「自分ができることをしっかりと」 夢を足でつかんだ鷹のスピードスター

福岡ソフトバンクホークス
周東 佑京


*天性の足の速さを生かした「盗塁」を武器に、福岡ソフトバンクホークスの育成選手から日本代表に上り詰めた稀有な選手。昨年は、連続盗塁記録の世界記録を塗り替え、今季の活躍も期待されている周東佑京選手の2019年6月に地元スポーツ誌に掲載されたインタビュー記事を公開いたします。

©星野編集事務所 ©樫本ゆき ©川﨑賢大


この写真が雑誌の表紙を飾った

2年連続日本一を狙う福岡ソフトバンクホークス。球界の常勝軍団ともいわれるチームの中で、群馬出身の若きホープがいる。太田市生まれ、元東農大二の遊撃手、周東佑京だ。育成から今年3月に支配下登録され、「奪Sh!」を掲げるチームの側面を「俊足」で支えている。

文/樫本ゆき  撮影/川崎賢大

 球団史上初の3年連続日本一を狙うソフトバンクは、今年のスローガンに「奪Sh!(ダッシュ)」を掲げた。この言葉には、リーグ優勝を西武から奪い返す(奪取)意味と「機動力」に対する強い思いが込められている。というのも、ソフトバンクは昨季、ホームラン数は12球団トップ(202本)でありながら、盗塁数はリーグ5位(80盗塁)に甘んじた。工藤公康監督はスローガン発表の時「うちは走塁や盗塁が足りていない。全力疾走、塁を盗む、積極的に走るという強い気持ちも込めた」と話し、「Dash!」(=勢いよく走る)を積極的に取り入れる方針を明らかにした。その年に、彗星のように現れたのが、俊足が武器の2年目選手、周東佑京だった
 「表紙ですか! マジですか!」
取材の主旨を説明すると、目を丸くして驚いた周東。斎藤佑樹(日本ハム)が表紙の02号を見せると「小学生の時、早実の全国制覇、見てましたよ。同じ太田市出身で家も割と近所なんですよ」とうれしそうに話した。ソフトバンクで群馬出身は、周東だけ。「打撃投手の戸部さん(=浩、樹徳―日本大―千葉ロッテ)がいますけど、こういう取材がくると群馬のことを思い出しますね」と、懐かしそうに話した。

 子どもときから痩せ型で、小学2年生時に「藪塚リトルファイターズ」で野球を始めたころは、打球が前に飛ばない、力のない選手だった。
「打順はいつも2番。とにかく細くて、パワーがなかったので、打撃が嫌いでした。サインが出なくても自分でバントを選んでいた(笑)。ホームラン? もちろん打てるような選手じゃなかったです」
 ホームランの記録はすべてランニングホームラン。50メートル5秒7の快足を飛ばし、打球ではなく「足」で見ている人を驚かせるタイプの選手だった。「自分では特別に『速い』と思っていたわけではないんですが、周りから『速い、速い』と褒めてもらいソノ気になっていました。リレーではいつもアンカーでしたよ」
「決して綺麗なフォームではない」と自己分析する周東の走りを、高校時代取材したスポーツライターの安倍昌彦氏は「エリマキトカゲのようだ」と表現した。「独特な走り方。地を噛んで走る姿はカモシカというよりも、ハ虫類のようでした」。東農大二の1学年上で主将、捕手を務めた橋本彗(ひかる)さんは「一見速く見えないんですけど、歩幅がとにかく広くて、気づいたら打球の到達点にいた。当時はショートを守っていて、守備範囲の広さは抜群でした」とその脚力を絶賛する。
 育成枠で入団したが、その足はずば抜けていた。ルーキーイヤーの2018年、ウエスタンリーグ90試合で打率2割3分、リーグトップの27盗塁をマークした。7月12日に行われたフレッシュオールスターでは9番右翼で先発出場。2安打を放っただけでなく、右翼守備でのランニングキャッチや、3回1死二塁からの好走塁(中堅手の悪送球間に本塁突入)など、やはり「足」で最優秀選手賞を受賞した。同年10月には南米コロンビアで行われた「第2回WBSC U-23ワールドカップ」に参加。共に群馬の高校野球を盛り上げた同い年の原澤健人(前橋工―東洋大―SUBARU)とチームメートになり「侍ジャパン」を経験。11月にはプエルトリコでのウインターリーグでは、26試合で3割4厘と、打撃面で結果を残す。「海外の選手たちはみんなハングリー。必死さを学んだ」。国内外でのさまざまな経験がプロ1年目の周東を大きくさせた。

試合後に、快く撮影に応じてくれた周東

今年でダメなら終わり――。
2年目の危機感を、結果でつなげた

「自分は大卒ですし、今年でダメなら終わり、くらいの気持ちでやらないといけないと思っていました」
 危機感を抱いて臨んだ2年目。A組(1軍)で参加した2月の春季キャンプ。2月16日の紅白戦で「9番左翼」で出場し、6回無死から大竹耕太郎の内角球をライト前に運ぶ三塁打を放った。この時の三塁到達タイムが10秒71。2018年データ分析結果(DELTA集計)の源田壮亮(西武)、牧原大成(ソフトバンク)、野間峻祥(広島)と並ぶ球界トップレベルだということが話題となり、工藤監督からも「いい足を見せてくれたね。足のある選手が外野を守れれば守備範囲も広がる。外野と三塁、両方できるなら彼の可能性も広がるね」と好評価をもらった。ユーティリティー性が生き、3月26日に晴れて支配下登録。「やっとスタートラインに立てました。呼ばれた時、顔がニヤけてしまいました」と茶目っ気たっぷりに笑った。背番号は23。これまで村松有人(外野守備走塁コーチ)や、城所龍磨(ソフトバンクジュニアコーチ)など「スピードスター」と呼ばれた選手の番号を継承することになり、番号の重みを感じたという。
 「4月に入ってケガ人が多く出て、僕はそのカバーという形で出してもらいましたが、誰かの代わりという意識ではなく『自分のできることをしっかりやろう。自分がやれることしかできないのだから』と割り切ってプレーしました。毎日必死です」

 中村晃に続き、4月は主砲の柳田悠岐がケガ(左ひざ肉離れ)で離脱。福田秀平も左わき腹痛で登録抹消に。チームは主力の外野手がいなくなるという窮地に立たされたが、内外野を守れる周東がその穴を埋めた。21日の西武戦(メットライフドーム)に1軍初スタメンを果たすと、プロ初本塁打(3ラン)を含む4打点の活躍。
「自分がまさかプロ野球選手になって、1軍でホームランを打てるなんて。野球人生の中でもNO.1のベストシーンになりました」と興奮をあらわにした。ゴールデンウイーク9試合中、主に「2番」を任され8試合出場で8盗塁。3割を超える打率も残し絶好調。ホームランまでも飛び出し、巡ってきた“好機”を周東は結果で応えた。
「高校までの自分は、セーフティー(バント)で塁に出ようとか、ショートゴロ打てば(足で)なんとかなるみたいな考えしかありませんでした。大学(東農大北海道オホーツク)に入って三垣勝巳コーチ(現監督)から『プロに行きたいのなら打撃を変えろ。ホームランを狙え』と言われて意識が大きく変わり、毎日500本の素振りを欠かしませんでした。力はまだまだですが、あの時の気持ちを忘れずに、これから努力していきたいですね」

 ある日の福岡ヤフオクドーム。18時開始のナイターまでまだ6時間もあるというのに、早出特打ちを行う周東の姿があった。打撃投手からの緩い球を気持ちよさそうに打つ中、高く打ち上がった打球が観客のいないライトスタンド前列に「ドスン」と入った。
「ッシャー!」
小さくガッツポーズ。無邪気なその姿は、群馬で白球を追っていた少年時代そのままだ。
「ゆくゆくは盗塁を50、60個決められる選手になりたい。足を武器に行きたいですが、守備固めとか代走とか、そこで終わるのは嫌なので。打撃も頑張って、貪欲にレギュラーを狙います。まずはもっと太らないと…(笑)」
夏を「奪Sh!」で駆け回る。

<了>

■Profile
周東佑京(しゅうとう・うきょう)
1996年2月10日生まれ。群馬県太田市出身。179㎝、67㎏。右投左打。東農大二では3年夏に主将で決勝進出。髙橋光成(西武)擁する前橋育英に敗れる。東農大北海道オホーツクでは全国大会3度出場。2018年育成ドラフト2位でソフトバンク入団。背番号23、内野手。

*プロフィールは2019年6月時点のもの