ホーム開幕戦で横浜BCに連勝した群馬サンダーズ。河村勇輝に2日間で70得点を許す厳しい展開の中で、見えたチームの可能性。

1点差で勝ち切った瞬間の八村阿蓮(2023年10月15日、オープンハウスアリーナ太田)

 10月7日に迎えたアウェーでの開幕戦。宇都宮ブレックスに対し、73-80、63-77で連敗。水野HCは、「この2試合で勝ち星は得られませんでしたが、プレシーズンからやってきている中で我慢できる時間帯というのは増えてきました。自分たちとしてはまだまだこんなものではないですし、望むようなパフォーマンスというものを出せてはいませんが、これから成長につながるような試合にしたと思っていますし、この経験を糧にして強いチームになっていかなきゃいけないなと思っています」と、8日の試合後に語っていた。
 その言葉通り、14、15日のホームで迎えた横浜ビー・コルセアーズ(横浜BC)戦では、両日とも薄氷を踏むような激戦を制し、チームの成長や可能性を多くのファンやサポーターに見せてくれた。

 14日のGAME1。日本代表の河村勇輝を擁する横浜BCに2Qで50-30と20点差をつけたサンダーズ。前節で宇都宮の圧力に圧倒されて敗れた悔しさを晴らすように、ケーレブ・ターズ―スキー、並里成、辻直人、マイケル・パーカー、トレイ・ジョーンズらがコートで躍動した。河村やジェロ―ド・ユトフ、西野曜らの得点で、4Q残り1分50秒に98-91と7点差まで追い上げられたが、残り1分30秒で並里の2Pが決まり100-91と9点差に広げ、その後は互いに激しいディフェンスで相手の得点を許さず、そのまま試合終了。喉から手が出るほど欲しかった今季勝利を3試合目でつかんだ。
 この勝利に水野HCは、「試合の内容はもちろん、自分たちこれからも学んで強くなっていかなくてはいけないですし、ディフェンスの部分で91点取られるような状況だったので、明日にどう対策をしていくのか、そして向上していくのかが重要になります。試合後に選手たちに、『ちゃんと自分たちの強みっていうものを生かすこと、そして40分間最後まで戦い切ったこと、相手のメインプレイヤーの選手、特に河村選手にこれだけ点数(30得点)とアシスト(9アシスト)をされてやられてしまった部分はあったものの、そこで気持ちが切れることなくちゃんと40分戦って勝ちきったことは、チームとしての成長だ』とロッカールームで話をしました」と、追い上げられる展開をしのぎ切ったチームの成長に笑顔を見せた。

得点だけでなく、味方を生かすプレーでも能力の高さを見せた辻(2023年10月15日、オープンハウスアリーナ太田)


 この試合で、今季、サンダーズに加入した辻直人が活躍。ターズースキーの20得点に次ぐ17得点を記録するなど、スコアラーとしての能力の高さを見せてくれた。
 水野HCも「(9本中4本を決めた)3Pの確率だけでなく、ゲームをクリエイトする力があるので、(今日は)トータルでオフェンスのパフォーマンスが良かった」と、辻を称えた。
 辻も「すべてが良い内容だったかと言うとそうではないんですけど、自分らしいバスケットを少しは出せたかなと思います」と、復調を口にした。
 辻はケガのためにプレシーズンマッチに出場できなかったことが影響し、「チームにおける自分の立ち位置が難しく、前節(宇都宮との開幕戦)はちょっと不安がありました」と胸の内を明かした。
 そして、「このチームに来て自分の強みを出さないとチームのためにならない」と覚悟を決め、横浜BCとのホーム開幕戦までの約1週間でチームメイトと積極的にコミュニケーションを取ることに注力。「(僕について)シュートが上手な選手だけで終わっていると嫌だなと思ったので、自分がボールを持ったら、いつでも攻める気持ちでいることや、パスが得意なことを皆に伝えました。それで今日は気持ちよく試合に入ることができました」とその成果で、得点だけでなく味方を生かすプレーでも勝利に貢献した。
  
 八村阿蓮の活躍も光った。21分52秒のプレータイムを獲得し、11得点、2リバウドの活躍を見せた。
 水野HCも「今日はオフェンスリバウンド2つにとどまりましたが、彼のリバウドへの姿勢は自分たちの武器になると思っています。今日はオフェンスで(相手のマークの)ズレができた時に、しっかりその隙を突いてプレーできていたので、非常に良いパフォーマンスだったと思います。最近はディフェンスも良くなったので、そこも見て欲しいと思います」と、八村の成長を喜んだ。

GAME2の4Q残り0.09秒で、3Pを打つ河村勇輝(横浜BC)に全力でプレッシャーをかけるサンダーズの選手たち(2023年10月15日、オープンハウスアリーナ太田)

 翌日のGAME2は、試合終了まで決着がつかず、河村に40得点を許したものの、81―80とわずか1点差でサンダーズが競り勝つ白熱した試合展開になった。
 1Q終了時点で23-17とリードしていたサンダーズだったが、2Q終了のブザーと共に放った横浜BCの河村の3Pがビデオ判定で認められ、39-42と3点ビハインドで後半に折り返した。
 後半は、辻やターズースキー、トレイ・ジョーンズらの2Pや、ベン・ベンティルの2連続3Pなどで得点を重ね、4Q残り8分には野本健吾のフリースローで69-58とこの日最大の11点差までリードを広げた。
 しかし4Q残り1分に、河村の2Pで77-77の同点に追いつかれたが、残り42秒でベンティルの2Pで79-77と再びリード。そのわずか8秒後に河村の3Pで79-80と逆転を許すなど、意地と意地がぶつかるシーソーゲームを繰り広げた。
 残り15秒。河村からファウルを受けたベンティルが落ち着いてフリースローを2本決め、81-80と再びリードを奪う。このフリースロー後に横浜BCが後半3つ目のタイムアウトを要求。このタイムアウト後にコートに立ったコー・フリッピン、パーカー、八村、並里、ベンティルの5人が、河村にボールを集める作戦を予想しディフェンスに集中。その結果、河村が3Pと2Pを外し、わずか1点差でサンダーズが勝利をつかんだ。

Bリーグのバスケットに順応中のベン・ベンティル。15日の試合では、15得点、4リバウンド、3アシストの活躍を見せた(2023年10月15日、オープンハウスアリーナ太田)


 この試合で、辻が19得点とチーム最多得点をマークしたほか、ベンティルが15得点、パーカーとジョーンズが共に11得点、並里が10得点と、5人が2ケタ得点を挙げる活躍を見せた。中でもベンティルはユーロリーグから移籍し、今季初めて日本でプレーしているものの、14日のゲームの貢献度がー13、15日が15と、試合をこなすごとにBリーグのそしてサンダーズのバスケットに慣れてきているのが分かる。
 水野HCもベンティルについてこう語っている。
 「彼は、Bリーグというユーロリーグとはまったく性質の違うリーグに来て、今、順応している最中です。新しい文化に触れ、なおかつ新しいチームメイトとプレーをする。ここで彼は、4番(PF)と5番(C)の両方をやらなければならず、基本的にヨーロッパでは4番がメインの選手で、5番は限定的にしかプレーしていませんでした。その5番のプレーをどのようにするのかを含め、彼が日本のバスケに順応するためにはリーグを知って、仲間を知っていく。そして僕たちも彼を知っていく。練習や試合を通じてその作業をしている段階で、まだまだ時間はかかるかなと思いますが、その中でもある程度、彼の良さを出してくれています。勝ち星を積み重ねながら成長し続けられればいいと思っています」
 またベンティルも、「ユーロリーグと比べるとかなり異なる部分があるので、まだ勉強している途中です。自分がBリーグ1年目なので、チームメイトも助けてくれています。プレシーズンでケガした膝の状態がまだ良くないので100%の状態ではないですが、チームメイトに助けられながらプレーしています」と、自身の状況について語ってくれた。ベンティルがBリーグに慣れ、100%のコンディションでプレーできれば、サンダーズの戦力がさらにパワーアップするだろう。

琉球から移籍したコー・フリッピン。オフェンスでの活躍が期待される中、ディフェンスでは能力の高さを発揮。河村とのマッチアップは見応えがあった(2023年10月15日、オープンハウスアリーナ太田)

 一方で、今後、活躍が期待されるのが、今季、琉球から加入したコー・フリッピンだ。昨季のCSファイナル・ゲーム2で21得点、9アシストの活躍でチームを優勝に導いた立役者である。今季は4試合を終えて4得点。横浜BC戦2試合では0得点に終わっている。 
 水野HCは、「僕たちは組織的にチームとしてボールを動かす『ボールシェアメンタリティー(ボールをチームメイトでシェアする精神)』を重視し、『一つひとつのアクションに脅威性を持つ』をオフェンスのテーマに掲げています。フリッピンから(得点する)フィニッシュ力や、潤滑油のように周りを生かすプレーが出るようになれば、(彼の良さである)スペースがある中でのドライブや、ポストアップのシュート(ポストエリアで相手ディフェンスを背にしてシュートを打つ)といったプレーも出てくるのではないか期待しています。今は我慢の時期だと思っています。彼は向上心にあふれた選手なので、心配はしていないです」とフリッピンに信頼を寄せる。
 前節の宇都宮戦GAME2の後にフリッピンも「チームのことを分かっていこうと努力している最中で、コートにいる選手によってローテーションが違ったり、違うプレーをしたりすることがあるので、チームメイト一人ひとりをもっと知って、誰と一緒にプレーをしてもチームのためになるプレーができるようになりたい」と語っていた。

 これまでのサンダーズは、ジョーンズの速攻からの得点イメージが強かったが、今季は違う。コートに立った5人でボールをシェアしながら多彩な攻撃を展開する。またベンチ入りした選手がタイムシェアをし、特定の選手の負担を軽減できている。今後、試合をこなしながら成長するチームの姿を見るのが楽しみだ。

 さて、次節10月21日、22日はアウェーの三遠ネオフェニックス戦である。三遠は、千葉ジェッツを強豪チームに育て上げた大野篤史HCが率いるチームだ。チームのスコアラーであるPFのコティ・クラーク(平均得点15.8)、リバウンド力のあるPF/Cのデイビッド・タジンスキーを擁し、今季は川崎ブレイブサンダースに1勝1敗、京都ハンナリーズに連勝し、中地区3位と好スタートを切っている。
 SGの細川一輝は上武大学出身で、今年9月のアジア競技大会に日本代表として初選出された有望株。2019-20シーズンには特別指定選手としてサンダーズに加入していた選手でもある。
 サンダーズは2勝2敗で東地区4位。目標であるCS進出を叶えるためにも、三遠戦で連勝を勝ち取りたい。

<了>