ポテンシャルの高いチームを指導する喜びを感じ、自分たちがなれる最高のチームを作る

群馬クレインサンダーズ ヘッドコーチ
トーマス・ウィスマン

10月1、2日のブレックスアリーナ宇都宮での開幕戦で、昨季のリーグ準優勝チーム・宇都宮ブレックスを、両日共にオーバータム(延長戦)の末に破る快進撃を見せた群馬クレインサンダーズ。「COME ON! ”前人未踏“ 第2章、始まる。」をスローガンに掲げ、初のB1リーグでの戦いに臨む。
今季から指揮を執るのは元日本代表補ヘッドコーチ(以下、HC)で、これまで宇都宮を2度優勝させた手腕を持つトーマス・ウィスマン氏だ。開幕戦を直前に控えた9月29日の練習後、新指揮官に就任の経緯やチームについて語ってもらった。

取材/星野志保(EIKAN GUNMA)

「これは絶対にやるべきだ」と
コーチとしての情熱が芽生えた

――今季、サンダーズのヘッドコーチ(以下、HC)に就任した経緯を教えてください。

ウィスマン 僕がHCに決まったのは、新加入の選手たちの後でした。最初は、サンダーズからアドバイザーとしての話がありましたが、昨季までHCをしていた平岡さんが新潟に移ると聞いて、「ヘッドコーチをしてほしい」という話になりました。HCをやるか、それともアドバイザーのほうがいいのかといろいろと考えていた中で、GMの吉田(真太郎)さんに、今季のロスター(選手)を見せてもらい、「このチームなら何か自分にできることがあるんじゃないか。これは絶対にやるべきだ」とコーチとしての熱い気持ちが芽生え、ワクワクした気持ちになりました。

――ロスターのどんなところにワクワクしたのですか。

ウィスマン 選手それぞれのキャラクターも魅力でしたが、特にマイク(マイケル・パーカー)が日本国籍を持っているのも大きかったですね。トレイ(・ジョーンズ)と(ジャスティン・)キーナンの2人でいろんなプレーが展開できるし、特にジョーンズ選手は、2、3番と幅を持ったプレーができる。全体的にとてもバランスの良いチームだと思いました。それに、今季、アンドレイ・バルヴィン、アキ・チェンバース、五十嵐圭、野本建吾が新たにチームに加わり、彼らの力を合わせれば、とてもいいチームになると感じました。

――ウィスマンHCが宇都宮や横浜にいたときに、パーカー選手と対戦していますね。

ウィスマン 彼は、どこのチームに行っても自分のプレーができる選手で、これまで優勝したり、チャンピオンシップに進出したり、個人賞を獲得したりと、いろんなことを成し遂げてきた選手です。このチームでも彼の存在は大きいですし、僕が宇都宮を率いていた時は「偉大な選手だな」と思って見ていました。今年で40歳ですが、まだまだ良いプレーができているし、コンディションも整っていて、本当に良い選手だと思います。

――8月16日にチームが始動して10月1日の開幕まで、チームとして改善してきたことを教えてください。

ウィスマン 改善するべきところはディフェンスですね。ピックアンドロールのディフェンスもそうですが、このチームはバルヴィンのディフェンスが鍵になります。彼はチェコに一時帰国していましたが、10月1日に隔離期間を終えてチームに合流しますが、シーズンを戦いながらしっかりとチームを作り上げ行きたいですね。
オフェンスについては、プレシーズンでたくさん点は取れましたが、それ以上にディフェンスでやられるケースが多く、そこを改善しなければなりませんでした。開幕戦は、リーグ1のディフェンスを誇る宇都宮と対戦します。そこで、自分たちの課題が明確になるだろうし、目指すべきディフェンスを知るきっかけになるんじゃないかと思います。開幕戦はチームにとってすごくプラスになると思っています。

――チームのオフェンスの強みは、ジョーンズ選手を中心にしたトランジションですか。

ウィスマン ハーフコートのオフェンスもよくなってきていますし、その中で「得点を取る」という気持ちのある選手が多い。マイクはシューターではないですが、どういうふうに得点を取ればいいのかを知っているスコアラー。トレイやキーナンは、どこからでも点が取れるし、山崎稜は今、どんどん良いシューターに成長している。五十嵐圭も3Pを決めたりしているし、アキ・チェンバースもどんどん成長しているのがわかる。こうして選手たちを見てみると、このチームはいろんな武器を持っているなと感じます。

――チームの武器であるトランジションを止められた時の対応が大事になると思います。

ウィスマン どんどん攻撃するというメンタリティーを常に持つこと。最初のオフェンスを止められたとしても、「フローオフェンス」といって、流れの中で攻めていく。そうやって攻め続けるメンタリティーを持つことがすごく大事になります。例えば、24秒という時間内に、12秒で攻められれば、それだけ攻撃のチャンスは増えるわけです。それが勝つ方程式になるんじゃないかな。

――昨季やプレシーズンゲームでも見られたように、不利な展開になったとき、外国籍、帰化選手だけでバスケットをしてしまう可能性もあります。そうするとチームバスケットが展開できなくなる恐れもあるのでは?

ウィスマン 選手同士の信頼関係を深めていくことが必要です。今はその関係性を築き上げている段階。時間のかかることだし、その関係が一気に深まることもあれば、ゆっくりと築いかれていくこともある。バスケットボール界だけではなく、それはどの業界でも同じこと。今、選手同士で声をかけながら練習に取り組んでいるし、練習中のハドルも増えているので、信頼関係は自然と深まっていくと思います。

強豪ぞろいの東地区での戦いは
タフなチームに成長するチャンス

――開幕戦での宇都宮との対戦で、気を付けたいところは?

ウィスマン 宇都宮はリーグ1のディフェンスを誇るだけでなく、チャレンジし続ける文化を持っている常勝チームです。B1に昇格したばかりの新しいチームにとっては、宇都宮戦はチャレンジになりますが、逆にチームにとって収穫の多い、良い試合になるんじゃないかと思います。

――宇都宮で特に気を付けたい選手は誰ですか。

ウィスマン たくさんいます。全員が良い選手です。比江島(慎)、(竹内)公輔といった日本代表選手もいますし、新しい外国籍選手も加入しました。インドネシア出身のブランドン・ジャワトは良い選手だと聞いています。ベストディフェンダー賞を受賞した遠藤(祐亮)、強さと速さを兼ね備えたテーブス(海)、シューターの喜多川(修平)と、選手層が厚く、武器になる選手がたくさんいます。
ただ宇都宮には、ジャワトのほかに、チェイス・フィーラー、アイザック・フォトゥと新しい選手(特に外国籍選手)が入り、これから新たに積み上げるものが増えます。宇都宮は外国籍の選手が入ってまだ1カ月ぐらいだと思いますが、自分たちはバルヴィンを除き、2カ月ぐらいはみんなで練習ができています。自分たちにアドバンテージがあるとまでは言わないですが、選手たちはファーストパンチを食らわすぐらいの気持ちを持って開幕戦に臨んでくれるんじゃないかと思っています。

――ウィスマンHCは、2008~2010、2014~17と、長く栃木(現・宇都宮)のHCとしてチームを率い、2度の優勝をしています。そんな思い入れのあるチームと対戦する気持ちを聞かせてください。

ウィスマン すごく楽しみです。これまで約50年間コーチをして、他国でコーチをしていた時も、前にいたチームと戦うことは何回もありましたが、毎回楽しかったですね。宇都宮に関しては、僕がHCの時に、安齋竜三HCが選手としてもAC(アシスタントコーチ)としても一緒にやってくれました。町田洋介ACは選手の時に指導していましたし、佐々宜央ACも、僕の下でACをしてくれました。こうして互いに対戦相手として戦えるのはうれしいですね。
そして何より、宇都宮のファンは自分にとっても特別です。栃木県バスケットボール協会の人たちにも大変よくしてもらいました。宇都宮を去りたくはなかったのですが、自分自身、コーチとして改善すべきところがあったのだと思います。そこは、この歳になって学んだところです。

――サンダーズというチームをどのようにしたいと考えていますか。

ウィスマン まずは、自分たちがなれる最高のチームになること。まず、いいチームにするためには毎日の改善が大事になります。さらに、「いい」を「グレート」にするためには、もっと選手同士のケミストリーを良くする必要があります。そうしていけば、トップレベルのチームと競争できるような力がつくでしょう。このチームはそういうポテンシャルのあるチームです。コーチとしては、自分たちの最大限の力を引き出す。そして選手は、能力を最大限に発揮できるように改善していく。今、その作業をしています。
これから3週にわたって、宇都宮、千葉、三河と対戦します。この10年間で、川崎、A東京も入れて個の5チームが何度も優勝をしています。最初の3週間で、この5チームのうち3チームと対戦できるのは、新生・サンダーズにとっては良いことだと思っています。今、自分たちがどれくらいのレベルにいるのかと、現在地がわかるからです。いいチャレンジができると思いますし、彼らと対戦できることにワクワクしています。

――強豪ぞろいの東地区での戦いになります。

ウィスマン 東地区が西地区よりも強いのは間違いないし、毎回優勝するのは東地区のチームです。今季、宇都宮、A東京、川崎とは何度も試合をするので、タフなシーズンになります。またSR渋谷も調子が上がってきているので、チャンピオンシップへ向け、生き残りをかけた戦いになりますが、タフな試合をこなすことで、サンダーズはよりタフなチームに成長していくでしょう。

<了>

■プロフィール
トーマス・ウィスマン(Thomas Wisman)
1949年3月28日生、アメリカ合衆国ウィスコンシン州出身。イギリス、香港、マレーシアで代表HCを務め、1988年に来日。いすゞ自動車のアソシエイトHCに就任。その後、オーストラリア、韓国で指揮を執り、97年にいすゞ自動車ギガキャッツのアソシエイトHCとして再来日。05年からWリーグのJOMOサンフラワーズで指導し、08年にリンク栃木ブレックス(現・宇都宮)のHCに。2009-10シーズンにはチームをJBL優勝に導き、最優秀監督賞も受賞。その手腕を買われ、2010-12まで男子日本代表HCを務めた。2014-15シーズンにリンク栃木の指揮官に復帰。2016-17シーズンのBリーグ初年度にチームを初代Bリーグチャンピオンに導いた。2017年に横浜のアドバイザーに、18年に同HCに就任。21年1月から東京Zのチームコンサルタントを務め、今季からサンダーズのHCとして指揮を執る。