球技ライターの大島和人氏が、著書の『B.LEAGUE誕生』を語る。

かつてNBL(旧JBL)とbjリーグという2リーグが存在していた男子バスケットボール界が1つの統合されるに至った経緯を、群馬クレインサンダーズの取材も精力的にこなしている球技ライターの大島和人氏が、綿密な取材で1冊の本にまとめ、昨年12月に上梓した。日本バスケットボール界の歴史の一端を記した本書は、バスケファンにぜひ読んでもらい書でもある。大島氏に、なぜ本書を書こうと思った理由はもちろん、スポーツビジネスの観点から群馬クレインサンダーズについても語ってもらった。

――Bリーグ誕生秘話を書こうと思ったきっかけを教えてください。

FIBAも参加して日本バスケの改革を議論する会議「ジャパン2024タスクフォース」が2015年1月末に始まり、3月上旬にはもう解決への道筋ができていました。そのタイミングで「この流れを本にしたいな」という思いは生まれていました。

――その思いから約5年。ようやく本書を出版されました。執筆に当たり、日本バスケットボール協会やJBL、bjリーグなどさまざまな関係者に取材をされましたが、その中で印象に残っている取材(エピソード)について教えてください。

大河チェアマン(当時)から「バスケットボール界には “差し入れ文化”がある。きっと喜んで頂けるから、○○さんにはお菓子をお持ちするといいですよ」とアドバイスを受けました。何がいいだろう?と考えて、日持ちして型崩れがない「とらやの羊羹」をお持ちしました(笑)。

2011-12シーズンbjリーグプレーオフファイナルで初優勝した琉球ゴールデンキングス(2012年5月12日、有明コロシアム) 撮影/加藤よしお
2011-12シーズンbjリーグプレーオフファイナルで初優勝を喜ぶ沖縄ブースター。当日、沖縄から多くのブースターが会場に駆け付けた(2012年5月12日、有明コロシアム) 撮影/加藤よしお


――どれくらいの人たちにインタビューをしたのですか?

登場人物が多くなりすぎると読者が分かり難くなるという側面もあり、本にコメントが出てくる方は15、16人でしょうか。コメントは使わなかったけれど長めの取材をした方が他に3、4人います。過去の取材、関係者との会話がヒントになった部分もあります。締め切りやコロナ問題がなかったら、もっと聞きたい方はいました。

――日本全国にバスケ関係者はいる中で、一番遠くに出かけた取材はどこですか。

北海道協会の森野さん(札幌)か、元日本協会会長だった梅野先生(福岡)の取材です。

――本書を書く上で、大変だったことは?

本を書いたあとの調整です。ただ結果的にはこちらが書きたいように書かせてもらって、表に出ない形も含めて支えてくれた人がいて、皆様の度量の大きさに感謝しています。

――本書で、読者に訴えたかったこととは何でしょう。

今までいろんなコメントをいただいていますが、皆さんの内容が違います。現実は多面形で、それぞれの角度で見え方が違います。いろんな感想が出てくるなら、それは筆者の意図通りです。
ただ強いて言うなら「ガバナンスはお金と人が伴わなければ機能しない」「リスクを取って挑戦した人、混乱の中でもがいた方々の努力があるから今のBリーグがある」というメッセージでしょうか。

JBL2011-2012開幕記者会見。司会は引退したばかりの佐古賢一氏(2011年9月30日)     撮影/星野志保

――今後のBリーグに期待することとは?

Bリーグはビジネスやエンターテイメントを重視して立ち上がった分、記録を正確に早く整理して提供する地味な作業が野球やサッカーに比べて劣ります。協会もホームページの導線がぐちゃぐちゃで歴史がしっかり残っておらず、記録の収拾・保存・整理は日本バスケの大問題です。改革後にレベルが落ちた数少ないジャンルです。
過去の手法にこだわりすぎると、改革のスピードが遅くなる……という側面はあります。ただ今はもう「革命」が終わった「平時」ですし、NBAやNCAAという記録のお手本もあります。長い目で見ると記録は元が取れる投資ですし、模倣するべき対象もあります。あとは手間を負う“バスケマニア”が組織の中にいればいいのに……と感じています。

bjリーグドラフト会議2012で、bjリーグ初参戦の群馬クレインサンダーズはTGI D-RISEの菅澤紀行を1巡目で指名。右はサンダーズの初代HC林正氏。エキスパンションドラフトでは浜松・東三河フェニックス(現・三遠ネオフェニックス)から友利健哉を獲得(2012年6月19日)     撮影/加藤よしお

――群馬クレインサンダーズの取材も精力的にされています。現在の快進撃、そしてサンダーズというクラブ自体をどう見ていますか。

Bリーグの価値が上がり、投資する企業が出てきて、さらにリーグの価値が上がるポジティブサイクルの一つだなと感じながら楽しく観察しています。
オープンハウス社の支援もありますが、現経営陣は課題の発見と解決のサイクルが早く、それは素晴らしいですね。コート内外の採用も積極的で、成長への意欲も見えます。そんないい空気がコート上の躍進にもつながっているなと思っています。
隣の栃木県に比べるとまだ「バスケが根付いた」という状況にはないかもしれませんが、これからどう根付いていくのか、期待しています。新アリーナも楽しみですね。

『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』
著者/大島和人
発行/日経BP 発行
定価/1700円+税

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<了>