日本一を目指す群馬クレインサンダーズ。太田市への移転は必然だった

 前橋市をホームタウンとして活動している群馬クレインサンダーズ。来シーズン(2021-22シーズン)からの活動拠点を太田市に移す。2023年に太田市運動公園に完成するB1基準を満たす新体育館をサンダーズがホームアリーナとして使用することになる。
 2011年のクラブ創設時は伊勢崎市がホームタウンだった。2016年のBリーグ誕生に伴い、前橋市に拠点を移している。来季の太田市への移転は2回目となる。2月12日に群馬県公社総合ビル(前橋市)で開かれた「ホームタウン太田市変更に関して」の記者会見を基に、なぜ太田市への移転が必要だったのかを探っていく。

取材/星野志保(Eikan Gunma編集部)

ホームタウンを太田市移転する経緯について語る群馬クレインサンダーズの運営会社である群馬プロバスケットボールコミッションの代表取締役の阿久澤毅氏(右)と同取締役の吉田真太郎氏(2月12日、群馬県公社総合ビル)

ホームタウンを太田市へ
移転させる背景とは――

 現在、サンダーズのホームアリーナは、ヤマト市民体育館前橋だ。来シーズンもB1ライセンスを取得するためには、収容人数5000人規模のアリーナが求められる。
 当初、現在のホームタウンである前橋市は、サンダーズのために体育館の座席数を増設する工事を行う予定だった。来シーズン、サンダーズがB1で戦うことになれば、さらに客は増える。ヤマト市民体育館前橋の問題は、駐車場が400台しか確保できないことだ。そのためホーム戦ごとに近隣の駐車場を借りなければならない。しかし昨シーズン、試合を楽しみにしていた客が有料チケットを持っているにもかかわらず、体育館の駐車場は満車で周辺の駐車場も見つからず、観戦をあきらめて帰ってしまうという事態が起きた。一方で、今シーズンの11月に太田市運動公園体育館で開催された試合では、クラブ史上最多の1514人の観客数を記録したものの、駐車場が不足するという事態は起こらなかった。太田市運動公園内は約1200台の駐車が可能。ちなみに、ラグビーのトップリーグに所属するパナソニック ワイルドナイツ(8月に熊谷市に移転予定)が同公園内の競技場で試合をしており、公園内の駐車場だけでなく、隣接する企業の駐車場も借りることもある。もし、サンダーズの試合で公園内の駐車場が足りなくなっても、観戦に来た客が駐車場に車を止められない事態は避けられる。ホームタウンの移転の理由の一つに、こうした駐車場問題があったのだ。

 もう一つの移転理由として、体育館の構造もある。ヤマト市民体育館前橋に限らず一般的な体育館は、大勢の客がスポーツを観戦することを目的とした構造になっていない。プロスポーツの興行では客を楽しませるためにダンスなどのさまざまなイベントが行われる。それを盛り上げるのに欠かせないのが音響設備。ヤマト市民体育館前橋では音が反響して、MCの声でさえ聞きにくい。プロスポーツの観戦で当たり前のように設置されているVIPルームの提供も、今の体育館では難しい。観客がスポーツを見て楽しめる「夢のアリーナ」を実現するためには、スポーツをするだけでなく、見ることにも主眼が置かれたアリーナが必要だったのである。太田の新アリーナはこれらの問題も解決してくれる。
 さらに新アリーナでは、ホーム戦ごとにビジョンや座席などの機材を体育館に出搬入する必要がなく、座席数を増やす手間も省けるため、年間数千万円規模でのコスト削減が図れるという利点もある。

 また、太田市の「スポーツで街づくりをする」という考え方と、クラブの「バスケで群馬を熱くする」という思いが合致したのも大きい。阿久澤社長が「スポーツで街づくりをしていくという熱量に、強くひかれた」と話したように、太田市が協力を申し出たことも、ホームタウン移転の決定打となった。

2026年に新B1が誕生。参入には
24年までに条件を満たす必要がある

 Bリーグは2026年から、B2リーグの上に昇降格のない新B1リーグを設立する予定。その新リーグに所属するためにはBリーグが定めた条件をクリアしなければならない。現在、リーグから発表されている条件は、①売上高12億円、②平均入場者数4000人、③地元行政の結びつきの中で、自由度を持ってアリーナを使える状況を獲得していく、という3つである。これを判定する最初の会議は2024年に開かれる。B1昇格のみならず、近い将来の日本一を目指すサンダーズにとって、この2024年の会議までにこの3つの条件をクリアしておきたいところ。

昨年7月15日に太田市役所内で行われた太田市との地域活性化に関する包括連携協定締結調印式で、記念撮影に応じる太田市長の清水聖義氏(左)と群馬プロバスケットトールコミッション代表取締役社長の阿久澤氏

 ①「売上高」については、2019年が1億6800万円、コロナ禍でシーズンの3分の1が中止になった2020年は約5億円と、サンダーズはB2リーグでトップの数字をたたき出している。昨年7月にサンダーズの運営会社が株式会社オープンハウスの完全子会社になったことで、新加入選手をすべてB1経験者から獲得するなど積極的な補強をしただけでなく、Bリーグの立ち上げに関わり、JリーグやNPBのフロント経験のあるスタッフを採用するなど、クラブの根幹を支えるフロントスタッフの強化にも力を入れている。サンダーズのホーム戦の運営を見ていると、「会場に足を運んでくれたお客様に楽しんでもらいたい」との気持ちが伝わってくる。YouTubeで公開されているドキュメンタリーのような質の高い映像は、CM製作会社出身のスタッフが手掛け、選手たちの魅力をサンダーズファンやバスケファンに発信している。今シーズン、チームは33連勝を記録するなど勝率9割超えという快進撃で群馬県民の注目を集めている。運営や営業、広報といったフロントスタッフの努力により、コロナ禍で観客数に制限がある中でも観客は確実に増えている。このままクラブが成長していけば、売上高12億円は夢の数字ではないだろう。ちなみにB1に所属する千葉ジェッツの昨年の売上高は17億円、琉球ゴールデンキングスが9億円だった。

 ②「平均入場者数4000人」も今のサンダーズにとっては高い壁だ。今季は、10月13日のヤマト市民体育館前橋での開幕戦で1303人、翌14日に1175人、11月14日の太田市運動公園市民体育館で1403人、翌15日には1514人を記録。平日開催を除き、最近は、土日共に各日平均1000人前後の入場者数を確保できている。7月15日の「太田市との地域活性化に関する包括連携協定締結調印式」で阿久澤社長は、「東毛地区のファンクラブへの入会率が8%」と明かしており、来シーズンからの太田市へのホームタウンの移転で、東毛地区のファンが増えることが見込まれる。B1に昇格すれば、トップレベルのプレーを見ようと、県内外から多くの客が訪れようになるだろう。1200台収容の駐車場に5000人収容できる新アリーナなら、平均入場者数4000人は実現可能な数字と言ってもいいだろう。

 ③「地元行政の結びつきの中で、自由度を持ってアリーナを使える状況を獲得していく」という条件は、行政の協力がなくては実現できない。新アリーナは太田市がサンダーズを誘致するために建設するもので、③の条件はクリアできる。長年にわたり、パナソニック ワイルドナイツの本拠地だった太田市は、スポーツが持つ地元への経済効果を理解している。昨年7月15日の「太田市との地域活性化に関する包括連携協定締結調印式」で清水聖義市長は、「ここ(新アリーナ)でサンダーズの試合ができれば」と誘致に意欲的だった。
 太田市がサンダーズの誘致に積極的だったのは、地元の経済が活性化するからだ。例えば、サンダーズがB1に昇格すれば、来シーズンは日本のトップレベルのバスケットを見ようと多くの客が訪れることになるだろう。試合を見に来た客が飲食をしたり、宿泊をしたり、公共交通機関を使ったり、観光をしたりして、地元経済が潤う。経済が活性化すれば、雇用創出にもつながる。その効果は太田市だけにとどまらず、大泉町などの周辺地域にも波及する。大泉町は、ブラジル料理の店やブラジルの食材を扱うスーパーなどがあり、群馬にいながら異国情緒を体験できるという魅力もある。
 従来のように行政はただクラブに体育館を貸せばいいというのではなく、行政とクラブが一体となって地元のプロスポーツチームを盛り上げていくことは、地域経済の発展にもつながっていく。太田市の協力のもと、サンダーズが自由度を持って使える新アリーナの誕生は、26年に新B1リーグ参入を目指すサンダーズにとってもありがたい話なのである。

 とはいっても、新アリーナが完成するのは2023年の予定だ。来シーズン太田市に移転するサンダーズは、現在の太田市総合運動公園体育館に座席を増設するなどして対応するとしている。2023年の新アリーナの完成を待たずに太田市に移転を決めた理由についてクラブはこう語る。
 「地元太田市の皆様と共に盛り上げを熟成し、助走期間を設けることが新アリーナを満員にする近道だと考えた。新アリーナは人気向上の起爆剤になるだろうが、それよりも地元に根差した活動期間をかけて継続的に行うことが重要。新アリーナが完成するタイミングに合わせ、B1優勝争いをしていく決意」
 リーグの規定で、ホーム戦の8割をホームアリーナで開催しなければならない。あとの2割は前橋市などでの開催を検討していくようだ。

 来シーズンは、太田市で活動するサンダーズ。千葉ジェッツの本拠地である船橋市や宇都宮ブレックスの宇都宮市のように、「太田市を日本中に名を轟かせるバスケの聖地」とすることができるか――。サンダーズと太田市の日本一をかけた新たな挑戦が始まる。

<了>