チャレンジスピリットを重視した補強で、サンダーズを日本一へと導く

吉田真太郎
㈱群馬プロバスケットボールコミッション取締役
㈱オープンハウスディベロップメント常務執行役員開発事業部長

中央大学時代の先輩・五十嵐圭(左)と並ぶ吉田真太郎GM(2021年7月1日、GINZA SIXオープンハウス銀座サロン)

2021年7月1日に、GINZA SIX内にあるオープンハウス銀座サロンで、五十嵐圭の入団会見と、新ユニフォーム、新ロゴマーク発表の記者会見が行われた。五十嵐の入団会見の様子は、7月3日にアップした記事を読んでいただきたい。ここでは、会見後に、吉田真太郎氏に補強についての話を聞いたので紹介する。

取材/星野志保(EIKAN GUNMA編集部)

補強のポイントは、
本気でチャンピオンを目指したいかどうか

――今回の補強で重視したことは何だったんでしょうか。

吉田 チャレンジスピリットです。私はオープンハウスディベロップメントで組織作りをしてきた経験から、今回選手を補強するに当たり、本気でチャンピオンを目指したいというチャレンジスピリットを持っているかどうかを重視しました。優勝にチャレンジしたいという仲間が集まることで起こるケミストリー(化学変化)が大事だと思うんです。もちろん、B1でのプレー経験があるということと、今回は代表経験のある選手を補強しましたが、そういうレベルのところも含め、今後いい意味でのケミストリーがサンダーズにできてくるんじゃないかと考えました。
 選手、スタッフ、フロント、親会社であるオープンハウス、ブースターの皆様、サポート企業様、地元の皆様、行政の皆様を、一枚岩にするのが私の仕事だと思っています。2年後には太田市にアリーナができます。選手たちもしっかり町を盛り上げ、プレーでも日本一を目指していく。そういう気持ちを持ったメンバーが一つになることによって、成長チーム、成長企業になります。そう思って、B1で戦う1年目のメンバーを採用しました。

――能力があっても、本気でチャンピオンを目指したいという気持ちを共有できない選手は獲らないということですか。

吉田 そうですね。実績だけ、スタッツだけを見て選手を獲得しようとしたら、他の代表クラスレベルの選手を獲るという選択肢もあったと思います。やはり、「チャンピオンになりたい」「成長していきたい」という気持ちに飢えている選手を重視したという方が正しいですね。
 プレー面では素晴らしい選手ではあるものの、一枚岩になれなければ、チームとしてチャンピオンにはなれません。アキ・チェンバースは、マイク(マイケル・パーカー)と千葉ジェッツ時代に一緒にプレーしていたのですごく親しく、「一緒に日本一を目指そう」ということに賛同してくれています。チャンピオンになりたいという気持ちに非常に飢えているんです。

――アキ・チェンバースを獲得しようと思ったのは吉田GMの判断だったのですか。

吉田 マイクと話をしました。今回は、マイクや圭さん(五十嵐圭)といった選手を含め、どういったチームにしていこうかと、いろんな人たちに相談しました。一番、優勝したいのは、現場の選手たちですから。最終的には私の判断ですが、優勝に飢えていて、チャレンジしていきたい気持ちを持つ選手が集まることによって、チームは一つになれますから。いい選手だけ集めて、勝ちましたでは、単年では優勝を狙えるかもしれませんが、将来にわたってのいい基盤づくりになるとはあまり思わなかったんです。

――今季の補強の目玉が五十嵐圭ですが、吉田さんの中央大学時代の2年先輩に当たります。サンダーズのB1昇格が決まった5月16日の翌日に正式にオファーを出したということですが、吉田さんの中ではサンダーズに関わるようになった当初から、「五十嵐さんをいつかはサンダーズに」という思いがあったのではないですか。

吉田 2019年6月にオープンハウスがM&Aをしたとき(完全子会社化は2020年7月)、ちょうど(五十嵐)圭さんもオフだったので、大学を卒業して不動産業しかやってこなかったためバスケ界のことは何もわからない中で、「東京に来た時に、サクッと話を聞かせてくださいよ」とお願いしました。バスケットボール事業に関わるようになって初めてバスケットボール関係者と会ったのが、圭さんなんです。いつかは圭さんをサンダーズにとは心の中で思っていましたが、今日、このような会見を開けるとは思ってもいませんでした。圭さんはアルビレックスの顔でもありますし、それ以前に新潟県の顔でもありますから、現実的にサンダーズに来てもらえるのかなという不安はありましたが、最終的に私たちのビジョンに共感していただきました。圭さんは、昔から「優勝したい、日本一になりたい」という思いをずっと持っている方なので、サンダーズでチャンピオンを狙うのも面白いんじゃないのかなと思っていました。

――今季、新外国籍選手に、現役チェコ代表のオンドレイ・バルヴィンを獲得しましたが、彼は日本でのプレーは初めてとなります。獲得の経緯を教えてください。

吉田 エージェントを紹介していただき、何百人という選手のプレー映像を観ました。ウチに足りないのはリムプロテクターだったので、身長が高くて、しっかりディフェンスができて、しかも献身的な選手。その中でドンピシャだったのが、バルヴィンでした。スタッツ(公式記録)を見ても、スペインリーグでリバウンド王を取るなど、かなりの成績を残していました。
 B1のステージでは、2ランク3ランク上の代表クラスの選手を獲ることによって守備力を上げたいと思いました。バルヴィンは217㎝あるので、対戦相手としては嫌だと思います。彼もNBAにチャレンジしたいと考えていたタイミングで、サンダーズが獲得することができました。チームにフィットしたら結構、脅威になると思っています。

――マイケル・パーカー、トレイ・ジョーンズは、よくチームに残りましたね。

吉田 マイクに関しては、最優先で動いていて、シーズン中に合意しました。ありがたいことに、彼自身、サンダーズをとても気に入ってくれているので、すごく良かったです。
トレイはめちゃくちゃ人気でした。当然、マイクもどのチームも欲しい訳ですし、他チームからたくさんオファーが来ていた感じでした。

――なぜ、マイクはサンダーズをそんなに気に入ってくれるのでしょう。

吉田 サンダーズだと、いろんな意味でリーダーシップを発揮できていますし、しかもめちゃくちゃチャンピオンになることに飢えている。私ともスムーズにコミュニケーションが取れていますし、そういうところもあると思います。

――ウィスマン氏がHCになることに、パーカーはどのように思っているのでしょうか。

吉田 Bリーグ初年度のファイナルで、ウィスマン氏の率いる宇都宮ブレックス(当時栃木ブレックス)と戦っているので、マイクはウィスマン氏のことを知っていました。マイクに、「HCがウィスマン氏に決まった」と話したら、「グッドジョブ」って言われました。早速、マイクとウィスマン氏は食事をしたようです。

元日本代表HCのウィスマン氏を招聘。
コーチ陣も充実させる

――ヘッドコーチ(HC)にトーマス・ウィスマン氏を招聘し、コーチ陣もガラリと入れ替わりました。短期間でHCを含めコーチ陣を探すのは大変な作業だったと思いますが。

吉田 当初は、B2で優勝したという実績があったので、平岡富士貴さんに引き続きHCをお願いしようと思っていたのですが、ご本人の意向を尊重し、退団となりました。私たちはファイナル(5月24日で優勝が決定)まで戦ったためシーズンが長かったこともあり、ウィスマン氏と交渉をしたのが6月半ば過ぎぐらいです。頭の中にふとウィスマン氏が浮かんで、彼を知っている人に「会わせてくれ」と頼み込み、ウィスマン氏にオープンハウスの本社(丸ビル/東京都中央区丸の内)に来てもらいました。
 ウィスマン氏には、サンダーズはオープンハウスが親会社で、どういう歴史があって、2年後には太田市にアリーナができて……という話を、今後のビジョンも含め2時間にわたりお話をさせていただきました。それに対してウィスマン氏から、「素晴らしいビジョンを持って、バスケットボールクラブを運営しているクラブは今まで日本では見たことがない」と言っていただきました。オープンハウスは、究極的には街づくりができる。太田市をはじめ群馬県全体を盛り上げていきたい。例えば、アメリカの話になりますが、地方都市にアメリカンフットボールのチームがあるとすると、休みの日にはみんなで応援に行くというカルチャーが作られています。そういったものを群馬に作っていきたいんです。そのためにはまずはチームを強化することが大切です。1年目で結果を出すために、日本のバスケットボール界を熟知しているウィスマン氏にHCを引き受けてもらえることになって本当に嬉しかったです。
 ウィスマン氏には、「素晴らしいビジョンを持ったチームに関われることに感謝。自分の経験してきたバスケットボール人生をこの1年にすべてをかけたい」と言ってもらえました。

――コーチ陣の決定も早かったですね。アシスタントコーチ兼スキルコーチの輪島射矢さんは、ウィスマンHCとアースフレンズ東京Zで一緒でした。

吉田 ウィスマン氏と輪島は、宇都宮時代からの関係があります。輪島は英語も話せて、ウィスマン氏に自分の意見を言うことができます。性格も非常にいい。ウィスマン氏からも輪島を入れてほしいというオーダーがありました。
 西柳信希に関しては、彼はライジングゼファー福岡でビデオコーディネーターとして活躍していて、業界内での評判がいいんです。バスケットボールに対しても非常に情熱的でもあります。2018年7月にマカオで開催されたアジアリーグ「サマースーパー8」で、東アジアのコーチを対象にしたクリニックが行われ、当時、横浜ビー・コルセアーズHCだったウィスマン氏も講師を務めていたのですが、そこに西柳も参加していたという縁がありました。今回、ビデオコーディネーターとしてチームにお誘いしたとき、「ぜひやりたい」と言ってもらいました。
 アシスタントコーチ兼ディベロップメントコーチの酒井達晶に関しては、彼は山崎稜と同じスラムダンク奨学生でアメリカの大学に行っていたんですが、今年の2月にアキレス腱を切ってしまったんです。彼はアメリカでずっと、NBAレベルの選手たちとワークアウト(トレーニング)をしてきているレベルで、日本にはないスキルや戦術も持っています。多分、アキレス腱を切っていなかったら、(選手をあきらめずに)B1でプレーできる選手だと思っています。非常にバスケットに情熱的で、(もっと高みを目指したいと)飢えているところがすごくいい。ウィスマン氏とも話し、「これからの日本のバスケ界を担う人材だ」という評価をいただき、彼を採用しました。

――東地区は、アルバルク東京(A東京)など強豪チームが揃っています。しかもA東京は、積極的な補強をしています。その中で、目標のチャンピオンシップ進出を目指すのは難しくはないですか。

吉田 そうですね。まずはチャンピオンシップに進出できればチャンスはあると思っています。チャンピオンシップはトーナメント制なので、一発勝負に強い選手たちが揃うサンダーズに勝機はあると思っています。優勝は、天皇杯も含めての目標なので、天皇杯のほうが優勝できる可能性はあると思っています。特にマイクはこれまで3度も優勝を経験していますから。マイクも含め、一発勝負のときの勝負の勘を持っている選手がウチには多いと思いますよ。

――今季は、五十嵐圭選手の加入で、さらに試合を見に来てくれる人たちが増えそうですね。

吉田 一回試合を見にきてくだされば、絶対に面白いと思ってもらえます。2年後にはアリーナも完成するので、試合のワクワク感はどんどん上がってくるのかなと思っています。

<了>