教師からサンダーズの社長に転身した阿久澤氏が、2シーズンを語る

群馬クレインサンダーズ代表取締役
阿久澤 毅

 2022-23シーズンが10月1日に開幕した。今季、12月11日現在のサンダーズのホーム戦9試合の平均観客数は2667人と、会場は満席の状態が続いている。今年4月にはオープンハウス・アリーナ・オオタが完成し、4月22日の千葉ジェッツ戦から新アリーナで試合を開催する予定だ。
 2020年7月1日に、群馬クレインサンダーズの運営会社である群馬プロバスケットボールコミッションの社長に就任した阿久澤毅氏は、教師とは全く畑の違うビジネスの世界に飛び込み、クラブの成長に尽力している。今回、新アリーナの杮落しとなる4月22日の千葉ジェッツ戦まであと3カ月に迫ったところで、昨季終了後に取材をした阿久澤氏のインタビューを掲載した。ビッグクラブになるためのクラブの努力を知る一端となろう。

取材/星野志保(EIKAN GUNMA)
取材日/2022年5月25日

コロナに翻弄された
2シーズン

――社長になって2シーズンが過ぎました。高校の教師からスポーツビジネスの世界に入りましたが、改めて大変だったことは何でしたか。

阿久澤社長 やっぱり新型コロナウイルス感染症拡大のことが一番大変でした。僕が教員を辞める直前の2月に新型コロナウイルス感染症があっという間に日本中に広まって、教え子とも別れの挨拶をろくにできないまま卒業式を迎えたんです。卒業式もコロナ禍なので変則的な形でした。先生方とのお別れの会なども開けませんでした。サンダーズに来ても、2020-21シーズンは試合が中断したり、中止になったりして大変な状況でした。
 7月に社長に就任して10月に新シーズンを迎えるに当たり、何としてもB1に行こうと一念発起したのですが、相変わらず新型コロナウイルスの感染状況が改善されず、B2最高勝率を更新するなどの記録を作ってB1に昇格したものの、2021-22シーズンも新型コロナウイルス対策に日々翻弄される日々でした。

――昨シーズンは、観客収容人数50%の制限がありましたが、どんな新型コロナウイルス対策をとっていたのですか。

阿久澤社長 我々には基本的な対策しかできませんでした。会場の滅菌消毒については、専門の業者がボランティアで引き受けてくれました。この業者は僕の家の近所の方で、「現場に行ってやってあげるよ」との言葉に甘えてお願いしました。本業で手術室の滅菌作業をしているので、そこはきちんとした対応ができました。これが新型コロナウイルス対策の第一歩だったんですが、そのほか我々ができる範囲での対策をしていました。
 例えば、選手と近距離で話をしないことです。私自身、いろんなところに行くわけですから、どこかで新型コロナウイルスに感染してしまう恐れがあります。選手の練習を見たいなと思っていても、練習会場に行かないようにしていました。もちろん社員同士の距離もきちんと保つことを行っていました。
 距離感で言えば、選手とお客様の距離をなかなか縮められなかったのは残念で仕方ありません。コロナ禍でももうちょっとお客様との一体感を作れるとよかったのではないかと思います。これは2022-23シーズン以降の課題なので、それを解消できたらいいなと思っています。

――昨シーズンは、試合当日に新型コロナウイルスの影響で試合が急遽中止になり、予定していたマルシェ(屋台が多く出店するイベント)もできなくなってしまったため、仕込みをして準備していた各業者に対して、阿久澤さん自らお詫びをして回っていたのが印象的でした。

阿久澤社長 試合中止に伴ってマルシェも中止になり、出店してくださった方にお詫びを申し上げるんですけど、もう何と言っていいのか…言いようがないんですよね。業者の方にすれば、「準備した材料はどうするんだ」って複雑な気持ちになると思うので、「本当に申し訳ない」と言って許しを請うしかないんですけど、皆さん本当に我々に協力して納得してくださいました。バスケットの興行は、こうしたクラブに関わっている人たちの思いで成り立っているんだなと改めて実感した出来事でした。
 ただ我々はその反省を生かして、新型コロナウイルスの影響で試合が中止になってもマルシェだけは開催することにしたんです。当日、会場に来てくださったお客様もいますし、せっかく来ていただいたのだからクラブとしてきちんと来てくださったお客様にも対応しなければいけない。結局、何をすべきなのかを考えて実行することは大事なんだと思いましたね。

――社長に就任されてから、ホーム戦ではお客様に自ら声をかけて挨拶している姿を見ます。トップが率先してお迎えしてくれるのは、お客様にとっても嬉しいことだと思うんです。

阿久澤社長 そうなんですけど、帰り際などにご挨拶できないことが多々あるんですよね。本当は皆さんに「また来てくださいね」って言いたいんです。

――高校野球の取材をしていると、監督から「阿久澤さんからサンダーズの試合に誘われているから、一度行ってみようと思うんだよね」という話をよく聞きました。高校野球関係者の皆さんがとても阿久澤さんのことを応援しているなと感じます。

阿久澤社長 ありがたいですよね。知り合いの皆さんに声をかけるんですが、そこで本当に行ってみたいと思う人が来てくれればいいと思うんです。もちろん、こちらからお誘いできる範囲でお誘いはしたいなと思っています。

サンダーズが行っている社会的責任活動「ONGAESHI」。1月7日の仙台89ERS戦では太田南ロータリ―クラブがチケットを購入して、太田市内の児童養護施設「東光虹の家」の児童15人を招待。サンダーズからは、子どもたちにグッズや選手との記念撮影のプレゼントが行われた。写真は試合前に行われたグッズの贈呈式。左から本間弘子さん(東光虹の家施設長)、大谷恒雄さん(太田南ロータリークラブ会長)、天笠秀昭さん(同SAA)、阿久澤社長。こうした地道な活動が実を結び、サンダーズは地域に根付き始めている

新アリーナに行ってみたいと
思ってもらうことが大事

――本拠地を前橋市から太田市に移して2年が過ぎ、太田市などの東毛地区から試合を見に来る人が増えました。逆に前橋市や高崎市といった中毛地区、西毛地区から試合を見に来る人が減っています。2024年に新リーグに参入するためには1試合平均の観客動員数4000人を達成しなければなりません。そのためには、東毛地区だけでなく、中毛地区や西毛地区からの集客を増やす必要があると思いますが。

阿久澤社長 以前(前橋市に拠点があったとき)は、東毛地区のファンは1%だったんです。それが今では東毛地区のファンが増え、東毛と中・西毛地区のファンの数が逆転しています。中毛、西毛地区の人たちが太田市に足を運ぶことに対して、どれくらい億劫になっているのか分からないですが、そういう感じはあるなと感じています。
 やっぱり群馬の皆さんがサンダーズの試合に足を運んでくれるというのが本当に大事なんですよね。例えばプロ野球の巨人ファンなら、試合を見るために群馬から東京ドームに行きたいと思いますよね。それと同じ現象が起こればいいわけです。チームが強くなる、メディアの露出を増やすといったさまざまな戦略で、「バスケットって面白いな、魅力的だな」ということを多くの人たちに知って欲しいと思います。もちろん2023年4月に完成する新アリーナに行ってみたいと思ってもらうことも大事なところです。

――2023年に完成する新アリーナも観客数を増やすにはプラスになりますね。

阿久澤社長 アリーナに行ってみたいとか、どんなことでもいいから試合を見に足を運んでもらえたらいいと思っています。やっぱり新アリーナをメディアの皆さんにたくさん取り上げてもらって、「ちょっと行ってみたいよね」と大勢の人たちに思ってもらえたらいいですね。

――群馬県内だけでなく、アウェイチームからの集客では、最寄りの龍舞駅から会場まで徒歩で約25分、太田駅からは徒歩で約40分というのも集客のネックになっているのではないですか。

阿久澤社長 将来的には、太田市内のバスターミナルからアリーナまでピストン輸送をしたりということも考えています。群馬県民の特性からしても、駐車場から約1キロ離れていると「行かなくていいか」となりがちです。以前、太田市内のショッピングセンター跡地の駐車場を無料で用意しても、結局、誰も使いませんでした。駐車場からアリーナまで距離があること自体がもうだめなんですね。
 ただ、2020-21シーズンに比べて2021-22シーズンは、来場者数が160%アップしました。これは琉球ゴールデンキングス(沖縄)に次ぐ伸び率だったんです。

――その沖縄も、チームができて1年目は集客にも苦戦していましたが、チケットを買って試合を見る文化を作ることに成功し、今ではチケットがなかなか取れないほどの人気チームに成長しています(※)。

※参考文献 『琉球ゴールデンキングスの軌跡』(木村達郎 著/学研/2009年発行)

阿久澤社長 サンダーズでも、チケットが完売になる試合があったり、入場者数が増えたりしています。これは後援会組織の影響が大きいと思っています。

――将来、このクラブをどのようにしたいと考えていますか。

阿久澤社長 2024年の新リーグ参入や日本一になるというクラブが掲げる将来構想を実現していくことです。我々は、日本のトップを目指して進んでいかなければなりません。そのためには、常に日本一を狙うためのいい選手がチームにいなければいけない。それを支える社員がいなくてはいけない。応援してくれる市民がいなきゃいけない。そう考えるとまだまだいろいろと課題はありますが、我々の将来構想を叶えるために「やればできる」という思いで突き進んでいきたいと思います。

<了>

■Profile
阿久澤 毅(あくざわ・つよし)

1960年生まれ、勢多郡大胡町(現・前橋市)出身。桐生高校時代、第50回選抜高等学校野球大会で王貞治以来の2試合連続ホームランを放つなど、チームをベスト4に導く活躍を見せた。卒業後はプロを目指さず群馬大学に進学し、教師の道へと進んだ。桐生市立相生小学校、桐生市立広沢中学校、太田高校、桐生高校、渋川高校、勢多農林高校と37年間にわたり教師を務め、2022年3月31日に早期退職。同年6月30日の群馬プロバスケットボールコミッションの臨時株主総会で代表取締役社長への就任が決まった。