指揮官が語る。エナジーと手応え

群馬クレインサンダーズ
平岡富士貴ヘッドコーチ
Fujitaka Hiraoka


*この記事は、2020年4月に発表したもので、平岡ヘッドコーチが2019-20シーズンについて振り返っています。アーカイブでは、選手たちや指揮官のインタビューをご紹介いたします。


B2東地区の2位。それが群馬クレインサンダーズの最終結果だ。一方でチームはプレーオフに向けて尻上がりに力を上げ、9連勝でシーズンを締めている。「未完」に終わった2019‐20シーズンの悔いと収穫を、平岡富士貴ヘッドコーチに振り返ってもらった。

大島和人=文 鈴木心平=写真 星野志保=編集

 指揮官は開口一番、こう語りかけてきた。
 「途中で終わってしまった状況ですけれど、それが結果。まず申し訳ない気持ちでいっぱいです」
 ただし平岡富士貴ヘッドコーチは群馬クレインサンダーズの戦いぶりに「途中経過」以上の手応えを感じていた。
 「自分が選手交代でミスをしても、帳消しにしてくれるくらいのエナジーも感じられた。この4年で一番の手応えを感じていました。最後は9連勝でストップしましたけれど、何があっても負ける気がしなかった」
 道のりは必ずしも平坦でなかった。チームは昨年11月18日の熊本ヴォルターズ戦から4連敗を喫している。続く11月23、24日のバンビシャス奈良戦は、2試合合計48点差の惨敗も経験した。それにはこのような背景があった。
 「アウェイの熊本で2つ目を負けてそのまま奈良に移動して、群馬に帰ってこなかった。そのままアウェイに10日間くらいいました。周りになにもない状況で、ずっとホテル暮らしだったんです」
 そのストレスがプレーにも影響した。
 「これも経験だなとポジティブに捉えていたんですが、やはり選手はストレスを感じている様子だった。その間は練習でなかなか上げられなかったです。そんな中でトランジッションの速いチームに走られて、警戒していたことをすべてやられた」
 アウェイの連戦時に、地元へ戻らず遠征を続ける方法はプロなら珍しくない。もっとも昨季までの群馬は資金不足により、そのような「贅沢」ができなかった。選手は不慣れだったはずだし、宿泊地の選択、遠征中の過ごし方などにノウハウ不足もあったのだろう。
 チームは1月のホームゲームでも、奈良との初戦を落とした。しかし2戦目の内容と結果は圧倒的なものだった。平岡HCはこう振り返る。
 「スイッチディフェンスをもう少し明確にやれば、補えると感じていました。ただホームの1戦目は、スイッチに関して何も言わなかった。アウェイの連敗と同じやり方で勝てば、練習してきたことを使わずすむと思ったんですけれど、1戦目を取られた。奈良がこのまま上がってきて、プレーオフで当たる状況になったら苦手意識が出てマズい。2試合目は『練習でやってきたことをやりますよ』と出して、それがまんまとハマったんです」
 1月26日の奈良戦は116‐63の圧勝だった。スイッチディフェンスは多少のミスマッチは受け入れつつ、マークする相手を必要に応じて変えて、オープンな選手を作らない対応だ。上位チームはこのような戦術面の切り札をギリギリまで隠そうとする。群馬に限らない話だが、勝負はあくまでも「これから」だった。
 結果的に群馬は13試合を残してシーズンを終えた。4月11、12日に仙台89ERSとの直接対決を残し、自力の逆転は可能な状況だった。しかも今季は仙台を4勝0敗と圧倒していた。
 指揮官はこう言い切る。
 「仙台に追いつく手応えがありましたし、1位通過するイメージは持っていました」
 平岡HCはセミファイナル、ファイナルまで視野に入れて準備を重ねていた。B2制覇、B1昇格を目指す上でもっとも高い壁と考えていた相手が信州ブレイブウォリアーズだ。群馬が2018‐19シーズンのファイナルで敗れ、今季も2敗を喫している。彼は執念深く好敵手の戦いを観察し、策を練り続けていた。
 「今シーズン、僕は信州を全試合追いかけて、全試合データを取って、『なぜウチが勝てないのか』『勝ったチームは何が違うのか』と、ずっとフォーカスしていました」
 攻略の手立てはつかんでいたという。
 「信州はいいシューターもウイングにいますけど、ガードとビッグマンの2メンゲームでギャップを作ってくる。でもその2人をどう守るかでいろいろやってしまうと、シューター陣が生きてしまう。でもそれだけなんです。だからウイングはヘルプに大きく寄らなければいい。全部も止めようとすると大きなギャップがどんどんできてしまう。それは勝てないなと気づきました」
 終盤戦の9連勝を支えた一人がギャレット・スタツだ。彼は12月上旬に合流し、コンディションの上昇とともに大きな戦力となった。チームはスタツとアブドゥーラ・クウソーの「ビッグ2」で臨んだ試合を一つも落としていない。スタツは得点だけでなくリバウンド、アシストで傑出したスタッツを残している。
 平岡HCはスタツをこう称える。
 「スタツがボールを持つと相手のディフェンスはどうしても彼に集中する。そうすると佐藤文哉、野﨑零也といったシューター陣が生きた。リバウンドも大きかったですね。決してフットワークがある選手ではないけれど、高さという脅威を与えられた」
 底上げのもう一つの背景は若手の貢献だ。
 「古牧昌也や新川敬大も、ディフェンス面で成長してくれましたし、リングに向かうプレーも増えました。アウトサイドも積極的に打つようになりました。シーズン序盤はベテラン、外国籍選手のハッスルで終わりだったけど、少しずつみんなに当事者意識が出てきた。特に野﨑が発信することで、先輩後輩は関係なく、建設的な意見を出し合う状態になったことはプラスでした」
 レギュラーシーズンは2月末からまず2週間の中断があった。その時点で群馬は3月14日のリーグ戦再開に備えていた。3月上旬には新潟アルビレックスBB と練習試合を組んでいる。
 「ここでB1相手にいい試合ができれば、ずっと負けなしで行くんじゃないかという狙いもありました。ロスコ・アレンはハンガリーの代表活動でチームを離れていたけれど、戻ってきてコンディションも上がってきていた。もう一回ロスコも入れたメンバーでやってみたかった。そうしたらフルメンバーの新潟に圧勝できたんです」
 しかし、そのような準備の成果を証明する場は与えられなかった。悔しい結末について平岡HCはこう述べる。
 「勝つイメージしかなかったので、正直に言うとやりたかったです。心残りもたくさんありますけど、手応えのあるチームをブースターの皆さんにもっと見せたかった。でもBリーグ、日本のレベルで片付く問題でなく、世界レベルの問題なので……。リーグの判断を僕自身は尊重していますし、現場のリーダーとして、選手に何かあったからでは遅かった」
 契約や編成の作業はこれからで、来季の開幕に新型コロナが及ぼす影響も想定する必要がある。2020‐21シーズンを語るのはまだ早計かもしれない。とはいえ平岡HCがここまでの4シーズンで積み上げてきた成果を証明し、B1昇格という大輪の花を咲かせるため、少なくともあと1シーズンが必要だ。指揮官は最後に、ファンに向けてこうメッセージを残してくれた。
 「B1昇格という目標を叶えられなかったけれど、今シーズンの群馬はとても素晴らしいチームでした。来シーズン、さらに素晴らしプレーをお見せできるように、今からしっかり準備して、皆さんとまたお会いできればなと思います」

<了>

<profile>

平岡富士貴(ひらおか・ふじたか)
1974年4月26日生まれ。茨城県出身。学生時代は筑波西中、土浦日大高、日本大と各年代で日本一に輝いた。新潟で現役を終えたのち同クラブでAC、HCを務め、つくば(現茨城)を挟んで、2016-17シーズンから群馬のHCに就任。2018-19シーズンはチームをB2準優勝に導いた。