B1で2シーズン目を戦っている群馬クレインサンダーズは、現在、チャンピオンシップ(CS)進出をかけ厳しい戦いを続けている。4月1、2日は西地区1位の島根スサノオマジック戦だったが、1日目の試合に勝った島根はCS進出を決めた。
サンダーズは島根に連敗したものの、両日ともに接戦を展開。必死に戦う選手たちに会場からは熱い声援が送られ、チームと会場が1つになった2試合だった。特にこの島根戦は、チームの絶対的なエースとして、そしてチームの副キャプテンとして、トレイ・ジョーンズの精神的な成長が際立っていた。
文・写真/星野志保(EIKAN GUNMA編集部)
島根戦の1日目は、73-76と接戦の末、島根のペリン・ビュフォードに3ポイントのブザービーターを決められ敗れた。4Q残り22秒で並里成のレイアップシュートが決まり73-73と同点に追いついたところで、島根がタイムアウトを要求。タイムアウト明け、相手のスローインからの得点を警戒し、サンダーズは星野曹樹(ともき)をコートに投入し、トレイ・ジョーンズ、マイケル・パーカー、ケーレブ・ターズ―スキー、アキ・チェンバースのビッグラインナップで守り切る作戦に出た。4Qでサンダーズはチームファウルが4つ。これ以上ファウルをすると、相手にフリースローを与えてしまう。スローインから試合終了直前まで約20秒間、集中力を切らさずに相手にシュートを打たせない守備を見せていたが、最後の最後で、ビュフォードの放ったシュートは星野の伸ばした両手の上を越えてリングに吸い込まれていった。ちなみにビュフォードは、島根のポール・ヘナレHCが「僕は、彼がリーグで一番の選手だと思っていて、彼の持っている武器は他の選手と比較できないほど」とべた褒めするほど高い能力を持つ選手である。
試合終了後にサンダーズの選手やスタッフが1列に並んで挨拶をしている中で、泣き崩れる星野に気づいたジョーンズがすぐに駆け寄り、「下を向くな。(最後に相手に3Pシュートを決められたのは)星野自身の失敗でも何でもないので、そう思い込まないように」と励ました。「相手はタフな状況でシュートを決めただけで、もし僕が星野と同じ状況になっても、きっとチームの誰かが僕に声をかけてくれると信じているから」という気持ちから出た行動だった。
今季の最初の頃は、納得のいかないレフリーの笛に、ベンチで水野宏太HCやキャプテンの野本建吾に、ジョーンズがなだめられるシーンが見られたが、この試合では一転、イラつくチームメイトをなだめるなど、ジョーンズの精神面の成長が際立っていた。
今季、副キャプテンを務めていることについてジョーンズは、「自分は言葉でリーダーシップを取るタイプではなく、どちらかと言うとプレーや態度で引っ張っていくリーダーです。普段は物静かな方なので、水野HCから『リーダーシップを取ってくれ』と言われたのは、自分にとっては一つの挑戦でした。チームの勝利を一つでも増やすために、自分ができるベストを尽くそうと思っています」と、1日目の試合後にこう語っていた。
水野HCもこのジョーンズの行動について、「あの時、トレイ(・ジョーンズ)の中で感じるものがあって、たぶん、彼がいままでやってきたバスケット人生の中でああいうシーンを経験し、それで(星野を)支えてあげたいと思ったのだと思います。そのトレイの行動は間違いなくチームが一つになるための歩みになります。トレイが今回してくれたことは、本当にすごくいい心意気のある行動だったと思います」と語った。
ジョーンズ選手の成長はプレー面にも表れていた。1日目に31得点、2日目に26得点と両日共にチームのスコアリーダーとなったジョーンズについて水野HCは、「最近は、具体的な選手の名前はあまり挙げないんですけど……」と前置きして、「トレイに関しては我慢しながらどんなタフな状況にあってもしっかりプレーし続けてくれるということが今シーズンの彼の精神面での成長が見えているのですごくうれしい。今日みたいに前半は精彩を欠く部分があった中で、そこを立て直して後半に向かっていいプレーをし続けてくれたのは、僕たちにとって大きな武器になると思わせてくれました」とエースの活躍を褒めたたえた。
サンダーズは間違いなく、エースであるジョーンズの精神面での成長と共にさらに強くなっている。3月の5連敗を脱出した後、強豪チームとの対戦が続いており、結果につながらない中でも、ディフェンスでもオフェンスでも集中力を保ち、今季の中で最高の内容と思わせてくれる試合を続けている。
島根戦1試合目の後にジョーンズは、この5連敗について「気持ちをどこに持って行ったらいいかわからなくなって、そこから抜け出すには、精神的に前向きに生きようと思うしかなかったです」と振り返った。
苦しい状況を経て成長を見せたチームは、観客をも魅了するチームになった。島根戦では、大きな声援や拍手が沸き上がり、観客と選手が一体となって試合を盛り上げていた。2試合目の1Q途中で星野がコートに立ったとき、「頑張れ!」とでもいうように会場からひときわ大きな拍手が巻き起こった。
水野HCも島根戦2試合目の後、「今日は皆さんの後押しの声が僕の耳にも届いていました。基本、ゲームに集中しているので皆さんの声援が記憶に残ることは多くないのですが、今日に関しては僕にも皆さんの声援が届いて後押しをしてもらっていると実感できました」と語ったほどだった。
チームが一つになって全力で戦うことで、会場も沸く。トレイ・ジョーンズを中心に成長し続けるチームを見ると、水野HCの強い願いでもある「サンダーズが皆さんの日常の一部になる」という日も遠くないかもしれない。
15日から、いよいよ新アリーナ「オープンハウスアリーナ太田」で、宇都宮ブレックス、千葉ジェッツ、ファイティングイーグルス名古屋を迎えて熱い戦いが繰り広げられる。島根戦のように観客と選手が一体となった試合ができれば、会場の雰囲気はとても素晴らしいものになるだろう。
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