群馬の高校野球2022 夏の注目校 利根商業①

福田治男監督の下、「向上心」とい「基本に忠実に」でベスト4の常連校に成長!

 今春、ベスト4に進出しながら、新型コロナウイルス感染症の影響で、健大との準決勝を辞退した利根商が、今夏、チーム初の優勝を目指し、戦力強化を図っている。本来なら、春に出た課題を克服して夏に臨むのだが、福田治男監督は、「試合をやって、勝っても負けても何か課題みたいなものが見えてくれればと思っていましたが、春の大会では、そんな課題らしい課題がないような形で勝ち上がって、そのまま終わってしまいました。夏までに……というのがぼやけている感じです」と不安を口にした。だが、そこは1999年に、桐生第一を全国優勝に導いた名将。生徒たちには、「毎日の積み重ねの中で、今あるものにほんの少しだけでも上乗せできればいい」と伝えている。

廃タイヤを利用したミートを強くするバッティング練習

 夏に向け、春には大きな収穫もあった。それは投手3人体制の一角を構成する、那須健矢の成長だ。昨秋までは、先発の髙橋輝が行けるところまで行くというのが継投パターンだった。春の1回戦の樹徳戦で那須が先発し、5回1失点に抑えたことはチームの戦力アップにつながった。また、昨秋に登板しなかった最速146キロの内田湘大も「夏に向けて経験を積ませるうえで、彼をどんどん投入しようと決めていました」(福田監督)と、春の4試合すべてにクローザーとして登板し、試合を締めくくった。「夏は投手力の安定したチームが強い」と福田監督が見るように、那須が計算できる戦力に成長したこと、内田が試合経験を積んだことで、夏の優勝も現実味を帯びてきた。

高校生離れしたバッティングがひと際目を引く内田

 その夏にカギを握る投手陣は、基本、3人の継投だ。1人が大体3イニングを投げる。先発した投手がよければ5イニングまで投げ、後続がそれぞれ2イニングずつ投げるというわかりやすいシステムを取っている。こうすることで、1人にかかる負担が軽減され、たとえ連戦になっても、誰一人温存することなく、投手陣皆が投げられる。
 投手陣の核になるのが髙橋と那須。この2人で7から8回までつないで、8回から内田へと継投するのが理想パターン。髙橋は130㌔盤から後半を投げ、調子のいいときは140㌔が出る。キレのあるスライダーが魅力の選手だ。那須は左腕で、直球で最速130㌔だが、打者の手元で動くクセ球が武器。3人の中で球速が一番速いのが内田で、146㌔を投げる。「髙橋、那須と投げた後の最後に速い球を投げる選手が来るので、相手打者もタイミングを合わせるのが難しい」という作戦だ。そして、内田をクローザーとして起用するもう一つの理由が、打者としても4番を担うため、「投手で行けるところまでとなると、打つ方に悪影響が出る。打つ方にも集中してもらいたい」との福田監督の思いもある。

左から内田、那須、髙橋、眞庭

 打者の中心は4番内田を軸に、3番の大澤頼輝、5番の保坂陽呂が務める。1番のキャプテン・眞庭和志と、2番に機動力が使える遠藤翔生が塁に出て、3~5番で点を取るのが理想。「最近は、6番の林翔太朗、7番長谷川知秀、8番坂田敦までバッティングに力強さが出てきている」と、上位から下位打線までどこからでも点が取れるようになっている。

 福田監督が監督に就任してから4年が過ぎた。今ではベスト4入りの常連チームになるほど力をつけている。
 桐生第一の監督時代との指導の違いを福田監督に尋ねると、こう答えが返ってきた。
 「昔、強かった桐生第一と同じような指導をしてはいけないと思っています。時代に合わせながら、子どもたちの能力に合わせながら、その中でどういう練習がベストなのかを模索して、そこにあった形の練習メニューをやるということと、後は練習をしっかりとしたら、試合ではあまりプレッシャーをかけずに楽しんでやろうという形がいいかなと思っています。桐生第一と利根商では、指導が180度違うと思います。何が違うかと言ったら厳しさです。桐生第一は私立高校で、本当に能力のある子たちが集まってきています。その子たちの最終目標が甲子園ではなく、上(プロ)でやりたいという子も多かったので、その子たちを上でレギュラー争いができるように育てなければならないと考えると、自然と練習は精神的にも肉体的にも厳しいものになります」

グラウンドの脇の坂道を利用してダッシュを繰り返す

 練習では、選手たちが集中してトレーニングに取り組んでいる姿が印象的だった。取材日は、16:00から18:00までの練習予定で、16:00にちょうどに練習が始まり、グループごとに分かれた選手たちが、バッティング練習、坂ダッシュなどを効率よくこなしていた。練習最後の福田監督の話まで含めて練習が終了したのが18:00ちょうど。この2時間の練習の間、一度も選手たちの集中力が切れることがなかった。

静かにバッティング練習を見守る福田監督


 また、この日は福田監督が選手たちを細かく指導する様子は見られず、屋内でのバッティング練習中も、窓の外から見守るだけだった。普段は、どんな声掛けを選手たちにしているのだろうか。
 「そんなには声掛けもしないんですが、練習で心掛けることは『向上心』、後は『基本に忠実』ということを伝えています。基本に忠実というのは、基本動作を取得すれば、野球ってそんなに難しいことはないんです。基本から外れたスローイングやバットスイングしていると、なかなかうまくできない部分があるんです。『まず基本に取り組むことを一生懸命にやっていこう』と生徒たちに言いました。そして、向上心ですが、自分が周りと比べてどこが劣っているのか、練習やっている中で、できなかったこと、よかったこと、悪かったことを自覚する。悪かったことは反省して修正して、次の日に課題を持って取り組む。もうそれ以外にないと思うんですね。逆に試合では、『平常心』と『集中力』を大事にしています。やっぱり相手あっての競技ですから、観察して、対応して、そして修正するという繰り返しです。これは毎日の練習も同じなんですよね。練習して、反省して、課題を持って次の日に取り組む。それができた子が上手くなりますよね」

練習最後の福田監督の話に、真剣に聞き入る選手たちの姿は清々しかった

 今年の利根商の強さの要因の一つに、試合の経験値が挙げられる。それは今の3年生が下級生の時からレギュラーで試合経験を積んだのが大きい。
 さらに今年は、プロ注目の内田がドラフト会議で指名されれば、1997年にオリックスに指名された髙橋信夫氏以来のプロ野球選手の誕生となる。高橋氏は流通経済大学を経て本田技研からプロ入りしたが、利根商から直接のプロ入りは学校始まって以来の快挙となる。
 今年の夏は「北毛の雄」の躍進に注目したい。

<了>