今季、サンダーズに加入した並里成選手は、日本バスケットボール界のファンタジスタと呼ばれるほど、類稀なバスケットボールセンスを持つ選手である。琉球ゴールデンキングスという強豪クラブから移籍した並里選手の目に、今季のサンダーズはどのように映っていたのだろうか――。スラムダンク奨学生第1期生として本場・アメリカのバスケに触れ、日本バスケ界で長年活躍してきた並里選手に、チームのことやサンダーズのホームタウンである太田市でのバスケの盛り上がりについて話を聞いた。
取材・写真/星野志保
皆さんの声援が僕らのエネルギー源
――4月15日の新アリーナでの最初の試合となった宇都宮ブレックス戦後の会見で、「このクラブは自分のことを気遣ってくれる」というような発言がありました。なぜそう感じるのでしょうか。
僕はシングルファーザーなので、僕がしっかり仕事に集中できるようにチームがサポートをしてくれるのをとても感じるからです。
――息子のタイラー君が学校から直接体育館に来て、並里選手の練習を見たりしていますね。私も取材で体育館に行くとタイラー君に会うのが楽しみでした。選手やスタッフからタイラー君が可愛がられているのを見て、チームの雰囲気が良いなと思っていました。
沖縄の時は、選手やスタッフ以外は練習場所に入れなかったんです。息子が学校に行っていたりすると、(学校が終わった後)どうしようかなと不安があるんですが、練習場所に息子を受け入れてくれているサンダーズにはとても感謝しています。
それに、バスケットのことで悩んでいる時に息子を見ると、何だか気持ちがホッとして幸せだなって思うんです。息子はふざけることも多いんですけど、ずっと笑っているような明るい子なので元気をもらえますね。
――以前に比べ、サンダーズに来てから、ファンとの向き合い方などで並里選手の中で変化したことはありますか。
僕は昔からファンサービスをしたいと心がけているので、以前とあまり変わりはないです。ファンがいるから僕たちはバスケットで生活ができているわけですから、僕たち選手のプレーを見て、皆さんに元気を与えられたらいいなと思っています。
――オープンハウスアリーナ太田という新アリーナができる前後で、会場でのお客さんの盛り上がり方に変化はありましたか。
かなり大きな違いを感じましたね。新アリーナができてファンの皆さんの盛り上がり方もさらにレベルアップしたと思います。
――新アリーナで、大歓声の中でプレーした気持ちはいかがでしたか。
僕らの力は皆さんの声援から来ているんだなと改めて感じましたね。コロナ禍で、これまで当たり前だった声援が当たり前ではなくなったことを経験して、声援が解禁されてから余計に皆さんの声援がエネルギーになっているんだなと感じました。
――新アリーナができたことがきっかけで、太田市はバスケで盛り上がっているように思います。昨年、沖縄から群馬に引っ越してきた当初と比べ、太田市の皆さんの反応はどのように変わりましたか。
群馬に来た当初は、太田市内を歩いていてもあまり声をかけられなかったんです。シーズンが始まると試合を見た人たちから「応援してます」って声をかけられることが多くなりましたね。スーパーに買い物に行っても、息子の学校の子どもたちからもそう声をかけてもらえてすごく嬉しいですね。特に、子どもたちに夢を与えたいなとずっと思っているので、子どもたちからも身近に感じてもらえるのはすごく嬉しいです。
チーム全体で同じ方向を向いて歩くことが大事
――B1リーグ2年目の今季、サンダーズはチャンピオンシップ(CS)進出の目標を叶えられませんでした。CS進出は、東地区、中地区、西地区の各地区2位以内のチームと、その6チームを除いた全地区の上位2チームがワイルドカード1位、2位としてCSに出場できます。今年は、ワイルドカード2位の広島ドラゴンフライズの勝率が.695と、7割近くの勝率がなければCSに出場できないなどハイレベルな戦いになりました。ちなみにサンダーズの勝率は.490でしたが、この状況はシーズン前に想像できましたか。
これまでずっとリーグのトップレベルのチームでプレーしたので、勝率などの数字的なものはまったく意識していませんでした。それよりも試合の内容をどれだけよくできるのかを考えていたので、今、CSに進出できた勝率を聞いて、確かに7割ぐらい行かないとダメなんだなと思いました。
――もう2月ぐらいにはCS進出するチームが決まっていたような状況でした。
確かに意外と早く上位と下位のチームが分かれたなという感じはあったかもしれないですね。
――東地区1位の千葉ジェッツの勝率は.883という驚異的な数字でした。並里選手は琉球ゴールデンキングスなど強豪チームでプレーしてきましたが、サンダーズがCSに進出し、優勝できるチームになるためには何が必要だと思いますか。
まずは信頼関係をもっと深めることですね。バスケットは助け合いのチームスポーツなので、いいところはみんなで伸ばして、悪いところはみんなでカバーし合っていく。チームメイトを助けてあげたいとか、この選手の良いところをより引き出してあげたいというのは、チームメイト一人ひとりを好きにならないとできないと思うんです。まずはチーム内の一人ひとりが責任を持ってさらに信頼関係を築いていかければならないと思っています。
――今季のチームはコミュニケーションを大事にしていましたが、それでも信頼関係をさらに深めなければならなかったということですか。
今季はコロナ禍もあって、一緒に出掛けて食事することもできなかったというのもあり、互いを知る時間が少なかったと思うんです。
それに今季は、ポイントガード(PG)の僕と、センター(C)のケーレブ・ターズースキーが加入しましたが、チームの核になるポジションの選手が替わるのは、チームにとってはとても大きなことなんです。来季は互いをもっと知って、さらに信頼関係を深めていきたいと思っています。このことはサンダーズにいなかったらわからなかったことなので、いい経験になったと思います。
――今季はサンダーズに移籍してきたということもあり、チームメイトがどんなプレーができるのか、強みは何かなどと、これまで以上にチームメイトのことを考えながらプレーしたことで、リーグの個人成績でアシストランキング3位(1試合平均7.0アシスト)という結果につながったのではないですか。
これまでもリーグのアシストランキングで2位(2016-17、2017-18)になったことはあったんです。今季は、僕個人の成績だけではなく、チームのアシスト数を見てもリーグ1位だったんですけど、それは良い戦術と、みんながしっかりボールをシェアして、セルフィッシュ(自分勝手)だった選手が1人もいなかった証拠です。それはすごいと思いますね。これを「サンダーズって、こういうチームなんだよ」というカルチャーの中にしっかり根付かせてもいいのかなと思います。
――ホーム戦後の挨拶の時に、水野宏太HCを中心にして、向かって左側が日本人選手、右側に外国に由来のある選手たちが並んでいる中で、並里選手はいつもトレイ・ジョーンズ選手らとともに右側に立っていました。それは何か意図があったのですか。
日本人選手、外国籍選手に関わらず、チームを一つにまとめたいと思っていたので、あえて試合後の挨拶でも外国籍選手の側に並ぶようにしていました。日本人選手とは普段から多くコミュニケーションが取れるのですが、家族がいる外国籍選手は練習が終わるとすぐに帰ってしまうので、意識的にコミュニケーションを取るように心がけていました。
――さて、来季に向け、今オフでしたいことは?
体の柔軟性を取り戻したいですね。60試合プレーしてきて体が少し硬くなって柔軟性が落ちてきているんです。まずは柔軟性を取り戻すためにヨガなどを取り入れながらトレーニングをしたいと思っています。いつものオフ以上にトレーニングではバスケをする時間を増やすつもりです。
――どこかに行く予定はあるのですか。
行きたいところはたくさんあるんです。息子の学校もあるので基本は群馬でトレーニングをしていますが、(高校時代を過ごした)九州に行ったり、トレーニングやバスケットを教えてもらうために東京に行ったりしたいですね。母校の福岡第一高校に顔を出して、後輩たちとバスケをしたり、まだまだ学ぶことがたくさんあるので、いろんな人からバスケットの知識を吸収して、来シーズンに向かう準備をしたいと思っています。
――来季に向け、トレーニングに励んでいる最中ですが、来季はどんな姿を見せてくれますか。
エナジー全開で行きたいですね。今シーズンの後半ぐらいから調子が良くなってバスケットの感覚もやっといいところまできて、3ポイントシュートが後半戦では増えてきていたので、オフにその感覚を0にしないようにして、さらに武器を増やして来シーズンに入れたらいいと思っています。来シーズンは、前半から調子の良さを出していきたいですね。そのためには、オフシーズンにどれだけトレーニングで頑張れるかがカギになると思います。
■Profile
なみざと・なりと
1989年8月7日生まれ、沖縄県出身。福岡第一高校卒業後は、漫画家の井上雄彦氏が創設した第1回スラムダンク奨学生として渡米。帰国後は、当時JBLに所属していた栃木(現・宇都宮)でプロのキャリアをスタート、その後、地元の球団であるbjリーグの琉球に移籍。Bリーグ誕生後は滋賀で2シーズン、琉球で4シーズンプレーし、今季、水野宏太HCの下で新たなバスケットを学びたいとサンダーズに加入した。背番号16、ポジションはポイントガード、172㎝・72㎏。