1月27、28日に、中地区2位の強豪・シーホース三河をホームに迎えた群馬クレインサンダーズ。1試合目は持ち味である攻守の切り替えの速いオフェンスで三河を圧倒。4Qで三河に追い上げられるものの、わずか3点差で逃げ切った。
2試合目は、前半は前日に続いて選手たちが躍動。しかし、後半にオフェンスが停滞したところを突かれ、相手に傾いた流れを引き戻せないまま惜敗。1勝1敗と、課題となっている強豪チームから連勝することは叶わなかったが、三河戦では、「タレント揃い」と言われるサンダーズの底力を知る試合となった。
シーズン後半に突入し、ようやくチームとしてのまとまりが出てきており、チーム力が増した印象だ。
27日の第1試合目と、28日の第2試合目に分けて、試合後の水野宏太HCや選手たちのコメントからチームの成長を探った。
文・写真/星野志保
2024年1月27日(土)15:05 オープンハウスアリーナ太田
群馬クレインサンダーズ 97-93 シーホース三河
チーム全員で周りを生かすプレーが勝利へとつながった
「試合に立ち上がりから、自分たちの本来のディフェンスができなかったところから、群馬さんに簡単に得点を与えてしまい、そこから40分間、彼らに自信を持って気持ちよくプレーさせてしまったことが敗因。どれだけタレントが揃っているチームなのか、どれだけ経験のあるコーチなのかを考えた時、群馬はそういうチームなんだと改めて実感させられました」
試合後、三河のライアン・リッチマンHCがこう語ったように、辻直人選手の3Pシュートを皮切りに、マイケル・パーカー選手、トレイ・ジョーンズ選手、ベン・ベンティル選手、ケーレブ・ターズスキー選手らのシュートが高確率(特に3Pシュートの成功率は54.2%)で決まり、リーグ屈指のディフェンス力を誇る中地区2位の強豪の三河を97-93で下した。
まさに、チームで勝ち取った勝利だった。水野宏太HCも「前半から自分たちの強みであるトランジションオフェンス(ディフェンスからオフェンスへ替わった時にスピーディーに攻めること)を出せたりと、流れの中でしっかりとプレーできていました。またアシスト数27という結果を見ても、チーム全員で周りを生かすことができていました。本当に周りが互いをどう生かしていこうというように考え始めてプレーしているというのが随所に出てきていた試合でした」と、チームの成長に笑顔を見せた。
この試合では若手選手の活躍も目立った。八村阿蓮選手が、「ジェイク・レイマン選手に対して随所で気持ちよくプレーさせないというところをしてくれた」と水野HCが言うように持ち前のディフェンス力で三河の攻撃を翻弄した。
さらにシーズン前半はベンチ入りできなかった試合もあった木村圭吾選手が得意のシュート力を生かして結果を残した。2Q残り0.08秒の最後の1プレーの場面でパーカー選手の代わりにコートに投入された木村選手は、残り0.01でサンダースベンチ前のコーナーから3Pシュートを放ち、見事に決めて見せたのだ。この木村選手の3Pシュートが決まったことで、直前に三河にフリースロー2本を決められ46-39と点差を詰められ流れが相手に行きそうな雰囲気を食い止めることができた。
木村選手はディフェンスでも力を発揮した。三河のイ デホン選手のターンオーバーを誘発させたり、彼の3Pシュートを放つ場面でプレッシャーをかけてシュートを外されたりと、活躍が目立った。水野HCも木村選手に対し、「3Pを積極的に打ってくれますし、ディフェンスの部分でも、(相手との)コンタクトもいとわない献身的なプレーが出てきています。これが最近、彼がコートに立っている理由です」と評価した。
2Q最後の3Pシュートについて感想を聞かれた木村選手は、「打ってこいって言われてコートに入ったのですが、あまり考えずに打ったので、正直あまり覚えていないんです」と答え、「コーチから求められた時間で求められたことができて本当によかった」と飛び切りの笑顔を見せた。
ベンチに入れない試合もあった中で、「正直、厳しい時間だったが、チームメイトが頑張ってくれているので、(試合前のシュート練習の)リバウンドなど自分がチームのためにできることを探してやっていました」と、どんな状況でも笑顔でチームを盛り上げていた木村選手。試合に出るために、試合前も試合後も、練習前も練習後も、コーチと一緒に自主練習に励み、「これだけやっているからもう大丈夫」(木村選手)と思えるぐらい自分を追い込んできた努力家である。「やはり自分の持ち味はシュートだと思っています。最近は、自分が打っていい時と、打つべき選手が打つ時という状況判断が分かってきた感じがします」と自らの成長を実感する。
課題はディフェンス力。「これまで試合に出られなかったのは、ディフェンスで信用してもらえていなかったから。ボールを持っている選手につくのは得意ですが、ボールを持っていない選手についているときが課題。そこを克服できればもっとプレータイムも伸びると思うので、そこをしっかりやってチームに貢献していきたいです」とさらなる成長を誓った。
この試合で目を見張る活躍を見せたのが、辻選手だ。3Pシュートを5本中4本と高確率で決めたほか、試合の貢献度でもプラス17点と、両チーム合わせた最多の数字で、チームの勝利に貢献した。
辻選手は2019-20シーズンから「スリーピース バスケットボールを通じて、社会貢献を!」と題し、3Pシュートを1本決めるごとに3,333円を寄付する社会貢献活動を行っている。今年は、1月1日に起きた能登半島地震で被災された病院、児童養護施設などの子どもたちの支援のために、3Pシュート成功本数×3,333円を積み立てている。
3Pを高確率で決めたことについて、「やはりスリーピースプロジェクトが原動力にもなっていますし、バスケットを通じて直接(被災者の方への)力になれるのなら本当にうれしく思います。僕は3Pを決めることで、大変な思いをされている方がいるというのを皆さんの心の片隅にでも置いてもらって、(オープンハウスアリーナ太田内で)募金箱を設置しているので、協力していただけたらと思っています」と、能登半島地震の被災者への思いを語った。
日本を代表する3Pシューターとして、リーグの「お祭り男」として日本のバスケットボール界を盛り上げているだけでなく、人間としてのやさしさ、強さを持つ辻選手は、間違いなくサンダーズに欠かせない選手の一人となった。
水野HCも辻選手について、「彼と一緒にやっていて感じていることは、すごく努力をする選手と言うのがまず一番。本当に、自分のパフォーマンスとその質に向き合って、良くない時にはどう良くしていこうかと追求するほど、自分と向き合っている選手だなと感じています。最近、チームが、彼にどうシュートを打たせるのかを考えてプレーし始めていますし、彼も前節の京都戦では、コー・フリッピン選手が走っているところを見つけて、そこにボールを供給して、フリッピン選手が気持ちよくプレーできる状況を作っていました。(自らシュートを打つだけでなく)攻撃の起点にもなれる選手でもあり、オフェンスでは本当にいろんな形で貢献してくれています」と絶賛した。
今季、広島ドラゴンフライズから移籍した辻選手は、シーズン前半はなかなか結果を出せずに苦戦した。そこで、チームメイトに「自分がどういうプレーが得意なのか」を伝えるなど、互いを知ることから始めた。それが辻選手自身のシュートの確率が上がっただけでなく、チーム力の向上にもつながった。
この試合後の会見で、チームの成長について尋ねると、「単純に、それぞれの選手がチームに求められている役割や、互いの強みを理解できてきたのかなと思います。それが今の(勝てている)チーム状況につながっているのかなと思いますし、まとまりのあるいいチームになってきていると思います。今までは、僕自身もそうですけど、試合では誰かしらがフラストレーションを抱えながらプレーしていたと思うんです。僕自身、12月はほとんどボールを触っていない時間帯もあったのですが、今は、本当にボールをもらう機会も増えています。トレイ(・ジョーンズ選手)とも『良い状況でバスケットができているね』と話をしたりしています」と、明かしてくれた。
この試合では反省点もあった。辻選手はこう指摘する。
「今日、4Qのオフィシャルタイムアウト過ぎぐらいまでは、15点ほどリードしていている展開だったのですが、そこからターンオーバーを連発し、点差を(4点まで)詰められてしまったので、そういうゲーム運びの所がまだまだ課題だと思います。リバウンドでビッグマンを助けたり、ターンオーバーを減らしたりということができれば、もっといいバスケットができると思うし、チームはもっともっと良くなると思います」
水野HCも、「ゲーム終盤の終わり方に関しては、これからより成長できる余地があると思いますし、自分の所でももっといい判断はできたのかなと思います」と、終盤、4点差まで三河に詰められたことを反省し、「明日、また勝てるように準備をしたい」と気を引き締めた。
<②へ続く>