応援してくださる皆さんのために、これまで培った経験をチームに還元する。

群馬クレインサンダーズ
五十嵐 圭

確実にフリースローを決める五十嵐圭選手(2023年1月18日A東京戦、太田市運動公園市民体育館)

 Bリーグができる以前から日本のバスケットボール界を盛り上げるために貢献してきた五十嵐圭選手。サンダーズは今シーズン、文化づくりに本腰を入れて取り組んでいるが、この文化づくりはBリーグ最年長の五十嵐選手の目にどう映っているのだろうか――。
 今シーズンは4月8日にチャンピオンシップ(CS)に進出できるワイルドカード2位以内が確定。ワイルドカードでCS進出を目指していたサンダーズの目標は実現できなかった。この取材をした2月27日に、「7割以上の勝率を上げないとワイルドカードでCSに進出することさえも難しい」と語っていた五十嵐選手の予想が的中。昨シーズンの優勝チームだった宇都宮ブレックスさえもCS進出を逃している。強豪チームとの格差が広がっている理由についても触れてもらった。

文/星野志保(EIKAN GUNMA編集部) 写真提供/群馬クレインサンダーズ
取材日/2023年2月27日

――いよいよ4月15日に、新アリーナでの試合が始まりますね。どんな気持ちですか。

 僕がこのクラブに移籍してきた理由の一つに、新しいアリーナでプレーしてみたい、新アリーナができるまでの道筋を自分自身も体験してみたいというのがありました。今まで約20年間トップリーグでやってきて、新アリーナで試合ができる経験は今までなかったですし、こうした経験は自分が現役でいられるうちではこれが最後だと思うんです。新アリーナでプレーするのはどんな景色なんだろう、どんな雰囲気になるんだろうって考えると本当に楽しみです。
 昨シーズン、このチームはB2で圧倒的な強さで優勝してB1に上がりました。僕もこの年齢(今年5月で43歳)になりながら、また新たな挑戦をしてみたい、そして新しいアリーナの景色を見てみたいと思っていたときに、吉田真太郎GMに声をかけていただいて、サンダーズに移籍することになったんです。「これから何かを起こそう、起こしたい」という吉田GMの切実な思いと、僕の「新たな挑戦をしたい」という思いが重なったので、これからの自分のバスケットボール人生も楽しみだなと思い、サンダーズへの移籍を決断しました。
 僕が移籍をする以前もそうですし、移籍をした昨シーズンにも感じたのは、「まだまだ群馬県、そして太田市の中でバスケットボールや群馬クレインサンダーズというチームがまだまだ認知されていないな」ということです。サンダーズの今シーズンのスローガンである「ONE」に向けて、自分たち自身もそうですし、群馬県民の皆さん、応援してくださる皆さん、チーム関係者の皆さんが一つになることで、サンダーズというチームの結果につながっていくのだと思います。結果を出すのはコートに立ってプレーしている自分たちなので、いろいろな人たちの思いをしっかりとコートで表現できるように戦っていきたいなと思います。

――昨シーズン、サンダーズに移籍してからずっと、「文化の重要性」を語っていました。今シーズンは吉田GMがクラブの文化づくりに本腰を入れています。

 今、日本のバスケットボール界に一番重要なのは行政の支援です。(サンダーズの運営)会社や応援してくださる皆さん、行政の人たちが一つのチームにならないと文化は作っていけません。一つになることで地域活性化にもつながります。そして自分たちからしっかり発信しながら、その中で結果も残していく。強いチームになるには、自分たちだけじゃなく、応援してくださる皆さんも一緒に戦うという思いを持ってもらうことが必要だと思います。皆さんに「応援したい」と思ってもらうチームにするのは自分たちの役割だと思いますし、それは今シーズンだけでなく、これからのサンダーズにとっても必要なのかなと思います。

――サンダーズにとって今シーズンが文化づくりの1年目になります。五十嵐選手の目から見て、その文化はできつつあると思いますか。

 文化は、自分たちが作ろうと思ってできるものではなく、自分たちがやっていることに対して周りの人たちがそれを認めてくれて、「サンダーズを応援していこう」「群馬県や太田市を盛り上げていこう」となって作られていくものだと思うんです。やはり1年で文化を作るのは難しいと思います。僕がサンダーズの前に在籍していた新潟アルビレックスBBは2000年に日本で初めてできたプロチームなんです。僕が在籍していた5年間の中で感じた文化に比べると、サンダーズはまだまだ文化ができていると言えないと思います。新潟は誕生してから23年経っているので、できている文化もあります。それに比べて群馬はまだ文化づくりの1年目で、しかも拠点を太田市に移したのが昨シーズンですから。僕たちができるのは、結果を残していきながら、やれることをやりながらチームを作っていくことで、自然と文化ができていくものだと思っています。そして、僕たちの試合を見て、「また見に行きたい」「もっともっと応援したい」と思ってもらえるようなプレーを今シーズンもやり続けなければなりません。新アリーナではもっと多くのファンやブースターの皆さんに足を運んでもらいたいですし、皆さんが(日常の一部のように)自然とアリーナに足を運んでもらえるようになったときに、文化ができていくのではないでしょうか。

相手の激しいディフェンスをかわし、シュートを放つ五十嵐選手(2022年12月14日北海道戦、太田市運動公園市民体育館)

――昨シーズン、チームが一つになる重要性を指摘していましたが、今シーズンは水野宏太HCがコミュニケーションをとても大事にしています。五十嵐選手から見て、今シーズン、チームのここが変わったなと思うところはありますか。

 今シーズンは、チームの細かい部分でのルールが徹底されていることが多いのかなと思います。コミュニケーションのところでは、試合中にヘッドコーチだけでなく、アシスタントコーチ、スタッフ、コートに出ている選手がコミュニケーションを取っています。もしコミュニケーションが取れていないときは、タイムアウトを取ってしっかりコミュニケーションを取るようにしています。そこは選手たちが意識してやっているので、周りから見ても昨シーズン以上にコミュニケーションをとっているというように見えるのかなと思います。

――コミュニケーションを取れているところが、今の東地区3位(2月27日現在)という結果に表れていると思いますか。

 そうですね。思うような試合ができているときと、できていないときがある中で、何とかチャンピオンシップ(CS)に進出するためには残りの試合がすごく重要になります。特に同地区(東地区)のチームに正直あまり勝てていなくて、残りの試合は同地区との対戦が多いので、自分たちがどれだけ意地を見せられるか、やり切れるかが、CS進出につながっていくのかなと思います。

――今シーズンは、チームが五十嵐選手に求めていることは変わってきましたか。

 プレータイムが少なかったり、試合に入れないときもある中で、とにかく自分がコートに出たときに、チームに足りないところだったり、必要としているところを補えるように心がけています。今シーズンはプレータイムが長かったり短かったりして、これまで経験したことがないシーズンでもあるので、難しさは感じています。その中でもコートに立ったときはしっかりと表現できるようにと思っています。

――2月5日のシーホース三河戦では、4Qの終盤に、五十嵐選手、トレイ・ジョーンズ選手、並里成選手と、3人のガードが一緒にコートに立ちました。三河に逆転の可能性もあった中で無事にリードしたまま試合を終わらせました。そのときに3ガードというシステムに驚きましたが、それは3選手がベテランだからこそ、接戦の中で相手の逆転につながるプレーを防ぐという目的が達成できたのだと思いました。

 試合の終わらせ方は自分もまだ完璧ではないですが、時間と点差を計算しながら「こういうふうにやればいい」っていうのは自分の中にあるので、ああいう場面で試合に出るのは今シーズン初めてぐらいだったんですけど、落ち着いて今までの経験をコートの中で還元できればいいなと思っていました。

今季はSGとして出場することも多く、積極的にシュートを狙っている(2023年1月18日A東京戦、太田市運動公園市民体育館)

――今シーズンは、苦しい場面での五十嵐選手の3Pシュートに救われるシーンがあります。それでチームが勢いづいた試合もありました。特にアウトサイドシュートは意識している部分ですか。

 アウトサイドシュートは得意なところでもあります。自分ができる得意なプレーでチームに貢献できれば……という思いもあります。今シーズンはPG(ポイントガード)というより、SG(シューティングガード)で試合に出ることが多いので、今までよりも得点を意識しています。それが思い切りよくシュートを狙えている要因の一つなのかなと思います。

――昨季の五十嵐選手のサンダーズへの加入会見の際、大学時代の後輩でもある吉田GMが「ケイさんを日本一にしたい」と言っていました。サンダーズは、優勝できるチームになるために進化していると感じますか。

 進化していないとは言わないですが、Bリーグのレベル自体が上がってきています。特に外国籍選手のレベルも上がり、日本国籍に帰化する選手も増えていて、CSに進出するだけでもかなりの高い勝率を残さなければならなくなりました。以前だと、勝率5割ぐらいでワイルドカードに引っかかるぐらいのレベルだったのが、今シーズンは7割以上の勝率を上げないとワイルドカードでCSに進出することさえも難しくなっています(※1)。もちろん、チームとしては一歩ずつ成長していますが、CS進出はそう簡単ではないなと感じています。

※1 今シーズン、CSに出場できるワイルドカード2位までのチームの勝率は、1位の広島が.755、2位の名古屋Dが.714だった。ちなみにサンダーズは.490。(2023年4月8日現在)

新アリーナでも五十嵐選手の活躍に注目したい

――いよいよ4月15日から新アリーナでプレーします。多くの観客が訪れると思いますが、「プレーのここに注目してくれ」というのはどこでしょう。

 Bリーグ最年長選手ですが、そんな選手でもコートに立って少しでもいいプレーを見せられれば、応援してくださる皆さんに元気や勇気を与えられることにつながると思います。まずは試合を楽しんでもらいたいのと、新アリーナの雰囲気も楽しんでもらえたらうれしいですね。

――最後に、五十嵐さんのようにプロバスケットボール選手になりたいと思っている子どもたちにアドバイスをお願いします。

 今は、昔に比べてプロ選手になりたいという明確な夢を持てる環境に日本のバスケットボール界もなってきています。
 子どもたちにアドバイスするなら、最初は手の届くような小さな目標でもいいんですが、「将来Bリーグの選手になる」「NBAの選手になる」というような大きな目標を持って、少しずつ自分の課題をクリアしながら最終的にその夢をつかんでもらいたいと願っています。
 子どもたちの夢を壊さないように、自分たちもコートの中はもちろんコートの外でも、「こういう選手になりたい」と思ってもらえるような言動をしていかなければならないと思っています。

<了>

■Profile
五十嵐 圭(いがらし・けい)

1980年5月7日生、新潟県上越市出身、直江津東中学~北陸高校~中央大学~日立サンロッカーズ(2003~09年)~ トヨタ自動車アルバルク(09~10年)~三菱電機ダイヤモンドドルフィンズ(10~16年)~新潟アルビレックスBB(16~21年)。中央大時代にスピードを買われて頭角を現し、ヤングメン(U-21)世界選手権代表候補となる。2004年に初の日本代表入りし、06年に日本で開催された世界選手権に司令塔として出場。Bリーグ初年度に地元の新潟に移籍し、5シーズンを過ごした。2021-22シーズンに群馬クレインサンダーズに移籍。オープンハウスがサンダーズの経営に関わるようになってから大学の後輩でもある吉田GMにバスケット界のことについてアドバイスをしていた経緯があり、移籍前からサンダーズを気にかけていた。今年43歳を迎えるBリーグ最年長選手。180㎝・70㎏、ポジションはポイントガード(PG)、背番号7。