厳しい競争で己を磨き、最後につかみ取った先発

群馬クレインサンダーズ
野口夏来
Natsuki Noguchi


*この記事は、2020年4月に発表したもので、野口選手が2019-20シーズンについて振り返っています。アーカイブでは、これまでの選手たちの活躍をご紹介いたします。


野口夏来は長身とスキル、走力を併せ持つ大器だ。このルーキーシーズンはまず壁に直面し、自らの課題を痛感したという。しかし外国生まれの猛者たちと競い合い、最後は自力で出番を勝ち取った。彼はどのような課題を感じ、どう取り組んだか。指揮官はどう評価しているのか。若者の現在地を探っている。

大島和人=文 鈴木心平=文 星野志保=編集

 23歳の新顔にとって、今季の群馬クレインサンダーズは厳しい環境だったに違いない。12月からは外国籍選手が3人体制となり、帰化選手の坂本ジェイも控えている。野口夏来は経験も豊富な2メートル超級4人と、ポジションを争っていた。
 昨季も2月に群馬へ合流し、特別指定選手として一定の経験を積んでいた。とはいえプロの壁は高かった。
 「オフシーズンから開幕までどう仕上げるか。開幕したら相手とどう戦うか。初めてのことばかりでした。相手が毎週違って、もちろんスカウティングをしなければいけない。どんどん守り方も変わっていくし、新しい攻め方が増えてフォーメーションが増える。本当に大変でした」
 相手もプロである以上、狙いを察知できれば、次の手を打ってくる。そのような駆け引きも未知の領域だった。
 まず守備で外国出身のビッグマンと張り合うことは、日本人ビッグマンがコートに立つ最低条件だろう。しかし野口はパワーフォワード(4番)としてこんな課題を感じていた。
 「4番になると高さだけでなく、横の動きも増えてくる。ズラされると、外国人には一歩で行かれてしまう」
 このクラブには、厳しい競争環境と引き換えに、素晴らしい練習環境があった。彼がチーム内の練習で主にマッチアップした同ポジションの相手はロスコ・アレン。現役ハンガリー代表で、スペインリーグの経験を持つオールラウンダーだ。
 「クウソーとギャレットが5番(センター)同士でやっていたので、僕はだいたいロスコに付く。ボールをもらう前の動き、もらう瞬間の動きで大きなズレを作られるんです。本当にずっとやられていたけれど、勉強になりました」
 若者は尻上がりに群馬のバスケへ適応し、プレータイムを伸ばしていった。今季の3ポイントシュート成功率は33・3%で、ビッグマンとしては上々。ドライブも含めたスキルはアレン以外の3人にはない強み。
 結果的に、今季の最終週となった3月14日・15日の青森ワッツ戦ではついに先発へ抜擢。2日間とも25分近いプレータイムを得ている。坂本の負傷はあったが、アブドーゥラ・クウソーをベンチに追いやった。
 平岡富士貴HCはこう説明する。
 「野口が非常に良くなってきていた。あのサイズでアウトサイドのシュートが打てて、走れます。フィジカルのところはもう少しですけど、ギャレット・スタツが中にいる状況で、広がって打てる。そうすると相手はスタツを守りにくくなる。チームにとってはいい効果を産んだと思います」
 群馬は青森に連勝し、野口も10点ずつを挙げて勝利に貢献した。
手応えを得たのは相手の外国籍選手ラキーム・ジャクソンと五分に張り合った守備の部分だった。彼は振り返る。
 「特徴を試合前に聞いてそれを生かせた。守備のほうが嬉しかった」
 野口は大器だが、完成された選手ではない。今回の取材で挙げていた課題はステップワークと、あとは身体の強さだ。
 登録は203センチ・88キロ。太りにくい体質もあるようだが、体重はやはりもう少し増やしたい。例年より長くなったオフシーズンはそんな課題に取り組み、進化を実現する上で大切な勝負の時間だ。群馬の成長株はこう抱負を述べる。
 「シーズン中できなかった身体作りが第一。あとは4番、3番(スモールフォワード)のディフェンスに対応できるステップワークをやっていく。また皆さんと会えるときには、ちょっと大きくなっていたい」

<了>

チームメートの外国籍選手たちとプレーしたことで、プロ選手としての成長を見せた野口(撮影/星野志保)

<profile>

野口夏来(のぐち・なつき)
1996年7月16日生。203センチ・88キロ
のPF。福岡県出身。福岡大学附属大濠高を経て専修大に進学し、大学4年時はインカレ準優勝に貢献した。2019年冬に群馬へ加入。ビックマン離れしたスキルを持ち、将来を嘱望されている。