群馬クレインサンダーズ
平岡富士貴ヘッドコーチ
今季の群馬クレインサンダーズは、B2とは思えない華麗なプレーの数々で、プロの試合を見る醍醐味を教えてくれる。勝ち続けることで見ている人たちを元気にするだけでなく、試合終了間際まで接戦にもつれ込んでも最後まであきらめることなく戦い続ける姿に、勇気さえも与えてくれる。
Bリーグが2016-17シーズンにスタートしてから、チームを指揮している平岡富士貴ヘッドコーチの下、これまで2016-17、2018-19の2度のプレーオフを戦い、2018-19シーズンはプレーオフで準優勝したものの、B1ライセンスが交付されずにB1昇格を逃している。
昨年8月に群馬クレインサンダーズを運営する群馬プロバスケットボールコミッションが株式会社オープンハウス(社長は群馬県出身の荒井正昭氏)の100%子会社となり、豊富な資金力で今季の新加入選手はすべてB1経験者を獲得した。それが奏功し、前半戦30試合を28勝2敗と勝率9割超えという驚異的な成績で、現在リーグ首位を独走中だ。
1月20日の練習後、平岡HCに、過去に率いたチームと比べながら、今季のチームの強さを語ってもらった。
取材/Eikan Gunma編集部
まだまだ改善しなければいけない
――現在、わずか2敗で勝率9割超えという驚異的な数字でB2リーグ首位を独走。しかも2017-18シーズンに秋田ノーザンハピネッツが達成した22連勝を抜き、1月20日現在、26連勝(1月31日現在、31連勝)とリーグ記録を更新中です。前半戦を終えて、この成績に満足していますか。
平岡HC 非常に満足ということではなく、「チームとしては非常にいい前半戦を終えることができたかな」くらいですね。まだまだ後半戦があるので、それを考えると前半戦の成績を次につなげなくてはいけないと思います。選手はよく頑張っています。記録を作ったり連勝したりするのが目的ではないので、皆がきちんと(B1昇格、B2優勝という)ゴールに向かっていることが、今の結果につながっているのかなと思っています。
――前半戦を終えて、チームとしての仕上がりは思った以上に早ったですか。
平岡HC そんなことはないです。ここまでクロスゲームもありましたし、ビハインドの情況がずっと続いた試合もありました。そうならないように、自分たちは何をすべきかをずっと話してきたので、それが少しずつ浸透してきたのかなと思います。
前半戦の試合すべてがよかったかと言えば、少しはよくなってきていますが、まだまだ改善しなくちゃいけないことはあります。
――今季、帰化選手のマイケル・パーカー選手、外国籍選手のジャスティン・キーナン選手、ブライアン・クウェリ選手、トレイ・ジョーンズ選手がチームに加入すると決まったとき、どんなチームになると思いましたか。
平岡HC 最初の段階では、少し重たい(速い展開ではない)バスケットになるのかなというイメージはありました。もしかしたら速いバスケットができないんじゃないかという感覚から入りましたが、トレイが意外にスピードもありましたし、それにバスケットをとても理解していた。トレイのほか、皆が「for the team(フォー・ザ・チーム/チームのために)」という気持ちでいてくれていましたので、(コロナの影響で来日が遅れて、シーズンが始まって3試合目でようやくチームに合流した)トレイ、キーナンのコンディショニングが上がってきてから、「テンポのいいバスケットができるんじゃないか」と感じられるようになりました。
――平岡HCの理想のバスケットに近づいていますか。
平岡HC もう少しボールを動かして、ボールをシェアしながらやっていくことと、もう少しそれぞれがハードに(厳しく)ディフェンスして、(スタートからではなく)ベンチから出る選手もディフェンスの強度を変えることなくやれるようになれば、目指しているバスケットに近づけるんじゃないかと思います。
――山崎稜選手、笠井康平選手、上江田勇樹選手、田原隆徳選手の日本人選手もすべてB1から獲得しました。今季、チームのスタート時から、B1昇格に手ごたえを感じていましたか。
平岡HC それはなかったですね。B1から来た選手も「B2ってどれぐらいのレベルなの」って手探り状態だったと思いますし、きっと不安もあったと思います。
日本人の補強では、まず笠井のところをどうするか、そして(これまでずっと負担がかかっていた)小淵をどれだけ休ませられるのかを考えましたし、山崎、上江田をどうやって使っていけばパフォーマンスが上がるのかもすごく大事なところでした。ましてや、ずっとチームにいてくれた選手をおろそかにするわけにはいかないですし、まずは競争させることから始まりました。
――毎シーズン、小淵選手にかかる負担が大きかった中で、笠井選手の活躍はチームにとってはプラスになっていますね。
平岡HC それは大きいと思いますね。笠井はしっかりしていますし、アグレッシブだし、ディフェンスでもハッスルできる選手なので、チームにとっての貢献度はすごく高いと思います。
――笠井選手はシーズン序盤、チームを生かすことを優先したプレーが多かったですが、最近は自らシュートを打ちに行くなど、積極的なプレーも見られます。
平岡HC 攻めることも多くなってきましたし、ゲームメークも落ち着いてできるようになってきましたので、期待に応えてくれていると思います。
状況判断はできている
――今季の練習風景を見ていると、昨季までは平岡HCがプレーを止めて選手たちに指示を出していることが多かったですが、今季はじっと選手たちの練習を見ているところが、これまでとは違うと感じました。
平岡HC これまでチームにいた選手と、上(B1)でやってきた選手の違いなんですが、B2でずっとやってきたり、他のチームに移籍せざるを得なかったりした選手は、同じことを何度も何度も言わないとわからないことが多かったんです。でも今は、「やらなきゃだめだよ」という一言で、選手たちの集中力がパッと増しますので、そういうところはすごいと思いますね。
皆、やるべきことを理解しているので、ダメなものは自分たちで注意し合ったり、コミュニケーションを取ってやれるようになってきたので、僕が口を挟まなくてもいいのかなと思っています。
指導に関しては、基本的な考え方は変わっていないですが、「ああだよ、こうだよ」といったことに対して選手たちはやろうとしてくれています。それをやらなかったら、以前と変わらず、細かく指示をしていたと思います。僕が言ったことに対して、それが「できる、できない」ではなくて、「やろうとしたかどうか」が大事なんです。これまでのチームには、「なぜやらないの」という本質的な問題がありました。今季のチームはそれがない。そこの違いは大きいと思いますね。だから今は、僕が大声を張り上げる必要もないですし、きつく言う必要もないんです。
――今年1月2日のリーグの連勝記録22を更新した西宮戦後の会見で、「今は、僕がいなくても勝つんじゃないかなと思っています。選手だけで一生懸命にコミュニケーションを取れてやっているので」と言っていました。
平岡HC そうですね。互いにもっと言い合っていけるようであれば、もっと強くなると思います。今はまだ全然おとなしいですけど。
――試合を見ていて、昨季までは3ポイントシュートの決定率が悪かったり、チェンジングディフェンスができなかったりなどで、試合に負けることも多かったと思います。今季は一転、それらがチームの武器になっています。
平岡HC これらは、今までにはないくらいの精度はあると思います。
――ディフェンスの理解度は上がってきていますか。
平岡HC ローテーションで、オープンな状況(相手をフリーな状態でシュートを打たせてしまうこと)を作ってしまっているので、もうちょっとですね。練習中でもシュートをオープンで打たれてしまうことがあるので。大きな選手が、外までローテーションすることを僕は望んでいるのですが、自分が外に出て行ったしまった後に(リング下で)リバウンドを取る選手がいなくなるという怖さが外国籍選手たちはあるのでしょう。それは理解しているのですが、ローテーションがうまくいかなくて、相手に得点を取られてしまうこともあるんです。
――ただ、そういったローテーションミスも、だいぶ減ってきたように思います。
平岡HC 少なくなってはきていますね。今日の練習でも非常にいいローテーションが多くあったので、そういうことができれば失点もさらに抑えられて、もっとテンポのいいバスケットになると思います。
――オフェンスでは、今季、特に制限をかけていませんね。どういった意図があるのでしょうか。
平岡HC 選手の能力と一緒で、今のうちの選手たちは、1を言ったら、3、4ぐらいはやれる選手が揃っています。判断能力もある選手がいるので、僕が「こう来たら、ここ」「こう来たら、そこ」と細かい指示を出さなくてもすむようになりました。それができるのは、状況判断ができている証拠なので、であれば制限する必要はないのかなと思っているからです。
――1月9日の佐賀バルーナーズ戦では、相手がディフェンスシステムをこれまでと変えてきたことで、前半は非常に苦しい展開になりました。パーカー選手がどの試合よりも試合開始直後から集中力を高めて戦っているのが印象的でした。
平岡HC 彼がいるのといないのではまったく違うチームになります。トレイもそうですけど。
シーズンの後半戦は、ジャスティンとブライアンのビッグ2のコンビでどれだけ戦えるかがキーになってくると思います。このビッグ2で戦えれば、そこにマイク(パーカー選手)を入れてビッグ3で戦えるので、後半戦はそこがカギになるのかなと思います。
――その佐賀戦、点が取れない悪い流れに突破口を開いたのは、パーカー選手や外国籍選手たちだったと思います。
平岡HC そうだと思います。アウトサイドシュートがタフショットになってしまったり、ボールの流れを遮断されてしまったりした中で、トレイに対してはすごいプレッシャーをかけられていたので、試合の出だしはリングに向かうプレーが少なかったですよね。少しずつディフェンスがよくなってから、流れを引き寄せられるようになりました。
――相手にリードされていても、試合の中で選手たちが自ら修正できているのが、連勝につながっていると思いますが。
平岡HC それはすごくあると思いますね。コート上で、外国籍選手同士でコミュニケーションを取っていますし、外国籍選手が日本人に、日本人が外国選手にアドバイスする姿が見られるようになってきたので、選手同士で、「次はああしよう、こうしよう」というのが生まれているのだと思います。
――平岡HC自身も、選手とのコミュニケーションを大事にされているのでは。
平岡HC バスケットの場って、単純に人材育成なんです。なので、何か自分の経験談を話せなければダメだと思っていますし、そういったところで選手たちとコミュニケーションをとるのも好きなんです。それが、プライベートな時間だろうが、バスケットの時間だろうが……。
このバイウイーク(レギュラーシーズンでは毎週試合が開催されるが、試合がない週もある。これをバイウイークという)で、選手一人ひとりと面談をしたんです。「前半戦はどうだったか、後半戦はどうしたらいいのか、意見や要望があれば何でも言ってください。われわれに要望があれば、聞ける、聞けないは当然あるかもしれないけど、できることは今すぐにでも改善していくので」という話を選手たちにしました。
――その面談の中で選手たちは、前半戦に手ごたえを感じていましたか。
平岡HC 皆、「感じている」と言っていました。後半戦については、「相手はもっとスカウティングしてくるし、「群馬を倒したい」というチームが増えてくるから、前半戦よりももっと難しくなるんじゃないか」とも言っていましたね。
――今のサンダーズを見ていると、選手一人ひとりがチームの目標であるB1昇格、B2優勝だけを見ているのではなく、その先のB1での戦いを見据えてバスケットに取り組んでいるように見えます。
平岡HC シーズン前に選手たちに、「B1に上がることが、今季のミッションだよ」と伝えました。ただ、プレシーズンマッチで、僕らはB2のチームと試合をしていないんです。宇都宮ブレックス、名古屋ダイヤモンドドルフィンズ、千葉ジェッツ、信州ブレイブウォリアーズと、全部B1のチーム。これらのチームと対戦して一度も勝てませんでしたが、選手たちには「B1に上がっても、翌年B2に下がってくるレベルだったとしたら、それでいいのか」という話をし、「B2で勝つのは当たり前で、じゃあ、B1で勝てるチームを目指さなければならないんじゃないの」というところからシーズンをスタートしたんです。選手たちは皆、自分がB1でどれだけできるのかというのを試してみたいんじゃないですかね。
僕のやろうとしているバスケットに選手が合っている
――1月23日のアウェイでのライジングゼファー福岡戦からリーグ後半戦に入りますが、さらに強化していくところはどこでしょうか。
平岡HC ディフェンスのローテーションの守り方を、もうちょっと明確にしたいと思います。あとは選手の判断も大事ですけど、その判断を対戦相手によって変えていくことができるかどうか。それらができるようになれば面白いかなと思いますね。そのためには、選手の頑張りは当然ですが、より広範囲なスカウティングも重要になります。
――このままの成績で後半戦を終われれば、その先にB1昇格、B2優勝をかけたプレーオフが待っています。プレーオフに進出するチーム数が、これまでの4チームから8チームに増えています。プレーオフで対戦するのが嫌だと思うチームはどこですか。
平岡HC たくさんあります。茨城ロボッツも嫌ですし、仙台89ERSも嫌。西地区で言えば、佐賀。ファイティングイーグルス名古屋もきっといいチームだろうし、そう考えるとプレーオフが怖いですよね。僕らは、今、試合には勝っていますけど、すべての試合を20~30点差で勝っているわけではないわけですし、ワンゴール差で勝ち抜いた試合もあれば、1点差で勝った試合もある……。やっぱり、佐賀が怖いかな。
――B1昇格、B2優勝に向け、プレッシャーはありますか。
平岡HC まだないですね。それよりも、早くレギュラーシーズンが終わってほしい。前人未踏の5敗(*)までで終わるという方が、僕にとってはプレッシャーです(笑)。
(*)2017-18シーズンに秋田ノーザンハピネッツが54勝6敗でレギュラーシーズンを終え、B1昇格を果たしている。今季のサンダーズは、「前人未踏」というスローガンを掲げ、わずか5敗しかしないということも目指している。
――前半はわずか2敗でしたので、後半戦を3敗で終われれば、前人未踏を達成できますね。
平岡HC 達成できる可能性は少なくはないと思いますが、ストレスです(笑)。
――チーム創設からずっとサンダーズを見ていますが、「選手の能力が高いと、バスケットの質も変わるのだなあ」と実感しています。
平岡HC もしかしたら、僕がやろうとしているバスケットに、今の選手たちが合っているのかもしれませんね。なので、「後半は何かを大きく変えようとは思っていないし、負けたからと言って、ガラッとバスケットを変えることもない」と選手たちには伝えています。
――昨季までは、平岡HCのやりたいバスケットをなかなか体現するのは難しかったので、ストレスも多かったのではないですか。
平岡HC うまくいかないけれども、それをうまくさせるためのプロセスが好きでしたね。今は逆に、「負けたらどうしよう」という気持ちのほうが強い。そこは嫌ですね。これまでは、「負けたらどうしよう」と思ったことはなかったじゃないですか。「このチームを何とか強くして、プレーオフまで持っていって……」ということにやりがいを感じていましたし。今も、チームを作り上げてはいますが、「負けたらどうしよう」という気持ちの方が強い。やりがいよりもプレッシャーです(苦笑)。
――負けたときのご自身の姿を想像したりすることもあるのですか。
平岡HC あっけらかんとしているんだろうなと思いますね。凹むことなく。ただ、これだけ勝ち続けているので、負けたときに、選手たちにどういう声をかけてあげられるのかなとは考えますね。
僕は、彼らが負けるときは、きっと気持ちが緩んだときしかないかと思っています。あとは、当然、ゲームプランを遂行しようとしなかったときなのかな。
「負けるときは、気が緩んだときとゲームプランを遂行しなかったとき」と言い切る平岡HC。そう言えるのは、B2屈指の能力を備えているという手ごたえがあるからなのだろう。シーズン終了まであと約4か月。B1昇格、B2優勝が徐々に現実味を帯びてきた。
<了>
Profile
平岡富士貴(ひらおか・ふじたか)
1974年4月26日生、茨城県つくば市出身。バスケットの強豪校・土浦日大高から日本大学に進み、卒業後は、新潟アルビレックスBBなどでプレー。引退してから指導者の道へ。2013年に新潟のHC、15年には出身地の茨城ロボッツ(当時、サイバーダインつくばロボッツ)のHCに就任。2016年からサンダーズのHCとなり、下位に沈むことも多かったチームを就任1年目で強豪チームに押し上げた。今季で5季目。
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