6戦を終えて見えた課題。サンダーズの現在地を探る

B1初挑戦の群馬クレインサンダーズ

アウェーでの開幕戦となった宇都宮との戦いで、昨季の準優勝チームを延長戦の末に破り、笑顔を見せる選手たち(2021年10月1日、ブレックスアリーナ宇都宮)写真提供/群馬クレインサンダーズ

今季、B1で戦うサンダーズは、開幕節から3節連続で、昨季の準優勝の宇都宮、優勝チームの千葉、何度も優勝経験のある三河というリーグ屈指のチームと戦った。6試合を戦った成績は2勝4敗。開幕節で、2試合共に延長戦の末に宇都宮に連勝したものの、B1での戦いの厳しさを実感した。10月1日の宇都宮戦から17日の三河戦までの6試合を振り返りながら、サンダーズのチーム状況を探った。
レポート/星野志保(EIKAN GUNMA編集部)

昨季のファイナリスト・宇都宮に連勝
王者・千葉との対戦で「現在地」を知る

 昨季の準優勝チーム・宇都宮とのアウェーでの開幕2戦は、両日共に延長戦の末に勝利を収め、ウィスマンHCは、「可能性を感じられた非常にいい2日間だった」と語った。
 だが、今季、新潟から移籍してきた五十嵐圭は、「自分たちがいいというより、宇都宮があまりよくなかったという受け取り方をしている」と後日、こう明かしている。
 ではなぜ、サンダーズは宇都宮に連勝できたのか。宇都宮は、チームのエースだったライアン・ロシター(帰化選手)がA東京に移籍したほか、今季4人の外国籍選手のうち3人が新加入で、まだチームとして完成していなかったことも影響。それに加えて、サンダーズのエース、トレイ・ジョーンズのトランジション(速攻)のスピードの速さに、宇都宮のディフェンスがついていけなかったのも勝因となった。

サンダーズのエース、トレイ・ジョーンズ。宇都宮はジョーンズの速攻のスピードの速さに対応できなかった(2021年10月1日、ブレックスアリーナ宇都宮)写真提供/群馬クレインサンダーズ


 開幕戦で2勝し、B1の舞台で幸先のいいスタートを切ったサンダーズだったが、ホーム開幕戦となった翌週の千葉戦で、1戦目74-103、2戦目81-97と大敗した。1戦目では、2Qから千葉に流れを持っていかれ、点差が広がった。このことについて笠井康平は、「相手のビッグマンもタフにディフェンスをしていた。自分たちの強みが出ないまま攻撃のテンポも上げられず、1試合を通じて少しずつ崩れていった」と振り返った。
 前節の宇都宮の時と違い、千葉はサンダーズの武器であるトランジションを警戒。開幕1戦目で、同じように「トランジションが強烈な島根」(千葉の大野篤史HC)に敗れたため、トランジションに対する守備を1週間かけて準備したのが奏功。加えて、マイケル・パーカー、トレイ・ジョーンズ、アキ・チェンバースとサンダーズの攻撃の軸となる選手たちが元千葉出身であり、彼らの特徴を熟知していたのも千葉に有利に働いた。
 ウィスマンHCは試合後、「正直、失望している。自分たちのパフォーマンスがよくなかった。相手のハードなディフェンスに対して厳しく行けなかったし、ディフェンスでも相手のオフェンスに対応できなかった。敗因は、自分たちが戦っていなかったのが大きい」と、大差で敗れたことにショックを隠し切れなかった。

アキ・チェンバースにとっても古巣対決になった千葉戦で、能力の高さを見せてくれた(2021年10月9日、太田市運動公園市民体育館)写真提供/群馬クレインサンダーズ


 翌日の試合では、前日の大敗に気持ちを切り替え、試合開始から戦う姿勢を見せた。1Qで30-14と千葉を圧倒。トレイ・ジョーンズが前半だけ24得点を挙げる活躍を見せ、49-36と13点差で後半に折り返した。
 千葉は昨季のチャンピオンチーム。「(我々は)『フロントコートで簡単にバスケットをさせない』をテーマにやっていたが、(前半は)バックコートでディフェンスをしない。フロントコートから頑張ればいいやと(いうのが見えた)。トレイは素晴らしい選手なので、それでは止められないよ」と大野HCはハーフタイムで選手たちに奮起を促した。
 後半は一転、千葉の猛烈な追い上げに遭い、3Q終了間際に富樫勇樹の3Pシュートが決まり、68-66とわずか2点差まで詰められた。4Q開始直後のジョシュ・ダンカンの3Pシュートで逆転を許すと、試合は完全に千葉のペース。3Pシュートを約6割の確率で決めら、ディフェンスリバウンドを4Qだけで10本取られた一方、サンダーズはシュートを打ってもセカンドチャンスに繋げられず苦しい展開を強いられた。
 試合後、ウィスマンHCは、「昨日よりは出だしはよかったが、後半だんだんと悪くなっていった。千葉は素晴らしいチーム。自分たちがまだあのレベルに達していないこと、自分たちはあそこのレベルに行かないと勝てないことを実感した」と、前半の戦いを前向きにとらえながら、チームの力不足を痛感していた。
 五十嵐も、「試合の出だしから自分たちのリズムで速い展開からスコアできていた」と前半の戦いを評価しながら、「後半は、相手がディフェンスの強度を上げてきたときに、自分たちがそれに対応できなかった。個(選手個々)で単発のオフェンスになってしまって、オフェンスの終わり方もよくなかったので、相手のペースに持っていかれた」と敗因を口にした。
 B1チャンピオンの千葉との実力差を実感した2試合だったが、収穫もあった。それは、チームとしての課題が明確になったことだ。
 五十嵐は言う。
 「オフェンスで、トレイが抑えられてしまったら、次のオプションがなかなか見えてこない。彼が抑えられてしまうと負けてしまう。今、個で得点が取れていてもチームで作ったオフェンスはほとんどない。そこが出てこないと上位チームと戦っていく中で、(相手に)的を絞られてしまう。チームとして戦わないといけないと改めて知ることができた」
 サンダーズの攻撃の中心である(トレイ・)ジョーンズも「前半は攻撃が上手くいったが、後半、同じことをして相手に(手の内を)読まれたり、24秒間ただボールが動いているだけでスコアできない状況が続いていた。(五十嵐の言う通り)攻撃のバリエーションを増やすことに僕も賛成だ」と、現状に危機感を抱いていた。

三河に接戦の末、惜敗も
見えたチームの伸びしろ

3Qの58-55の場面で、3Pシュートを狙う五十嵐圭。試合をこなすごとにキレのあるプレーを見せている(2021年10月16日、太田市運動公園市民体育館)写真提供/群馬クレインサンダーズ

 先週に続いてホームで迎えた3節の対戦相手は三河。これまで天皇杯とリーグ戦を含めて16度の優勝経験があり、日本代表選手を数多く輩出している名門チームだ。また鈴木喜美一HCは1995年から同チームを率い、日本代表HCの経験もある名将でもある。サンダーズが勝つためには、チームとして戦わなければいけない。
 10月16日の三河戦で、チームで戦う意識が芽生えた。ボールも人も動き、試合開始から4Qまでリードが入れ替わるシーソーゲームが繰り広げられた。
 4Qのオフィシャルタイムアウト明けから三河に連続得点を許し、82-88と6点ビハインドになったが、3Pシュートのファウルを受けたジョーンズが、3本のフリースローを決め、85-88と3点差に縮めた。残り28秒で、相手のバックコートからのスローインを奪ったジョーンズがオンドレイ・バルヴィンにパス。バルヴィンがボールをリングに沈め87-88と1点差まで詰めた。しかし残り4.6秒で、味方のファウルから相手にフリースローを1本決められ、点差は2に。サンダーズが勝つには、3Pシュートを決めるしかない。ウィスマンHCはタイムアウトを取り、残り4.6秒でスローインから3Pを狙う作戦に出た。フロントコートからのスローインで、ジョーンズがバルヴィンにボールを預けると、3Pラインに移動。バルヴィンからのパスを受けてシュート体勢に入ったものの足を滑らせ、バランスを崩しながら放ったシュートはリングを捉えられなかった。「最後のショットはトレイを信頼して任せていた。運悪くトレイが滑ってしまったので、我々に運はなかった」と、ウィスマンHCも悔しさをにじませた。
 87-89とわずか2点差の接戦をものにできなかったことに、「いい試合ではあったと思うが、出だしのところのディフェンスが悪かった。『ディフェンスリバウンドをしっかりやろう』というのにやられてしまった。セカンドチャンスからの得点が相手は13、自分たちは4。また簡単なレイアップでやられている。戦術うんぬんよりもディフェンスの集中力が欠けていた」と敗因を口にした。ただ、明るい兆しも見えた。それは「チームで戦う」という意識が見られたことだ。ウィスマンHCも「自分たちのスタイルは、フルコートで走っていくバスケットなので、その中でチームでボールを回す意識が生まれてきたので、そこは評価できる部分」とプラスに捉えた。
 三河の鈴木HCはサンダーズと戦った印象を「前節も、個の能力でやっていたが、今日はチームで戦っているイメージだった。我々が見た4試合(宇都宮戦、千葉戦)と違い、きちんとチームでプレーしていたので、そういう能力もあるんだなと感じました」と語った。
 だが、五十嵐は冷静にチームの現状を冷静に分析する。
「今、チームの攻撃の中心になっているのがトレイ。そこを起点にしながら周りの選手たちが得点に絡んでいくという部分では、誰かに得点が偏ってはいなかったが、誰か任せにする部分が多く見られる。チームとしてはもうちょっとシステムやフォーメーションの精度を高めていないといけない。個の能力で試合をやっている状況で、それを継続しながらもっとチームプレーを増やしていかないといけない」

三河戦第2戦目に、両チーム最多となる30得点を挙げたトレイ・ジョーンズ(2021年10月17日、太田市運動公園市民体育館)写真提供/群馬クレインサンダーズ

 翌17日の2戦目。試合開始からサンダーズがゲームの主導権を握った。4Q開始直後のマイケル・パーカーの2Pシュートで17点差まで差を広げたが、そこから三河の得点源であるダバンテ・ガードナー、カイル・コリンズワース、西田優大らに連続得点を浴び、残り34秒で83-84と逆転を許した。そのわずか3秒後に五十嵐が3Pシュートを決め、再び86-84でリードを奪ったものの、終了間際のガードナーのシュートで同点に追いつかれ、試合は延長戦にもつれ込んだ。
 今季、6試合で3度目の延長戦。しかし、4Qに勢いづいた三河にそのまま試合の流れを持っていかれ、ジョーンズを軸にした個での競り合いにも勝てず、96-98でこの日もわずか2点差での敗戦となった。
 ウィスマンHCは、「競らなくてもいい試合だった。4Qに三河に27点を取られた。ディフェンスを修正しなければいけないと言っているが、まだそのレベルにも達していない」と落胆した表情で語った。
 前日の試合の課題だったディフェンスリバウンドで、前半は相手のオフェンスリバウンドをわずか2本に抑えセカンドチャンスを与えなかったが、後半は一転、12本取られている。4Qで17点差がついたところで、三河がゾーンディフェンスからマンツーマンディフェンスに切り替えたのにも対応できなかった。
 昨季、B2で圧倒的な強さを見せたときはベンチメンバーの得点がスタメンのそれを上回ったが、今季はそれができていない。ウィスマンHCも「三河は非常に経験のあるチーム。三河のベンチメンバーの得点が31点で、ウチは12点。私自身、まだベンチワークをコントロールできていない。どの選手を出したらいいのかを正直、把握できていない部分もある。そういう意味では三河が上回っていた」と苦しい胸の内を明かした。

 3節が終わった時点で、2勝4敗と東地区11チーム中10位ではあるが、サンダーズの可能性と課題は、相手チームのコメントからうかがえる。
 「群馬はすごいオフェンス力のあるチーム。タレントがたくさんいるチームだと思うので、個々の能力を引き出さないようにしっかり自分たちのゲームプランを作って臨みました」(千葉の大野篤史HC)
 「タレントはB1でしっかり勝てるチームだと思うんですが、(スタートの)5人とベンチメンバーも含め、1試合通じてチームとして戦っていかないとB1ではなかなか勝つことが難しい」(千葉の富樫勇樹)
 「すごい力のあるチームですし、B2で歴代びっくりするようなレコードで勝ったチームです。まだB1での経験が6試合しかないので、これからだんだんよくなっていくと思います。僕らもこのままじゃ群馬さんにやられてしまうので、もっと成長しないといけないなと思っています」(三河の鈴木喜美一HC)

三河戦第2戦の4Q 、残り31秒で三河が取ったタイムアウト後、選手同士で話し合いながらコートに入るサンダーズの選手たち(2021年10月17日、太田市運動公園市民体育館)写真提供/群馬クレインサンダーズ

 B1での戦いはまだ始まったばかり。開幕から強豪チームとの対戦が続いているのはチームにとって試練でもあり、彼らとの実力差を知るいい機会にもなった。開幕戦を目前に控えた9月29日のインタビューでウィスマンHCは、「3週にわたって、宇都宮、千葉、三河と優勝経験が何回もあるチームと戦うことで、今、自分たちがどのくらいのレベルにいるのか現在地がわかる試合になってくる。その中でいいチャレンジができると思う」と語っていた。実際に3チームと戦い、ウィスマンHCはチームの現在地をどう見ているのだろうか。
 「正直に言うと、(今季戦った3チームとレベル的に)近い所まで来ている。しかし、今日の試合で96点、昨日は98点、千葉戦では103点、97点を取られている。HCとしてはチームのディフェンスをしっかり向上させなければならない。このチームはオフェンスが得意だが、ディフェンスを強化しないと勝てない」

 B1での戦いはまだ始まったばかり。チームが一戦一戦成長する姿を見守ってほしい。次節は、10月23日(土)、24日(日)にアウェーで秋田と、27日(水)にはホームでSR渋谷と対戦する。

<了>

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