株式会社ザスパの石井宏司社長が1年で退任し、2月1日付けで取締役の赤堀洋氏が社長に就任することが決まり、1月26日に前橋市内で新役員体制の発表会見と今後の経営方針と取り組みについての会見が行われた。
2021年11月に森統則社長が辞任した後に、翌年2月に石井社長に引き継ぐまでの間、カインズからの出向で社長に就いていた赤堀氏の再登板となった。石井社長の退任の理由は、「一身上の都合」。会見の席で、石井社長からは無念の表情が浮かんでいた。
今回の社長就任にあたり赤堀氏は、「前回が期限付きレンタルだとすると、今回は完全移籍」と語り、「100%の力でザスパの仕事をする」と再登板を選手移籍に例えて表現。また今回、本腰を入れて社長業に取り組む理由について、「カインズでの建築プロ向けに特化した会員制卸売新業態『C‘Z PRO(シーズプロ)』の事業が一区切りついたため」と説明した。赤堀氏はソフトバンクやカインズで新規事業に関わっていた経験から、「新しいビジネスとしてサッカーをもう一度再構築していく」と語った。その一つが、来年完成予定のクラブハウス。地元の優良企業はもちろん、全国的に有名なブランドも入れて、そのテナント収入を得るビジネスモデルを構築する。
わずか2年間で森社長→赤堀社長→石井社長→赤堀氏(2月1日で社長に就任)のトップ交代となったことについて、赤堀氏は「外部から来た森社長、石井社長は短期的に評価を出さなくてはならず、中長期的な目標を立てて取り組むことが難しい状態だった。私の場合はカインズからの出向という立場もあるので、この仕事を長くしたいと思っている。これまでの経営経験も含めすべてをかけてやっていきたい。今後に向かって、皆さんと共に(クラブの成長を)成功させていきたいと思っている」と明かし、腰を据えて経営改革に取り組む。
2022年度の決算は増収減益で2期連続の赤字
石井社長が経営に関わった2022年度(2022年2月~2023年1月)の決算を見ると、事業収入は前年比4,900万円増の70億3,200万円で、営業利益は前年比3,200万円減の▲6,600万円となり、増収減益で2期連続の赤字となった。その原因は、コロナ禍での入場制限が22年度に緩和されたため開催運営委託費等事務所費経費が大幅に増加したことと、夏季の補強によりチーム人件費が上昇したのが要因。主な収入を見ると、スポンサー料は前年比107%増の3億4,400万円、入場料は140%増の8,000万円、物販は119%増の5,700万円。収入全体では、前年比108%増の6億8,600万円となった。
一方、支出では、チーム人件費が前年度比110%増の3億3,000万円、事業関係費が前年比143%増の1億5,000万円となり、支出全体では前年比114%増の7億6,500万円となり、結果、収支で7,900万円の赤字となっている。
しかし、2021~22年度の主要KPI(重要業績評価指標)を見ると、パートナー収入が前年比107%増の3億4,400万円、ホーム平均入場者数は141%増の3,086人、JリーグID登録者数は142%増の2万678人、公式Twitterフォロワー数は123%増の2万2,731人、物販売上は119%増の5,700万円、ホームタウン活動数は208%増の152回となっており、すべての指標において、拡大・回復が見られた。
中期事業計画と23年度の事業計画
会見で赤堀氏は、2030年度までの中期事業計画と23年度の事業計画を明らかにした。まず、2030年までの中期事業計画では、25年度に売上高10億円、平均入場者数6,000人でJ2中位を目指す。また、国体が群馬で開催される2029年度には売上高18億円、平均入場者数1万人、J2プレーオフ圏内を目標とする。さらに、2030年度には売上高20億円、平均入場者数1万2,000人、J1昇格を目標として掲げた。
2023年度の計画では、事業収入は前年比1,800万円増の7億2,200万円、営業利益は前年比3,400万円増の200万円と増収増益を目指し、3期振りの黒字転換を図る。
主な収入では、スポンサー料は前年比105%の3億8,000円、入場料が前年比150%増の1億2,000万円、物販が前年比104%増の6,000万円を目標に据えた。なかでもJリーグ分配金が前年比68%(4,000万円減)の1億円と減額となるため、昨年度を超える売り上げを確保し、黒字化に転換しなければならない。そのためには、試合運営費の見直しや事務所経費等の大幅削減にも取り組む。
また、支出では前年比93%の7億2,000万円と設定し、チーム人件費は前年度比88%の2億9,000万円、事業関係費は前年比96%の1億4,400万円に、いずれも支出を抑え黒字化を最優先する。
2023年度に掲げた主要KPIの目標を見ると、パートナー収入が前年比111%増の3億8,300万円、ホーム平均入場者が前年比113%増の3,500人、シーズンシート販売が120%増の720枚、JリーグID登録差数が前年比121%増の2億5,000万円、公式Twitterフォロワー数が前年比123%増の2万8,000人、物販売上が前年比111%増の6,000万円、ホームタウン活動回数が132%増の200回となっている。いずれも前年比から約1割増を目指す。
赤堀氏は、2023年度に掲げているスポンサー収入の3億8,000万円をできれば4億まで増やしたいと考えている。そのためには新規のスポンサーをいかに取り込めるかがカギとなるため、自ら新規営業に注力していく。その主な理由としては、売り上げの約50%がチームの強化補強費となり、クラブ強化のためには事業拡大は必須。赤堀氏は、「事業拡大とチーム強化を集中して、この3年はしっかりやっていきたい。その中でも今年一年が一番重要。経営の黒字化とチームの順位16位以内は必達。これを外すとその先もなくなっていく」と語り、「今年が土台となる重要な年。何としても(目標を)達成したい」と意気込んだ。
2023年度の重点テーマ
2023年度は、下記の4つの経営改革に取り組む。
① 黒字化
スポンサー、チケット、グッズの3本柱の収益を増やすことはもちろん、それ以外の多様な収益源を確保するために新規事業の開発にも取り組む。並行して無理無駄を徹底的に排除し、スリムな経営にシフトしていく。
② ファンサービスの向上
プロサッカークラブ=スポーツ・エンターテイメント企業と再定義し、コアサポーターから初めてサッカーを見る子どもたちまですべてのファンに試合を楽しんでもらうことを前提に、サービスを一から見直す。
③ 顧客接点拡大
スタジアムへの集客はもちろん、主要メディア、SNS、デジタルマーケティングによる接点拡大に加え、練習場、パートナー企業、店頭などでのリアルな接点も拡大。デジタル、リアルの両面で、メディアへの露出・ファンとの接触機会を拡大していく。
④ 育成改革
積年の課題だったザスパアカデミー(NPO法人)の経営・構造改革に着手する。過去のしがらみを断ち切り、聖域を一切排除し、トップチームにおけるホームグロウン選手の育成と輩出を目指す。
【ホームグロウン】Jリーグが2019年から導入している制度。2030フットボールビジョンに向けて、各クラブが選手育成にコミットし、アカデミーの現場を変えていくことを目的に導入したもの。Jクラブは、ホームグロウン選手を規定の人数以上、トップにチームに登録する必要がある。J2では2022シーズンは1人以上、23シーズンからは2人以上、トップチームに登録しなければならず、それができなければ不足人数をプロA契約25人枠から減らされる。ホームグロウン選手は、12~21歳の間、990日以上、自クラブで登録していた選手。満12歳の誕生日を含むシーズンから、満21歳の誕生日を含むシーズンまでが対象
赤堀体制では、上記の経営改革を進めると共に、ザスパのブランド力も上げていく。赤堀氏は、「ザスパの認知度はものすごく高い。ただそれが好感なのかそうじゃないのか。我々は好感を持ってもらえるような努力をしていきたいし、みんなから愛されて、好きになってもらえるそういう企業体にしていきたい」と語った。そのためには、社員はもちろん、チーム全員でファンとのコミュニケーションに重要点を置く。
来年完成予定の専用練習場とクラブハウスについては、当初の予定より計画が遅れており、2月中旬に施工業者から再見積もりをしてもらい、2月下旬には施工業者を決め、3月には着工する予定で進めている。
ザスパが目指す世界
会見では、企業としての「使命」「理念」「行動指針」を表す「MVV」(ミッション、ビジョン、バリュー)も示された。
■ミッション
「サッカーを通じて地域の楽しみを創り、誇りを共有」
■ビジョン
「ザスパのサッカーが日常の楽しみ、自慢、そして人生を彩るピースとなる」
■バリュー
「自ら楽しむ」「最後まであきらめず、全力で戦う」「子どもたちの夢、あこがれとなる」「皆から親しまれ、愛される」
上記を達成するために、「地元の群馬の皆さんから親しまれ、愛され、自慢となるチーム、存在」「全選手、スタッフ、社員が、子どもたちにとっての夢、あこがれ、お手本になる」「チームは応援してくれる皆さんのため、日々研鑽(けんさん)、トレーニングを重ねる」「ピッチでは、常に勝利を目指し、全力で戦う」「クラブは応援してくれる人々を増やし、その姿を共有」「スタジアムや練習場に地域の人が集まり、笑顔で語らい、楽しみや喜びを共有できる場を創る」ことを目指す。
クラブ創設から20年が過ぎた。赤堀氏は「今年をJ1昇格への第一歩」と位置付け、抜本的な経営改革に取り組む。2005年にJ2リーグに加入してから、J2残留争いをしたり、J3に降格したりと、なかなかクラブとしての成長が見られなかった。一方、2011年に創設された群馬県内のプロクラブであるバスケットボールの群馬クレインサンダーズ(B1リーグ所属)が、オープンハウスの100%子会社となってからクラブの経営が安定。今ではリーグ優勝を目指すチームに成長している。ホーム戦では1試合平均約2,650人(1月26日現在)と、水曜開催日でも会場は満席の状態が続き、今年4月には新アリーナも完成するなど太田市全体がサンダーズで盛り上がっている。サンダーズの成功例をビジネスモデルに、ザスパも前橋市を盛り上げ、前橋市民や群馬県民が誇れるクラブに成長してほしいと願う。太田市出身で、両親が前橋市出身でもある赤堀氏の「県民に愛されるクラブにしたい」との思いに期待したい。
<了>
■プロフィール
赤堀 洋(あかほり・ひろし)
太田高校出身。1992 年明治大学を卒業後、サッポロビール、ジュピター ショップチャンネル勤務を経て、2004 年ソフトバンク BB(現ソフトバンク) へ。パートナー営業本部長、法人事業開発本部長、関連会社 SB アド 社長、Aeris Japan COO などを歴任。2019 年 9 月より株式会社カインズの新規事業開発部長。2020 年 4 月株式会社ザスパ取締役を兼務。