サンダーズを襲った危機。外国籍選手不在の中で、促されたチームの成長

12 月19日の秋田戦は、外国籍選手が一人もいない状況での戦いになった

12月19日の秋田戦で、外国籍選手が一人もケガでコートに立てない緊急事態に陥ったサンダーズ。だが、この試練が日本人選手たちを奮起させ、チームを成長させることができた。

文・写真/星野志保(Eikan Gunma)

試合開始早々にシュートを決めた笠井康平(2021年12月19日秋田戦、太田運動公園市民体育館)

 サンダーズの得点源であるトレイ・ジョーンズ、ゴール下で強さを発揮するオンドレイ・バルヴィンをケガで欠いていたサンダーズに、再び試練が襲い掛かった。12月18日秋田戦Game1では、ジャスティン・キーナンが前節の川崎戦で負った左脛骨骨挫傷のため戦線離脱。外国籍選手が12月3日に加入したばかりのカイル・バローンだけになった。それでも18日の試合はリーグ屈指のディフェンス力を誇る秋田に対し、一時は18点差を付けられながらも72-82と10点差まで詰め寄った。川崎戦に続いて連敗したものの、バローンやマイケル・パーカー(帰化選手)、アキ・チェンバース(日本国籍)山崎稜、菅原暉が2ケタ得点を挙げるなど、チームを助ける活躍を見せた。
 しかし、翌日のGame2では唯一の外国籍選手だったバローンもケガで試合に出られない状況になり、外国籍選手が一人もいない中での戦いを強いられた。

ベテランの経験を生かし必死にゲームをコントロールした五十嵐圭(2021年12月19日秋田戦、太田運動公園市民体育館)

 サンダーズの選手たちが、バローンが試合に出られないと知ったのは当日、体育館に来てからだった。
「『まじか』と思いました」とキャプテンの笠井康平はその時の気持ちを素直に口にした。バローンは前日に18得点を挙げるなど、チームの力になっていた。そのバローンも欠くことになったが、数時間後に試合は始まる。腹をくくるしかない。トーマス・ウィスマンHCの「こういった状況を楽しもう」という言葉に、「しっかり自分たちのやれることをしっかり40分間やろう」と気持ちを切り替えた。

この試合で3ポイントシュートを50%の確率で決めた山崎稜(2021年12月19日秋田戦、太田運動公園市民体育館)

 パーカー、笠井、野本、菅原、アキ・チェンバースでスタートした1Q。ゲーム最初の得点は笠井の2ポイントシュートとなったが、その後、秋田に連続得点を許し10-17で1Qを終えた。2Qでは開始早々、五十嵐圭が3ポイントを決めチームを勢いづけると、サイズの小ささから秋田に簡単にゴール下でのシュートを決められる苦しい状況の中でも、野本、パーカー、チェンバースが得点を重ね、25-42と17点差で前半を終えた。
 オンドレイ・バルヴィン、カイル・バローンという長身のセンターポジションの選手を欠いたサンダーズは、秋田の激しいディフェンスに対し、ピックアンドポップ(攻撃時、スクリーンを抱えた選手がアウトサイドへ移動しシュートを打つ動き)で、パスを展開してスペースに飛び込み、アタックする作戦で試合に臨んだ。

今季、ようやくケガか復帰し、試合勘を取り戻す努力をしている杉本天昇(2021年12月19日秋田戦、太田運動公園市民体育館)

 4Qで一時、秋田に21点リードされたが、サンダーズのピックアンドポップが機能して徐々に点差を詰めていき、残り約5分に野本のシュートでわずか6点差まで詰め寄った。
 ここですかさず秋田がタイムアウトを要求。「ビッグマンのラインナップで攻めていこうと話をしていたが、ガード陣がうまくやろうとしてパスをつないで点を狙おうとしたことがミスにつながり、そこからディフェンスもちぐはぐになった」(秋田の前田顕蔵HC)と攻撃を修正。
 タイムアウト明けに秋田のディフェンスのプレッシャーがさらに強くなったことで、サンダーズの選手たちはドリブルから攻め込み始め、逆にこの判断が裏目に出てしまった。6点差まで追いつきながらも最後は68-81の13点差まで広がり、敗れた。

前日に2ケタ得点を挙げた菅原暉。この日はPG陣の中で最長の20分間出場し、2得点3アシスト1スティールをマーク(2021年12月19日秋田戦、太田運動公園市民体育館)

 試合後、ウィスマンHCは、「このリーグで外国籍選手なしで戦うのは厳しいとわかっていたが、こういった状況になったのは仕方ない。ただ、選手たちは外国籍選手がいない中でよく戦ってくれたし、4Q途中で6点差まで詰めたし、彼らの努力は素晴らしい。選手たちは皆、ハードに戦ってくれた。勝負を決めたところは、相手のフィールドゴールの確率が50%で自分たちは37.5%、相手のセカンドチャンスが25点で自分たちが6点と、この違いだと思う。また、相手の3ポイントシュートを17分の3に抑えられたのは、ウチのゾーンディフェンスが利いていたのだと思う」とゲームを総括。
 そして選手たちをこう称えた。
 「40歳のマイク(マイケル・パーカー)が40分間フル出場し、6スティール、20得点と、戦う選手がここにいると示してくれた。皆、マイクのような姿勢を見習わないといけない。マイクは非常に頑張ってくれた。山崎も3ポイントシュートを50%(6本中3本)の確率で決めて頑張ってくれた」

40歳のマイケル・パーカーはこの日、40分間フル出場し、20得点7リバウンド6スティールと、他選手の奮起を促す原動力になった(2021年12月19日秋田戦、太田運動公園市民体育館)


 19日の秋田戦を通じ、チームとしての成長が随所に見られた。特に連携の良さが際立ったのは、3Q残り5分を切ったシーン。野本が相手のゴール下でボールを奪ってドリブルでフロントコートへ走ると、右サイドにいた山崎にパス。ゴール下へ走り込んできたパーカーが空中で山崎からパスを受け取ると、そのままリングに叩き込んだ。見事な連携の40点目だった。

今季、移籍後最長の28分のプレータイムを得て8得点を挙げたほか、チーム最多の8リバウドをマークした野本建吾。能力の高さを見せてくれた(2021年12月19日秋田戦、太田運動公園市民体育館)

 これまで外国籍頼りと見られていたサンダーズだが、外国籍選手が一人もいない危機的状況が、かえって日本人選手の潜在能力の高さと奮起を引き出した。
 秋田の前田顕蔵HCも群馬のチームについてこう評価した。
 「群馬は外国籍選手を中心にチームを作ってきたと思うんです。強力なタレントを集めて、そこに五十嵐圭選手がいて、すごくわかりやすいチームなんですけど、本当に強力だと思いました。一方で、『日本人選手はどうなの?』というところがチームの弱さでもあったと思います。今回、(外国籍選手がいないという)こういう状況になって、これだけ日本人選手がアグレッシブに思いっきりプレーするようになると、すごくチームとしてのポテンシャル(潜在能力)の高さを感じますし、外国籍選手頼りではない非常に怖いチームだなと思いました。また外国籍選手がケガから戻って全員揃ったら、コーチも経験値が高いですし、さらに怖いチームになると思います」

上江田勇樹も今季最長のプレータイムを得て、奮起した選手の一人(2021年12月19日秋田戦、太田運動公園市民体育館)

 敗れはしたものの日本人選手だけで秋田に善戦したことに笠井は、「負けはしましたけど、それぞれがやることをしっかりやった結果の負け。勝ちたかったですけど、限られたメンバーでしっかりとやることはできたのかなと思っています」と、手ごたえを感じたようだった。

 バルヴィンのケガによる長期離脱で長年、Bリーグでプレーするバローンを獲得すると、すぐにチームにフィットし4連勝に貢献。しかし、秋田戦では外国籍選手がケガにより一人も出られない状況に陥った。しかしその危機的状況が、出場時間の短かった日本人選手たちにプレータイムを与え、彼らの気迫あふれるプレーを引き出したのだ。

36分間出場し11得点、5リバウンドと、パーカーと共にチームの危機的状況を救う頑張りを見せたアキ・チェンバース(2021年12月19日秋田戦、太田運動公園市民体育館)


 課題もある。それはジョーンズをケガで欠いてから、チームの得点は60~70点台に抑えられている。ジョーンズがコートにいるときとは30点ほど得点力が落ちている。ウィスマンHCも「次のスコアラーがいないので、誰かひとりステップアップして成長してほしい」と願う。
 外国籍選手を欠く状況はしばらく続きそうだが、12月25、26日の富山戦、29日の北海道戦で、再び日本人選手たちが気迫あふれるプレーを見せてくれることを期待する。

<了>