チームワークを生かしたチームへと変化しつつあるサンダーズ。B1昇格1年目でリーグ初のチャンピオンシップ進出をつかみ取れ!

チームが一つになって戦えるかが今後の勝敗を左右しそうだ。ベンチメンバーもプレータイムを増やしチームとして成長を続けるサンダーズ(2021年12月11日信州戦、太田市運動公園市民体育館)

今シーズンからサンダーズのメンバーとして戦っている五十嵐圭がコート上でもがいているように思えた。11月26日の練習後に五十嵐に話を聞くと、五十嵐が抱える問題だけでなく、チームが抱える課題も見えてきた。
文/星野志保(Eikan Gunma編集部)

五十嵐の苦悩から見えたチームの課題

 「チームとしてB1での初めての挑戦。選手、スタッフと大幅にメンバーが入れ替わった中での初めてのB1での試合。なかなかうまくいかないこともあると思います。チームとしては新たなスタート。個人としては移籍してきたので、新たな気持ちで頑張っていきたいと思います」
 この言葉は、9月21日に開幕戦の対戦相手である宇都宮ブレックスの田臥勇太とのオンライン会見で、五十嵐圭が語った言葉である。
 群馬クレインサンダーズは昨シーズン、レギュラーシーズンを52勝5敗、ホーム戦無敗、勝率0.912とB2リーグの過去最高勝率を樹立し、リーグ優勝するなど、圧倒的な強さを見せつけた。今季からのB1での戦いに期待が高まる中で、五十嵐は冷静にチームを見ていた。

11月7日の名古屋D戦で負傷退場するも、大けがには至らず12月4日の京都戦でベンチ入り、11日の信州戦からコートに立っている五十嵐圭。経験値によるゲームコントロール能力はチームに力を与える(2021年12月11日信州戦、太田市運動公園市民体育館)

 
 五十嵐は、中央大学卒業後の2003年に、当時JBLに所属していた日立サンロッカーズ(現・サンロッカーズ渋谷/SR渋谷)に加入。2009-10シーズンはトヨタ自動車アルバルク(現・アルバルク東京/A東京)、2010-16シーズンは三菱電機ダイヤモンドドルフィンズ(現・名古屋ダイヤモンドドルフィンズ/名古屋D)でプレー。Bリーグ初年度の2016-17シーズンに地元チームである新潟アルビレックスBBに移籍するなど、Bリーグ誕生以前から日本バスケットボール界をけん引してきた選手である。
 そんな五十嵐が、リーグ最年長選手の41歳で移籍を決断した理由は、中央大学バスケ部の後輩であるサンダーズの吉田真太郎GMから「圭さんを日本一にしたい」という言葉に心を揺さぶられたからだ。約20年のキャリアの中で、これまで五十嵐は、一度もチャンピオンになったことがない。誰よりも優勝に飢え、そして誰よりもトップリーグのB1で勝つ難しさを知っている。

 五十嵐に話を聞いたのが11月26日。14日の沖縄戦までの14試合で6勝8敗、東地区11チーム中7位と、これまでB1に昇格した1年目のチームの中で最高順位をマークしている。それでも五十嵐は今のチームの状況に警鐘を鳴らす。
 「(11月26日現在)何とか6勝できているという感じ。正直、手ごたえを感じていません。開幕戦で宇都宮に2連勝しましたが、それは(新加入外国籍選手が多かったという状況で)相手の調子がよくなかったから。これまでサンダーズが勝った試合は、相手の外国籍選手が揃っていないことが多いんです」

 東地区、西地区を合わせた22チームの中で、サンダーズの総得点は12月12日の18ゲーム終了時点で、名古屋D、千葉、島根に次ぐ4位につける。1試合平均で約87得点だ。トレイ・ジョーンズやジャスティン・キーナン、日本国籍のアキ・チェンバースといった外国生まれの選手たちの個人技で獲得した得点が多いのが特徴だ。一方で、日本人選手がコート上で力を十分に発揮できていない状況が続いている。それは五十嵐も自らのプレーに感じている。
 「Bリーグが始まって5シーズン目になりますが、今までのキャリアの中で一番(自分のパフォーマンスが)悪い。自分らしさが出せていないんです。帰化選手がいるチームでプレーするも初めてだし、自分の色をどう出していくのか、何を求められているのかがわからない」
 そして、こう苦悩を吐露した。
 「思い描いたものと違った」
 ある程度、移籍の難しさはこれまでの経験でわかってはいたが、想像した以上の難しさを痛感している。
 事実、五十嵐が感じる自らのパフォーマンスの悪さは、スタッツにも表れている。
11月7日の名古屋D戦で負傷するまでの11試合の平均出場時間が約17分、1試合の平均得点が4。Bリーグ誕生してから過去5シーズンの記録を見ても平均出場時間は約25~30分、平均得点も1試合10点前後マークしていたことを考えると、力を発揮できていない状況だ。
 「出場時間が1ケタのときもあるんです」
 悔しさをにじませた五十嵐。彼は、自らアグレッシブに攻めて味方を引き込んでいくタイプの選手である。現在のチームの外国生まれの選手たちを生かすプレーが多いチーム状況では戸惑うのも無理はない。
 戸惑っているのは選手だけではない。チームを率いるウィスマンHCも選手一人ひとりの特徴を理解するのに苦労しているようだ。10月17日の●96-98の接戦で負けた4連敗を喫した三河戦後にこう語っている。
「三河のベンチメンバーの得点が31点、ウチは12点。私自身、まだベンチワークをコントロールできていない、どの選手を出したらいいかを正直把握できていない部分もあります」


 今シーズンを迎えるに当たり吉田GMは、平岡富士貴HCに「引き続きB1でも指揮を執ってほしい」とオファーを出していた。しかし、平岡HCは新潟の指揮官に就任。サンダーズはプレーオフファイナルまで戦っていたのも影響し、新HC獲得に動き出すのが遅れた。さらにHCだけではなく、コーチ全員が平岡HCとともに新潟に移籍。昨季からサンダーズでプレーする選手はいるが、コーチ陣が選手の特徴をイチから把握しなければならなかったのも、少なからずこうした戸惑いに影響を与えている。
 では、その戸惑いを解決するにはどうしたらいいのだろう。
 五十嵐は言う。
 「(サンダーズとしての)バスケットスタイルが確立しなければいけない」
 

12月12日の信州戦と15日の川崎戦でトレイ・ジョーンズは出場しなかったが、彼がいるのといないのでは攻撃の破壊力が違う。名実ともにサンダーズのエースだ(2021年12月11日信州戦、太田市運動公園市民体育館)

 サンダーズのバスケットスタイルとは、何だろう。
 ジョーンズを中心としたファストブレイク(速攻)、キーナンやチェンバースの3ポイントシュートを生かした攻撃か。失点がリーグワースト2位という状況であるため守備のチームでもない。
 B2で優勝した昨シーズンは、ジョーンズ、マイケル・パーカー、キーナンら「B1仕様の攻撃力の高い」帰化選手と外国籍選手の加入に伴いチームの攻撃力は増し、平岡HCの下、ディフェンスではチームの約束事を設けていたが、オフェンスでは選手に任せることも多かった。だが今シーズンからB1で戦うチームにとって、B2のときのように個人の能力に任せたバスケットでは、強豪チームに勝つのは難しい。
 チームとしてのバスケットスタイルが確立すれば、選手たちがコートで求められていることを理解し、チームとして一つにまとまるともできる。11月13日(GAME1)、14日(GAME2)の沖縄戦では両チームともに主力選手がケガで戦線離脱していた状況で、GAME1はサンダーズが100-94で西地区首位のチームに辛勝したものの、翌日のGAME2では65-102と大敗。ゲームを通して修正できずにズルズルと点差を引き離されてしまった。もしサンダーズのバスケットスタイルがあれば、たとえ不利な状況に陥っても選手たちは求められている役割を理解しているため、形勢を立て直すことができる。

ジョーンズと共にサンダーズの得点源であるジャスティン・キーナン。11日の信州戦では前半得点を0に抑えられたものの、後半21得点を挙げる活躍を見せた(2021年12月11日信州戦、太田市運動公園市民体育館)

チームが一つになって、勝利をつかむ

 サンダーズの武器は、トレイ・ジョーンズ、ジャスティン・キーナン、アキ・チェンバースといった破壊力のある選手を中心にした攻撃で、得点は1試合平均86.3とリーグ4位(東地区では千葉に次いで2位)の成績だ。課題は失点数の多さにある。18試合終了時点での失点数は22チーム中21位(東地区では最下位)、1試合平均の失点は87.6だ。ウィスマンHCが理想とするのは失点数80以下であるため、まだその数字には届かないが、11月までの失点数が90を超えていたことを考えると徐々にディフェンスは改善されている。


 11月14日の沖縄戦のあとに約2週間のオフ期間があった。チームはその期間に、オフボール時のディフェンスの仕方など守備面に力を入れて練習に取り組んだ。オフ明け後の12月4、5日の京都戦では○97-76、○94-86で連勝。11、12日の信州戦でも○90―87、○66-65と両日共に接戦をものにし、現時点で4連勝している。中でも信州戦のGAME2では、今シーズン最少失点の65と、ウィスマンHCが掲げる理想の失点数を成し遂げた。また、今シーズンは接戦を落とすことも多かったが、ようやく勝ち切る粘り強さも出たのは、チームが成長している証だろう。

先月、日本代表候補にも呼ばれた野本建吾。徐々にプレータイムを増やし、12月15日の川崎戦では古巣相手に攻守にわたり存在感を示した(写真は2021年12月11日信州戦、太田市運動公園市民体育館)


 チームが強くなるためには、「チームが一つになること」だと五十嵐は言う。確かに五十嵐の言うように、コート上で外国生まれの選手と日本人選手がかみ合っていない状況も見られていた。
 そんな中でも、チームとして1つになって戦うことの大切さを選手一人ひとりが自覚している。12月11日の信州戦後、笠井康平はチームのまとまりについてこう語っている。
 「日本人選手だと、試合ごとにその日の調子のいい選手のプレータイムが増えています。その中で(プレータイムが短くても)モチベーションを落とさずに皆で団結して戦えば、試合によってヒーローが違うような厚みのあるチームになると思うので、そういった部分やチームの雰囲気をキャプテンとして意識しながら戦っていきたいと思います」
 キーナンも「シーズン最初の方は全員が揃わなかったり、全員参加できなかったりして、皆、共通理解はしているんですけど、なかなかみんなで練習できない状況でした。今、みんなが練習に参加できて、ケガで抜ける選手がいる中でも、全員で『コミュニケーションを取りながらしっかりやっていこう』と言っているので、こうしてチームとしてまとまって戦えていることが勝利につながっているのだと思います」
 さらに、笠井とダブルキャプテンを務めるパーカーも12日の戦いを終えた後のブースターへの挨拶で、「チームでまとまってステップアップしていきたい」と口にしていた。特に12日の試合は、チームのエースであるジョーンズをケガで欠く緊急事態の中で、五十嵐や野本建吾、上江田勇樹が勝負所でシュートを決めて見せ場を作るなど、ベンチスタートの日本人選手たちが徐々に力を発揮し始めている。

(※バローン)
12月からサンダーズの新たなメンバーとして試合に出ているカイル・バローン。長年Bリーグでプレーしているだけあって、すでにチームにフィットし勝利に貢献している(2021年12月11日信州戦、太田市運動公園市民体育館)


 レギュラーシーズン60試合のうち、3分の1を終えようとしている。12月15日の川崎戦では、強豪相手にエースのジョーンズを欠き、試合中にもキーナンが負傷退場するという厳しい状況に陥った。サンダーズは●63-81で敗れたものの、チーム一丸となって不利な状況を打破しようと戦った試合でもあった。五十嵐が指摘したように、チームとしての1つにまとまり、サンダーズのバスケットスタイルを確立できれば、B1昇格1年目でチャンピオンシップ出場という目標も夢ではなくなるだろう。

<了>