群馬の高校野球2023夏 高崎商科大附属高校編①

夏に向け集中力を高めて練習に取り組む商大附の選手たち

甲子園を意識して練習に取り組んだことが、今春のベスト4につながった

 今年の春季大会で、2004年の創部以来初のベスト4入りした高崎商科大附属高校。「『組み合わせの妙』」という声も聞こえましたが、僕はこのチームは力があると思っていました」と、渡辺賢監督は選手を信じる。
 国道18号沿いの烏川河川敷にある広いグラウンドには、保護者が手づくりしたバッティング練習場が併設されており、選手たちがグラウンドを効率的に使い、それぞれの練習に取り組んでいる。
 私立高校である商大附にはスポーツ学科などがないため、午後まできっちり授業を受けてから烏川沿いのグラウンドに移動。練習が始まるのは大体午後4時ごろで、平日は自主練習も含めて午後7時まで、夏の大会前は午後8時までの練習と決まっている。実質2時間半から3時間半の練習。長さよりも密度を重視している。それは、「長く練習してもそれが怪我につながる」という考えからだ。スタッフも全員が担任を持っており、どちらかというと公立校に近い。
 夏の大会に向け、ベスト4入りするなど力をつけている商大附を取材した。

取材/Eikan Gunma編集部

 渡辺賢(まさる)監督が練習時間を短くし、選手の休養を第一に考えるように指導法を変えたきっかけがあった。
 2年前に齋藤未來という左のピッチャーがいた。2020年秋の準々決勝で桐生第一に2-3と逆転負けをしたものの、秋に最速140キロを出していたため、「冬を越えて145キロが出るように頑張っていこう」と本人と話しながら強化することにした。しかし、強いボールを投げるのにしては、スクワットの数値が低かった。145キロを目指すとき、スクワットでこれぐらいの数値が必要という基準値がある。そのため、「スクワットを頑張ろう」という話になったが、想像以上にトレーニングを頑張りすぎて齋藤はヘルニアを発症。そのため2021年の春季大会を離脱せざるを得なくなった。そしてもう一人の左腕・狩野千智も肘の痛みで投げられない状態になるなどピッチャー陣の計算が立たなくなった。シードで出場することになっていたものの、ピッチャーがいない状態で大会を迎え、3回戦で農二に6-10で敗れている。渡辺監督にとってそのことが教訓になり、選手にケガをさせてはいけないということが身に染みた。

 もう一つ、渡辺監督の指導法を変えた出来事がある。
 昨年、佐々木大和という右腕のエースがいた。2年の秋に球速が142キロまで伸びたため、さらに球速を伸ばそうと自分でフォームをいじってしまった。冬を越えると、制球力が落ち、ストライクが入らないどころか、キャッチャーがジャンプしても取れないところに球が行くようになった。意欲的で頑張り屋な性格が裏目に出てしまった。
 「2年前の齋藤にしろ、去年の佐々木にしろ、球速を上げるためのアプローチが上手くいかず、3月から夏の大会にかけて、球の質を上げていくというところまでたどり着けなかったんです」と渡辺監督。

 この2つの教訓があって、「ケガをさせないで冬を乗り切る」「フォームを崩さない」という方針に指導を変えた。休養時間を長くとり、昨年12月のオフシーズンから全体練習を朝8時半から午後1時までにし、自主練をしても午後3時までにはグラウンドを出るように変えた。休養を多くとるため、平日のランニングメニューはほとんどしない。300メートルダッシュは1回3本を週1日にやるだけで、これは心肺機能を高めるリカバリーが主な目的。階段ダッシュや坂ダッシュは、ハムストリングなどの瞬発系の筋肉を鍛えるために行う。長時間の練習はケガをしやすくなると、今では行っていない。

 今春のベスト4入りの大きな要因になったのが選手の意識改革だ。
 今年1月から渡辺監督の高校時代の恩師でもある横浜高校硬式野球部元監督の渡邊元智さんをたびたびグラウンドに招き、商大附の練習を見てもらっている。それは「横浜高校で学んだことを商大附の生徒に伝えていきたい」との渡辺監督の思いからだ。
 練習のやり方はもちろん、「絶対に前橋育英や健大を倒せるようになるんだ」という強い気持ちを持って練習に取り組むことなど、渡邊さんの指導は選手たちの成長に大いに影響を与えた。さらに刺激になったのは、横浜高校との練習試合で手も足も出なかったことだった。全国レベルの高校と練習試合をしたことでチームはもちろん選手一人ひとりの課題が明確になり、選手たちの練習に取り組む意識が変わった。
 「うちはこれまで選手主体で練習をやっているような雰囲気だったんで、厳しさが弱かったんです」と渡辺監督。恩師の渡邊さんの指導や横浜高校との練習試合を通じ、「甲子園に行くチームを作るためには、今のままではダメだというのを自分たちで知ったのが一番大きかったですね」と渡辺監督もその効果を実感する。
 また、主将の瀬下恵太も渡邊さんからの指導を胸に刻み、練習に取り組む。
 「練習から常に甲子園を意識してプレーすることや、土のグラウンドでも『ここは甲子園なんだ』と思うこと、絶対に勝つという気持ちが大事なことを教えてもらいました。そういう気持ちを持っていないと甘さが出ると思うので、甘さが出ないためにも常に甲子園を意識してプレーすることを学びました」

 7月7日に開幕する第105回全国高等学校野球選手権大会群馬大会に向け、商大附は甲子園出場校と練習試合を組み、チームのレベルアップを図っている。
 商大の守備を引っ張るのはエースの最速147キロの星野空。春から変化球の精度も挙がり、投球も安定してきている。ただ、星野一人では夏は戦えない。多彩な変化球で相手を翻弄する右腕・髙橋勝瑛と、ストレートに伸びがあり、カーブも有効に使える左腕・木下明祐という2年生投手2人が伸びてきており、この3人で夏を投げ抜く。投手陣を引っ張るのは捕手の野口壮で、投手の良さを引き出すリードと、ブロッキングが得意な捕手である。
 攻撃では、主将で1番の瀬下が出塁し、2番の野口がチャンスを拡大。中軸の星野と高校通算本塁打20本以上の橋勇人が持ち前の打力で得点を決めるのが理想パターン。
 春季大会で創部初のベスト4という結果を残した商大附。「あと一歩で関東大会へ行けた」という自信を胸に、強豪校との練習試合で気づいた課題を克服しながら実力をつけた商大附が初の甲子園出場をかけて全力で夏の戦いに挑む。

<了>