甘えを断ち切るために秋田から群馬へ。経験豊富なエースが、チームを8年ぶりの夏の甲子園に導く投球を見せる!
夏の県予選で現在ベスト4に進出している健大高崎。今春のセンバツで力を出せず完敗した報徳学園戦(兵庫)をきっかけにチームはさらに進化し、春の関東大会で優勝した勢いを保ち、8年ぶりの優勝を目指す。ここでは、チームのキーとなる3選手のインタビューを紹介する。
取材/Eikan Gunma編集部
小玉湧斗(こだま・ゆうと)
3年・投手
2005年5月27日生まれ、秋田北シニア(秋田市男鹿東中学校)出身、175㎝・68㎏、右投右打
――エースとして高校最後の大会を迎えますね。
自分たちの代で、秋、春と勝ってきたので、「強い」と見られがちなんですけど、ここ何年も決勝戦で勝てていないので、「今年の夏は違うんだぞ」という気持ちでやっていかないといけないと思います。
――夏は決勝戦に進出しても、甲子園に行けないもどかしさがあると思います。去年の樹徳との決勝戦を振り返って、どうしたら勝てたのだろうかと思いますか。
先輩の芹沢一晃さんが先発していたんですが、ずっとケガで投げられなくて頑張っていた姿を見てきたんです。決勝戦で芹沢さん樹徳に打たれてしまって、そこで自分が投げることになったんですけど、「もう一度、芹沢さんが投げている姿を(甲子園で)見たい」という気持ちで投げていました。あともう一歩というか、自分の力が足りなかったです。
――昨夏は、1、2年生がベンチに多く入っていて、決勝戦では最後の最後でチャンスを作りながら逆転できなかったという悔しい思いを経験している選手も多いですが、その悔しい経験が今のチームに生きているのではないですか。
あと1本が出なかったというのは、日頃の行いや学校生活から来ているのではないかとチーム全員で考え直して、学校生活や寮生活を当たり前にしっかりやるというのを話し合って決めました。
自分たちが一生懸命に野球に取り組んできて、なぜ(夏の決勝戦で)勝てないんだろうと考えた時に、普段の生活に行きついたんです。みんなで話し合った後に、グループLINEで、「明日は、提出物があるから忘れないようにしよう」と流したりして、そういう学校生活の細かいところもきちんとやることで、心も鍛えて、それを野球に反映させるようにしたんです。
――その成果が、秋、春の大会優勝と春の関東大会優勝につながったんですね。
はい。自分は春の関東大会にはケガで出られなかったのですが、健大には力のあるピッチャーが多いことも証明されたので、チームにとってプラスになったと思います。
――力のあるピッチャーが他にもいることで、小玉君の負担も減ったのではないですか。
自分が夏に一人で投げ切るのは本当にきついと思うので、マウンドを任せられるのは心強いです。その分、大事な試合では自分がエースとして責任を持って投げ切ろうと思っています。
――ところで、いつケガを?
もともと股関節の部分の筋肉が硬くて、肉離れをしてしまったんです。春の大会の(完投した)準決勝の時に痛みが出たんです。
本当は、今日(6月22日)の練習試合が復帰戦電だったんですけど、雨で試合が中止になりました。
――小玉君は、1年の秋から公式戦に出ていて、経験も十分に積んでいますね。
本格的にレギュラ―になったのは2年の春です。
――球速は、去年の夏が最速140キロちょっとでしたが、今は150キロまで球速が伸びています。1年で10キロほど速くなっていますが、球速を上げるために取り組んだことを教えてください。
まずは体づくりに取り組みました。2年の秋の時は体重が65キロで、今は74キロぐらいに増えました。トレーニングも前よりもやるようになりました。
――筋トレで強化した部分は?
特に強化したのは肩甲骨周りの筋肉です。自分は投げる時に下半身で投げるというよりは上半身を重視して投げるタイプなので、投げる時の出力を上げるためにベンチプレスやダンベルなどを使って上半身の強化に取り組みました。
上半身で投げる分、ケガも怖いので、インナーマッスルを鍛えて、ケガをしないようにすることにも取り組みました。
――上半身を重視して投げるというのはどういう投げ方なのでしょうか。
自分は下半身が硬いので、下半身で投げると股関節に負担がかかってしまうんです。今までは歩幅が結構広かったんですけど、歩幅を狭くする分、上半身の(動き)が走りやすくなるんです。下半身を止めて、上半身を動かすイメージです。
――上半身の振りが大きく速くなることで、球質にも変化があったのではないですか。
はい。自分は球の回転数や回転軸に自信を持てるようになりました。
――持ち球は何がありますか。
ストレートとスライダー(横)、チェンジアップ、スプリットです。
――参考にしているプロ野球は誰ですか。
山本由伸選手(オリックス)と、ストレートは藤川球児選手(阪神などで活躍。2020年に現役引退)です。子どもの頃から藤川さんに憧れていて、球の握りを参考にしています。
――チームとしてさらに力をつける転機になったのが、春のセンバツで2-7で敗れた報徳学園戦ですが、この試合から得たものは何でしょう。
自分が先発だったのですが、いっぱいいっぱいになってしまって気持ちに余裕がなくなってしまったんです。自分が勝たせなきゃという思いが強くて、抑えたいという気持ちが先行してしまったんです。「自分が自分が……」ではなく、もっと周りを見るというか、守備も守ってくれているし、そういうところに気づけませんでした。
――夏の大会前に、そこに気づけたのは大きな収穫ですね。春の大会や関東大会でも他のピッチャー陣が頑張ってくれましたし、夏は余裕を持って投げられそうですね。
他のピッチャーが頑張ってくれる分、自分もエースとしてそれを上回らなければならないという気持ちはあります。
――練習にも必死に取り組んで、技術も磨いて、後はメンタル面の強化も重要になりますね。メンタル面を鍛えるためにやっていることはありますか。
冬場のトレーニングはランニング系のメニューが多くて、そこで自分が声を出して、先頭を走って引っ張るとか。そういうところを意識して取り組みました。
――この夏は、高校野球の集大成になります。どういった思いで夏を戦いますか。
まずは甲子園に出ることを第一優先にして、指導者の方々、家族といったこれまで自分たちを支えてくれた人たちに感謝の気持ちを込めて戦いたいと思います。甲子園に出ることが、支えてくれた人たちへの恩返しになると思うんです。
――高校卒業後にプロに行く希望を持っているのですか。
大学に進学する予定です。大学でもっと技術を磨いて、即戦力になれる選手になってからプロに行きたいです。
――目指しているのはどんなピッチャーですか。
チームを勝たせることができるピッチャーです。調子が悪い時でも勝てるピッチャーです。150キロ、160キロを投げても打たれるピッチャーもいます。自分は140キロでも相手に打たれないようなピッチャーを目指します。
――小玉君は秋田県の出身ですが、東北には強豪校がたくさんある中で、なぜ群馬の健大高崎に入学を決めたのですか。
一番の理由は、選手が小学校、中学校から知っている選手がたくさん集まっていたからです。チームメイトの堀江大和(3年、捕手)も秋田なんですけど、堀江とは小学校の時の楽天ジュニアでバッテリーを組んでいたんです。
東北のいろんな高校からも声をかけてもらったのですが、東北の高校だといつでも親が来られるので、自分の中で甘えが出てしまうと思ったんです。関東だとなかなか親も来られないですし、親からしたら負担かもしれないですけど、なかなか親が助けに来られない状況の中で何でも一人でやる厳しい環境に自分を置きたかったんです。
――群馬の生活は大変なこともあったのではないですか。
2年半、群馬に住んでみて、第二の故郷になりました。野球ばかりでいろんなところには行けていないんですけど、高校野球を引退したら、美味しいお店にも行ってみたいです。
――チームの目標としては、甲子園での優勝を目指しています。甲子園で勝つために必要なこととは何でしょうか。
1試合1試合成長していくということが大切だと思っていて、強いチームは試合に勝っても反省点を振り返り、それを次につなげていけるんです。次の試合では、前の試合の課題をクリアして、また次の課題を見つける。そういうことをどんどん繰り返しながら力をつけていくのが、本当に強いチームだと思うんです。
甲子園に出た時点では、どのチームもそれぞれの県の予選を勝ち抜いて勢いがあるので、スタートラインは一緒だと思っています。甲子園で戦っていく中で、どれだけ勢いをつけて戦えるかだと思っています。
<了>