった。
 
 岡田監督は時に効果的な言葉を生徒たちに投げかける。エースの宮下も岡田監督の言葉に奮起した一人。昨春の準々決勝・健大戦で、3-2でリードしていた7回に宮下がマウンドに上がると、先頭打者にスリーベースを打たれ3-6で逆転負けを喫した。宮下がチームを勝たせられなかったことに落ち込んでいた時に、岡田監督は2021年の春の大会で太田に10-3で敗れた時の前橋育英のエース・外丸東眞の話をした。
 「外丸君は、ウチに負けた後に1、2日ぐらい泣きじゃくって、その後、誰よりも早くグラウンドに来て、誰よりも遅く帰っていくようになったと聞きました。彼の練習に向き合う姿勢、取り組みについて、宮下に話しました。今では外丸君は慶応大学のエースです」(岡田監督)。
 この話を聞いた後、宮下も朝早く学校に行き、約1時間半の練習をしてから授業を受け、また放課後は誰よりも遅くまで練習するというように野球への取り組み方が変わった。

組織的な守備でリズムを作る

 今年の夏は、チームの雰囲気を大切にするキャプテンの石倉、エースの宮下、4番打者として・守備の指示を出す扇の要としての役割を担う布川大翔を中心に、「頭脳プレー」で強豪私立に挑む。
 チームの良さは組織的な守備ができるところ。相手のデータを頭に入れ、打球を予測して二段構えの守備を徹底する。守備の指示を出すのは捕手の布川で、岡田監督からの信頼を得ている選手である。また、力のあるストレートと6種類の変化球を操るエースの宮下と共に昨夏を経験している制球力のある木部広太の二枚看板で守りから流れをつかむ。
 攻撃では、1番飯島暖太、2番石倉が出塁してチャンスを作り、3番植野陽太がつないで、4番布川でランナーをホームに返すのが得点パターン。布川は持ち前の長打力と経験を生かして打撃でもチームを牽引する。
 チームが目指すのはもちろん甲子園。明治33年の創部以来、先輩たちの思いを力に変えて悲願の甲子園初出場に挑む。届きそうで届かなかった憧れの球場。太田の選手たちは先輩たちと「つながる夏」を迎える。

<了>