群馬クレインサンダーズの地域へ与える経済効果と将来性〈1〉

Bリーグチェアマン・島田慎二氏講演会

将来のBリーグヴィジョンを熱く語る島田慎二氏(2020年11月14日、太田市内レストラン)

2020年11月14日に太田市内で開催されたBリーグチェアマンの島田慎二氏の講演会の内容を記事にまとめました。Bリーグの今後の展開や、群馬クレインサンダーズが地元にもたらす経済的な影響など、プロバスケットボールクラブの持つ可能性を明確に示してくれています。
群馬クレインサンダーズは、2022-23シーズンの日本一争いを目指し、急ピッチでクラブの強化に取り組んでいます。2021年3月14日現在、勝率.935という驚異的な数字でB2リーグ首位を独走中で、東地区優勝までマジック4としています。講演の中で島田氏は、サンダーズの好成績は偶然の結果ではないと話しています。
この原稿を通し、群馬クレインサンダーズの将来性や地域にもたらす経済効果だけではなく、プロスポーツクラブの持つ可能性も知っていただけましたら幸いです。

構成/星野志保(EIKAN GUNMA編集部)

デジタルとリアルのハイブリッドで、
業界を発展させる

 群馬という地にプロスポーツクラブがあることで、どういう価値が生まれるのか、B1に上がるには、日本一を目指すためにはどれぐらいの資金力が必要なのかをお話ししたいと思います。
 現在のコロナ禍は、いつコロナが落ち着くのかわかりませんが、コロナが落ち着いても。コロナ前の状況には戻らないと思っています。その中で、我々がどこを目指しているのかというと、ビヨンドコロナ(コロナが終息したその先)です。

 我々は、コロナ禍にある現在のその先を考えています。コロナ以前のように会場に足を運んで試合を観戦していただくだけでなく、テクノロジーや映像を使って楽しんでもらえる仕組みづくりを取り入れて、デジタルとリアルのハイブリッドで業界を発展させていきたいと考えています。これからは5Gの時代。通信環境もさらに良くなるので、いろんなことができるようになるでしょう。極端な話、アウェイの試合なのに、あたかも選手がそこにいるかのように映像で映し出して、触りたくなるぐらい身近に感じられるようなことができるようになるかもしれません。テクノロジーを駆使することで、今までとは違ったスポーツ観戦ができるでしょう。

 バスケットボールの強みはアリーナです。天候の影響を受けないだけでなく、テクノロジーとの親和性が高いという利点があります。コロナ禍でお客様をお迎えしづらい中で、テクノロジー化を進めて、コロナが落ち着いたころには、会場にも足を運べるようにして、これまで以上にお客様に楽しんでいただける環境づくりをしていきたいと思っております。

地方創生とクラブ

 次に、スポーツ業界の環境についてお話ししましょう。今、スポーツ業界は3つの追い風が吹いています。まちづくりにおいても、スポーツを活用しやすくなっています。

1つ目は、「国の成長戦略」です。国は、スポーツ産業を核とした地域活性化を進めています。

2つ目は、「地方創生の基本方針」です。地方創生の核としてスポーツを活用していくというのが国の方針です。

3つ目が、「ゴールデン・スポーツ・イヤーズ」。2019年はラグビーワールドカップ、2021年には(延期になっていた)東京オリンピックが開催されるなど、スポーツ界のビッグイベントが次々に日本で行われています。
 
次にバスケットボールの環境についてお話しします。世界で最も競技人口が多い球技スポーツはバスケットボールなんです。世界の競技人口は4.6億人。ちなみにサッカーは2.9億人。「するスポーツ」としては世界一なんです。日本の競技人口では、バスケットボールが63万人で第2位、1位はサッカーの90万人です。ちなみに、1990年代、漫画の『スラムダンク』が流行ったときのバスケットボール人口は100万人を超えていたんです。

ただ、大事なのは今の63万人。90年ぐらいの歴史がある中で、日本でどれだけバスケットに関わっている人が多いか。ビジネスとして考えても十分にすそ野が広い。ビジネスとしてバスケット軸でアプローチしていくことは、ある種、スケールが大きいことだと思います。世界競技人口ナンバー1であるバスケットボールは、日本において、野球やサッカーに比べて、まだまだ伸びしろがあり、これから飛躍する可能性が最も高いスポーツだと思っています。

目指すのは、NBAに次ぐ世界2位のマーケット

 現在のBリーグの規模の話をさせていただきます。Bリーグが立ち上がり、5シーズン目を迎えています。創設当時は、世界4、5位のゾーンにいました。Bリーグ誕生前は、NBLとbjリーグという2つのリーグを合算しても8億円ぐらいの事業規模しかありませんでした。今は世界3位のゾーンにいます。それが2018-19シーズンは50億円、2020年は単独3位になるでしょう。バスケットリーグで、世界で一番規模が大きいのはアメリカのNBAです。次にヨーロッパのユーロリーグとCBA(中国プロバスケットボールリーグ)。その次が日本。私がチェアマンを務めている間に世界第2位のマーケットにするために頑張ろうと思っています。つまり100億円を狙っていくということです。

 入場者数を見ると、もともとNBLとbjリーグの合算が162万人ぐらいだったんです。Bリーグ(B1、B2の全36クラブ)1年目で224万人、2018-19シーズンには250万人になり、2019-20シーズンは、コロナの影響で最後3分の1の試合が未消化になったんですが、それでも入場者数は前のシーズンと一緒でした。もし残りの試合が中止になっていなければ、最終的には270、280万人と、300万人に手が届くところまで成長していたのではないかと思います。ここ数年で入場者数が100万人ぐらい増えています。こうしてみると日本で急成長している唯一のプロリーグではないかと思います。

 Bリーグでは、2020-2024 Value up(バリュー・アップ/価値向上)指針を作成し、次の10の重要戦略を推進し、4年間で着実なValue up達成を目指しています。スピードが命なので、早めにいろんなことをやっていきたいと思っています。2021年に東京オリンピック、2023年には沖縄でワールドカップが開催されます。その翌年にはパリオリンピックが行われます。

 では、具体的に10の重要戦略を見ていきましょう。

①「メディア連携強化」
キー局はもちろんですが、新しいメディアとも連携して、メディアへの露出を増やしています。最近、いろんな番組でバスケが取り上げられるのが増えていると思うんですが、これはたまたまではなく、いろいろと手を打った結果、増えているのです。サンダーズもB1に上がると、さらにメディアへの露出は増えてくると思います。

②「デジマ本格展開」
 デジマというのはチケットを買うシステムです。ものすごい数のデータがありますので、そうしたデータをしっかり二次活用していこうと、システム投資を行っています。ファンがタイムリーな情報を得たり、ファンにとって有益な情報を提供し続けるような環境づくりをしています。

③「年間“山場”拡充」
「開幕」「ALL☆STAR(オールスター)」「Championship(チャンピオンシップ)」に加え、「B.FES秋・春」「年末年始」と、年間を通じたリーグ全体イベントを展開していきます。

④「主管試合複数日化」
ALL☆STAR、FINAL(ファイナル/日本一決定戦)を複数日化し、全国の盛り上がりの拡大を図っていきます。例えば、昨シーズンまでは、横浜アリーナでファイナル1試合を行っていたのですが、今シーズンからは3戦2勝方式になりました。優勝決定戦の試合数を増やすことで、それだけチケットが売れます。いつかはプロ野球の日本シリーズのように7戦5勝方式にしたいと思っています。

⑤「夢のアリーナ興隆」
沖縄に、収容人数9000人ぐらいの規模のアリーナができます(2021年3月完成)。他に千葉、川崎など8、9カ所でアリーナ計画が持ち上がっています。これまでは国体があるたびに体育館を作ってきた歴史があります。それとは違い、「スポーツをする体育館」ではなく、「観るアリーナ」です。アメリカのNBAのようなアリーナの姿が見えてきます。

⑥「地域バスケ熱UP」
JBAや都道府県協会との連携強化を進め、地域バスケ熱アップを加速させていきます。

⑦「SB Grの連携拡大」
ソフトバンクグループのLINE統合で、SB、Yahoo(スポナビ)に加え、強力なプラットフォームの連携を加速していきます。ソフトバンクはリーグのビッグスポンサーをしてくれていますので、彼らが持っているLINE、Yahooといったものを使って、どんどん情報発信をしていきたいと思っています。

⑧「toto対象化」
スポーツ振興くじ(toto) の対象に、2022年からバスケットボールも加わります。東京オリンピック後にスポーツ財政が縮小される中で、マイナースポーツの財源が少なくなって衰退していくだろうと考えられています。そこで、サッカーだけでなく、我々もtotoに承認いただければ、totoから得た収入が日本の多くのスポーツを支えることになり、Bリーグにも大きな財源がやってきて、Bリーグの社会的なプレゼンスも上がっていきます。

⑨「国際戦略推進」
2021-22シーズンから東アジアスーパーリーク(EASL)が開幕します。サッカーで言うアジアチャンピオンズリーグ(ACL)みたいなものです。将来的には、いつか世界チャンピオンの称号を得られる道筋ができるでしょう。クレインサンダーズも今後、強化を進めていけば、いつか世界一にもなれる可能性も秘めています。そういう世界観がバスケットボール界にも訪れようとしています。

⑩「将来構想推進」
現在は、B1、B2、B3の3つのカテゴリーがあり、昇降格でチームを入れ替えています。現在、サンダーズはB2に所属し、B1昇格を目指しています。我々は、2026年から新B1を作ります。プレミアカテゴリーのようなもので、エクスパンションで基準をクリアしたクラブが、そこに入ります。
新B1は、プロ野球のようにそのリーグに入ったら下部のリーグに落ちることはありません。まだ検討段階ですが、クリアすべき基準はすでに発表させていただいております。売上高12億円、平均入場者数4000人、地元行政の結びつきの中で、アリーナを自由度を持って使える状況を獲得していく。この3つが条件です。
今、この基準をクリアしているクラブは3つしかありません。達成するのに難易度は高いと思います。この基準をクリアしているかどうかを判定する最初の会議が2024年に開かれます。おそらくサンダーズはそこに向けて急ピッチで準備を進めていると思います。
Jリーグと同じように、B1、B2、B3のままでいいじゃないかと思う人もいるかと思います。ではなぜ、こんなことをするかというと、昇格降格があると、下のリーグに落ちてしまった場合、クラブの経営がきつくなるんですね。地元や地域に根付くようなところにお金が回らず、選手だけにお金が行ってしまう。それだと、クラブは勝つことしか興味がなくなってしまいます。トップレベルのところで腰を据えてビジネスを作っていかないと、長い目でクラブの成長が描けない。不安定な状況では投資も進まないということで、新たな世界観を作ろうと決めています。あと3年で、入場者数350万人、事業規模も370億円ぐらいまでにもっていって、2026年、2027年ぐらいまでにはCBA(中国プロバスケットボールリーグ)やユーロリーグを抜く、世界第2位のレベルまでにまで追いついて、NBAに次ぐリーグにしたいと思っています。

<2に続く>