金の卵が殻を破り始めた。髙橋光成の心・技・体

埼玉西武ライオンズ
髙橋 光成


*埼玉西武ライオンズの髙橋光成投手が2021シーズンの開幕投手に選ばれた。プロ7年目でようやくつかんだ「エースの座」。髙橋光投手の今シーズンの活躍に期待し、2019年4月に地元スポーツ誌に掲載した記事を紹介しよう。

©星野編集事務所 ©菊地高弘 ©伊藤大充 ©野本浩一郎


取材日の2019年4月3日は、トレーニングに汗を流した後でインタビューに応じてくれた。プロ野球選手としての余裕が見られ、精神的に成長した印象だった 撮影/伊藤大充

プロ生活4年間で高い期待を受けながら、結果を出せずにいた逸材・高橋光成(埼玉西武ライオンズ)。野球人生の正念場を迎えた高卒5年目、明らかな変化が目につく。前橋育英時代には全国制覇を成し遂げた“群馬の宝”に何が起きたのか? 本人がその内幕を明かした。

文/菊地高弘 写真/伊藤大充、野本浩一郎

「ホープ」→「伸び悩み」
瀬戸際で見えた希望の光

 髙橋光成が変わった――。
 それは漠然とした印象だけではない。アスリートとしての心・技・体のすべてで、2019年は明らかな変化が見られるのだ。
 2013年夏には2年生エースとして前橋育英を甲子園優勝へと導き、14年秋のドラフト会議では埼玉西武ライオンズから1位指名を受けた。プロ入り後も1年目から5勝を挙げ、まさに順風満帆な野球人生。髙橋は「金の卵」と呼ばれてきた。
 だが、その後は年を追うごとに、勝ち星が1つずつ減っていく。とうとう昨季は2勝。髙橋を言い表すフレーズは「ホープ」ではなく、「伸び悩み」へと変容していった。
 近年悩まされている右肩痛に、荒れるコントロール。解消すべき課題は山積みだった。最初に訪れた大きな変化は極めて外面的なものだった。背番号が変わったのだ。
「球団から『13番をつけないか?』という話をいただいて、うれしい半面、責任が大きくなったなという実感がありました」
 髙橋は昨年オフの出来事をそう振り返る。入団時に背負った「17」から「13」へ。西武にとって背番号13は、かつてのエース・西口文也(現1軍投手コーチ)がつけた番号である。西武一筋21年で通算182勝を挙げた西口のイメージが染みついた、特別な番号を高橋が背負うことになった。
 背番号を託したのは渡辺久信GMである。群馬出身のよしみということもあるのか、渡辺GMが髙橋に高い期待を抱いていることは間違いない。そして、それは菊池雄星(現マリナーズ)が退団した危機的チーム状況と無縁ではないだろう。
 昨季、10年ぶりにリーグ優勝を果たした西武だが、過去3年で42勝を挙げていたエースが抜けたことは「痛手」という言葉では収まりきらない損失だった。
 そんなエースの置き土産だったのだろうか。2019年1月、髙橋は他の若手選手とともに沖縄・石垣島での菊池の自主トレーニングに帯同した。ここで髙橋は菊池からプロとして厳しい指摘を受ける。
「僕は人に流されやすい性格で、トレーニング中でも気持ちがフワフワしているところがありました。雄星さんからは『自分というものを持ってやりなさい』とメッセージをいただきました。何をするにしても自分の体なので、自分のことは自分でやらなければなりませんから」
 髙橋は群馬県沼田市で生まれ育ち、良くも悪くも茫洋とした気質の持ち主である。のんびりした雰囲気を菊池から諭され、髙橋は一層トレーニングに励んだ。
 肉体的にも大きな分岐点を迎えていた。今まで重視してこなかったウエートトレーニングに、本格的に取り組んだのだ。
「今まで、僕の中でウエートトレーニングのイメージは『重いものを持ち上げて、体を大きくする』というものでした。でも、今回は体を大きくするためではなく、自分の体をうまく操れるようにするため。投球動作につなげるための土台を作ろうと、ウエートに取り組んだんです」
 体重はどんどん増え、最大で105キロまで増えた。だが、髙橋の体感として「重い」と感じることはなかった。身体操作性にこだわってトレーニングを積んできたからこそ、むしろ感覚は研ぎ澄まされていった。髙橋は菊池との自主トレを「一瞬、一瞬が勉強になりました」と総括する。
 2月1日から始まる春季キャンプ、髙橋は2軍に相当するB班からのスタートになった。だが、髙橋は屈辱を感じるわけでも負けん気を刺激されるわけでもなかった。
「悔しさはまったくなかったです。1軍がよくて、2軍がダメというわけではないですから。いいスタートを切れるように準備するだけです。その意味では集中してできたと思います」
 ウエートの効果で、髙橋の中でいい感覚が徐々にふくらんでいる。昨季までの高橋は投球のフィニッシュで体がグラつくシーンも多々見られたが、今季は実にどっしりと安定した投げっぷりを見せている。
「しっかりと軸足で立てて、フィニッシュも安定しています。1球1球のムラも小さくなってきたので、ちょっとコントロールがよくなったかな……という実感はあります。前よりも、自分が動かしたいイメージ通りに体が動いているように感じるんです」
 技術的にはスライダーの曲がり幅を抑え、カットボールとして頻繁に使うようになった。ストレートの軌道からわずかに変化させることで、打者が手を出してくれるようになった。髙橋が「カウントを簡単に取れてラクになった」と語るように、この球種によって快速球と決め球のフォークがより生きるようになった。

2019年5月8日に地元・群馬の上毛新聞敷島球場でプロ2度目の凱旋試合を経験
 撮影/野本浩一郎 (*新規追加写真)

 そしてもうひとつ。髙橋が「一番大きく変わった点じゃないですか」と照れながら笑う変化がある。それは、結婚である。
「同じ群馬の人なので地元トークもできますし、価値観が合うので安らげます。今年から寮を出たんですが、奥さんが栄養面について勉強して料理を作ってくれるので、心身ともに支えられています」
 そして引き締まった表情で、「野球の結果で返さないといけないと思います」と続けた。
 キャンプはB班スタートでも、順調に調整をこなした髙橋は途中で1軍に合流する。3月12日のオリックス・バファローズとのオープン戦では、5点リードの9回裏に味方のエラーもあって6失点。大逆転サヨナラ負けを喫する落とし穴もあった。それでも髙橋は「途中まで(直前の4イニングは無失点)は悪くなかったし、いいことを考えよう」と切り替えて前に進んだ。
 今季初登板となった3月31日の福岡ソフトバンクホークス戦では黒星を喫したものの、7回3失点と先発投手として最低限の仕事はできた。髙橋は「バタバタすることなく投げられたので、ああいう投球を年間通してできれば勝ち星はついてくると思います」と手応えを語った。そしてその言葉通り、髙橋は黒星直後から2連勝(4月15日現在)を挙げ、早くも昨季の勝利数に並んだ。もちろん、それは通過点でしかない。髙橋は以前から「年間通して活躍してこそプロ」という信念を語っている。この取り組みや感覚を継続できれば、髙橋は5年目の今季にキャリアハイとなる1年を送れるに違いない。
 本人の中に、今までにない手応えがあるのだろう。髙橋は胸を張って言う。
「1年目はただガムシャラにやってきました。でも今は、少しは野球のことを考えられるようになってきました。野球が好きという思いは変わりませんが、意識が変わったことは大きいと思います」
 5月8日には群馬・上毛新聞敷島球場での公式戦を控えている。開幕直前のローテーション変更があり、髙橋にとって凱旋登板になるかは不透明だ。だが、髙橋には並々ならぬ思いがある。
「正直に言って、去年までは群馬だから……という思いはなかったんです。でも、オフに中学の同級生と会って『今年は本当に投げてくれよ!』と言われて……。2年間投げていないので『いいところを見せたい』という気持ちが強くなりました」
 心身ともにひと回り大きくなって、髙橋光成が群馬に帰ってくる。

<了>

■Profile
髙橋光成(たかはし・こうな)
1997年2月3日生まれ、沼田市出身。利根中を経て前橋育英に進学。2年夏にエースとして全国制覇に導いた。2014年ドラフト1位で西武に入団。1年目から5勝をマークした。最速154キロの快速球とフォークを武器に投球を組み立てる。