水野HCが、サンダーズを日本一にするためのチーム作りを語る。

群馬クレインサンダーズ
水野 宏太ヘッドコーチ

今季、新たにサンダーズの指揮官に就任した水野宏太ヘッドコーチ(HC)。就任会見時に「HCは指針を示して、チーム作りをしていく責任者。それに対して選手、チームスタッフ、フロントスタッフを含め、全員が同じ絵を描いて進んでいかなければ強いチームにはなれない」と語っていたが、その言葉通り、選手はもちろんもちろんスタッフ全員で自らの役割を果たし強豪チームになるべく成長を続けている。サンダーズがどんなチームを目指しているのかを知るために、水野HCのこれまでのバスケット人生を紹介するとともに、サンダーズにチーム作りについても話を聞いた。
取材/星野志保(EIKAN GUNMA編集部)
取材日/2022年11月11日

*2022年12月19日一部変更有

自分から行動しないと、
自分の欲しいものは得られないし、
自分のなりたいものになれない

――水野HCは、都立駒場高校からアメリカのウエストバージニア大学に進学されました。なぜ、高校卒業後にアメリカに行ったのですか。

水野HC 僕は挫折、挫折の人生なんです(笑)。もともと僕はコーチになりたいと思っていたわけではなく、ただバスケットが好きで、バスケットにかかわる仕事をしたいと思っていたときに思いついたのがトレーナーだったんです。理学療法士の資格をとればトレーナーになれる可能性があると思っていたので、部活を引退した後に半年ぐらい必死に受験勉強をしたのですが、希望する大学に入れなくて浪人しました。2年目も志望する大学に入れなくて「もう1回浪人するしかないのかな」と考えていたときに、母から留学を進められました。アメリカはスポーツ医学の先進国。そこで学ぶのもいいかなと考えて留学を決めました。
 留学する前に、ヒューマン国際大学機構(HIUC)東京校で1年間みっちり英語を勉強してTOEFLで大学入学の基準となる点数を取ってから渡米し、ジュニアカレッジ(短大)に入りました。そこで一般教養を勉強したのですが、日本で英語の授業を受けていたにも関わらず、アメリカではネイティブ(英語を母国語とする人たち)の人たちの話すスピードについていけず、8、9割ぐらい何を言っているのか分からない状態でした。宿題が出されたことさえも聞き取れなかったんです。「これはまずい」と思って、授業が終わった後に教授のところに行って、「今日、宿題が出ましたか」と聞いていたら、教授から、「お前、授業を聞いていないのか」って怒られました。それから授業が終わったら教授の所に行き質問をする日々が始まりました。

 ジュニアカレッジを卒業して4年生の大学に編入するときに、アスレティックトレーナーになるのに適している大学を探して、入学許可が下りた4、5校の中からウエストバージニア大学を選びました。この大学のバスケ部はNCAA(全米大学体育協会)のディビジョン1に所属していて、アスレティックトレーナー学科のレベルも高いと聞いていました。実際に大学に見学に行って、学校の雰囲気やバスケ部が使っている施設を見て、「面白そうだ」と思ったんです。
 トレーナーの養成コースに入って1年間経ち、アスレティックトレーナー学部に入るための成績はクリアして、あとは試験に通るだけだったのですが、その試験を受けるためには75時間の実地研修が必要でした。その研修をしているときに、どうしても僕の中でトレーナーになるという夢がしっくりこなくて、「これを本当に一生の仕事にできるのか、これが本当にやりたかった仕事なのか」と自問自答を繰り返し、「もっとバスケットに関わる仕事がしたい」と思うようになりました。その中の選択肢の一つに「コーチの道もあるな」と思ったんです。運がよかったのは体育学部の中に、アスレティックコーチング学科があり、学科を変更して学ぶことにしました。

――ウエストバージニア大学時代、バスケ部の学生マネージャーになるために、何度もバスケ部に通っては門前払いされていたそうですが、ある日、バスケ部に行くとジョン・ビーラインHCがいて、選手になる道をあきらめずにトライアウトを受けていた水野さんを覚えていて、コーチングセミナーに誘われたそうですね。そのセミナーに参加した時に、「マネージャーになりたい」と伝えたことで、バスケ部のマネージャーになることができたという話を聞いて、その行動力と情熱はどこからきているのだろうと思いました。

水野HC これは、完全にコンプレックスからですね。バスケットの選手になりたかったけれど、僕にはその才能はありませんでした。自分が指導する側になって、あのときの自分の行動を見たときに、「いや、これではうまくならないわ」って思うようなことしかしていなかったですから(笑)。選手としてバスケットに関われないことが自分の中ではすごく不完全燃焼だったので、好きなバスケットの仕事をして完全燃焼したいという思いが、僕のモチベーションになっていました。言い替えるなら、コンプレックスが僕のモチベーションに変わっていったんです。

――モチベーションがあっても、行動に移すのはなかなか難しいと思います。

水野HC 自分から行動しないと、自分の欲しいものは得られないし、自分のなりたいものになれないというのをアメリカで学びました。
 ジュニアカレッジ時代にバスケットがしたくて体育館に行くと、ゲームにどうしたら入れてもらえるのか、どういうルールでやっているのかが分からなかったんです。バスケットをしたいと思っても、誰も仲間に入れてくれない。何度か体育館に通って、「どうしたらバスケットをさせてもらえるのだろう」と考えながら見ていると、勝ったチームは勝ち残りなのでそのままのメンバーで次のゲームをプレーしていました。負けたチームは入れ替えになり、次のチームのメンバーを決められる“親”が存在して、その人が自分でチームの選手を決められることが分かったんです。次の“親”はいい選手を獲りたいから、「次、お前、俺と一緒にやろうぜ」みたいな感じで声をかけるんです。でも誰も日本人の僕を選んでくれない。そこで僕は“親”になった人に、「僕を選んでよ」と、自分からアプローチをするようにしました。いつしか知り合いが増えて、彼らが“親”の時に「お前を選んでいいか」って言われたので、「OK!」という感じでチームのメンバーに選んでもらえるようになりました。
 そういうことを繰り返していくうちに、自分で何かやりたいもの、欲しいものがあるんだったら、それを掴むために自分の意思を示すことや行動を起こさないと何も手に入らないことを学びました。アメリカは、来る者は拒まないけど、来たところで実力を認められなかったら淘汰されるということも学べました。このようなアメリカでの経験から、気持ちの強さが磨かれたのだと思います。

――マネージャーからコーチの道へと進んだのはなぜだったのですか。

水野HC マネージャーとして、バスケットの現場の近くにいられるのは嬉しかったんです。もちろん選手としてバスケットができたらベストなんですけど、その実力もないのは自分でも分かっていました。あるとき、ふと「コーチってすごくやりがいのある仕事だな」と思ったんです。アメリカでは選手として大成していなくても、コーチとして大成しているという事例がたくさんあって、”コーチの道”もあるんだなと知りました。そこからだったので、僕はコーチとしてのスタートが遅いんです。「もっと早くコーチの道に進んでいたら、もっといろんなことができたのに」と思ったこともありましたが、そこで気づかせてもらい、最終的にコーチを仕事にできているので、逆にそれを気づかせてくれたタイミングがあってよかったなと思いますね。

――コーチとして大切にしている感覚は何ですか。

水野HC 「選手としてできること、できないこと」をちゃんと理解して指導するのは僕にはできないことです。それが弱点にならないように、僕の長所でどう補えばいいんだろうと考えたとき、自分にできなくても人を指導する力を身につければ、いいコーチになれると分かったんです。自分がプレーで見せられないのなら、映像を探して選手に見せればいい。そうやって、自分にできることを一つひとつ見つけながら、自分の武器な何なのかを考えながら、自分のやり方を見つけていきました。

――どうしたらいいのか、ずっと考えていたのですね。

水野HC 考えていましたね。選手が感じている感覚は、僕には絶対に同じレベルで理解できないんですよ。だったら、選手たちがいいプレーができるように、僕の感性と経験で伝えられるものは何なのかにフォーカスしたほうがいいと思ました。選手の細かい感覚、コート上のひらめきは、たぶん僕は一生理解することができないですから。
 けれど、僕にできるのは、各々の選手の強みは何なのかを理解した上で、その強みを最大限に引き出す戦術だったり、戦略コンセプトをチームに示したりすることで、一つの方向性を打ちだしてチームをまとめることです。これは選手経験がなくてもできます。

――相当、バスケットの勉強をされてきたのではないですか。

水野HC しましたね。でも、いまだに知らないことのほうが多いです。僕が目指している理想のコーチ像は、そのチームの文化、たどってきた足跡を理解した上で、選手たちを生かすバスケットをするコーチです。どこに行っても同じバスケットをするのではなく、所属したチームで柔軟にバスケットを変えられるのが僕のやりたいことなんです。今は北海道にいたときと同じことをしていませんし、A東京で昨季まで学んだことをそのまま使っているわけでもありません。サンダーズにはサンダーズのやり方があります。そのやり方を導き出していけばいいと思っています。

チーム作りで重視したのは
よさを最大限生かすこと、
双方向のコミュニケーション、
やるべきことを徹底する姿勢

――今季、シーズンが始まって11月11日現在、東地区3位と結果も出ていますし、何よりチームとしてまとまりもあるように思います。どのようにチーム作りに着手していったのですか。

水野HC まず、群馬のよさをしっかり分析して、それを生かすコンセプトを考えました。なおかつ、映像を見て、選手のよさを引き出すためにはどういう戦術をとるべきかを考えましたし、チームのコンセプトづくりとプランニングは徹底して行いました。もちろん、弱いところをよくする努力はしますが、それを見えないようにするのも一つのやり方です。見えないようにするためにはどうすべきかを考えました。
 さらに、今季、徹底的に意識しているのが、自分たちのよさをどれだけ最大限引き出せるかというところです。具体的には、サンダーズのよさは、トランジションオフェンス(速攻)で点数を取る、速いペースでプレーをすることです。そういうよさを生かした戦術、コンセプトを作りました。
 ただ、攻撃回数が多くなるとミスも多くなっていたので、ディフェンスの強化にも取り組んでいます。それにプラスして、攻撃をシュートで終わらせることと、相手の術中にはまらないように自分たちのやり方を確立することにも取り組んでいます。
 僕が皆さんにお伝えしたいのは、今シーズン何か新しいことをやっているからチームが強くなったわけではないということです。僕の恩師でもあるトーマス・ウィスマンHCが昨シーズン、スタッフや選手たちと作ったチームをさらによくしていくために、いいところは伸ばし、課題は克服して文化を作ることが、まずは今シーズンの始まりのポイントでした。これは恩師から受け取ったバトンだと受け止めています。

ハドルを組む回数が、今季は例年以上に多い(2022年12月14日、レバンガ北海道戦)

――今季は、試合中、コート上で頻繁にハドルを組んで情報共有したりして、チーム内でのコミュにケーションが増えたように見えます。しかも家族的な雰囲気もあります。そういう状況をどのように作っていったのですか。

水野HC 僕としては、ディフェンス、オフェンス云々(うんぬん)の前に、そこを一番ちゃんとやりたかったんです。まず、一方通行のコミュニケーションではなく、双方向のコミュニケーションをとりたかった。僕が夏にサンダーズに合流して間もないときから、選手一人ひとりと連絡を取り合って、「昨季、どう感じていたのか」「どういうことがよくて、改善点はどんなところにあるのか」を聞きました。その際に、僕なりの答えを準備して臨み、選手たちが感じていることを理解して、意見のすり合わせを選手一人ひとりと一定回数行いました。その上で、何を改善しなければいけないのかを理解し、力を入れて改革に着手しました。その一つが、家庭的な雰囲気づくりや、皆が言いたいことが言える環境づくりでした。選手が言ったことが無視されない、何かしらの反応が返ってくる環境づくりは、本当に意識してやっています。

試合中にベンチでカイル・ベイリーACと話す水野HC(2022年12月14日、レバンガ北海道戦)

――今季はスタッフ陣も充実しています。ストレングス&コンディショニングトレーナーを置いたりして、強豪チームを目指すというクラブの覚悟が見てとれます。

水野HC アシスタントコーチ(AC)のカイル(・ベイリー)は、本当にいろんなところで僕を助けてくれます。カイルはプロの選手経験のあるコーチだからこそ僕だと気づかないことなどに気づいて助言をくれます。しっかりとコーチとしての考えを持っているので、一部の練習を彼に任せることができます。チームがよくなっているのは僕だけの力じゃなく、カイルがこのチームのためにやってくれることがすごく大きいですね。
 それから、今シーズンはチームの文化を作るというのを目標に掲げていますが、やっぱり練習に向けてどう取り組むのかというところや、体づくりやコンディションづくりのところで、ラグビー界で長く活躍した和田洋明さんにストレングス&コンディショニングコーチとして来てもらったのも大きかったですね。バスケットとは畑の違うラグビー界で活躍されてきて、通常、バスケット界でやらないようないいものを、このチームにもたらしてくれています。「こういうチームになりたい」という僕の思いをしっかり理解した上で、「じゃあ、夏からこういうトレーニングをしていかなきゃいけない」と、スケジュールを立ててくれているので、本当にいいチームが作れているなと感じます。また、選手のコンディションを試合に向けてどうピークに持って行くのかをはじめ、日々の練習の強度なども含めて、スケジュールの部分で本当に大きな役割を担ってくれています。僕も勉強になります。
 全員を挙げたらきりがないですが、対戦相手の分析をしてくれるアシスタントコーチの西柳信希と内藤央哉、選手のスキル向上を促すスキルコーチの酒井達晶、マネージャーの高島好子と山名愛美、これから合流してくる尾﨑竜之輔など、スタッフ一人ひとりがちゃんと役割を持ってチームに貢献してくれています。それにコンディショニングアドバイザーの黒澤洋治さん、アスレティックトレーナーの水野彰宏さん、メディカルスタッフの天野喜崇さん、星野宏彰さん、中川智之先生など、練習で選手を追い込んだ後にそのケアをしっかりしてくれたり、怪我をした選手たちのサポートをしてくれたりしています。東山真さんにもコーディネーター兼サポートコーチとして選手へのオフザコートのサポートや通訳としても外国籍選手やチームスタッフへのサポートなど多岐に渡って自分では手が回らないことに対して気遣いをしてくれています。

 改めて考えると、僕の仕事は、チームが行きつく先への道筋を示すことなんだなと思います。こうして皆でチームを作っているので、皆さんにはそこも見てほしいと思います。

―― 一つの目標に向かって皆が役割を持ってチームに貢献することが大切だというのは、どこで身につけたものなのですか。

水野HC アメリカだけじゃなくて、日本に帰国して今シーズンでプロ生活15年目になりますが、これまで関わってきた人たちから学びました。皆、プロとしてプライドを持っている人たちばかりだったので、彼らとの出会い一つひとつが、「皆でやっていきましょう」という考えの源になっているんです。アメリカは主体性、自主性を持ってちゃんと物事に取り組むことを教えてくれましたし、何より、僕を育ててくれて、夢に行きつくきっかけを与えてくれた場所です。アメリカでのことは、今でも大事にしたい経験です。

――2014~18年まで北海道でHCをされていて、2018-19シーズンからA東京のACになられました。強豪のA東京で、しかもルカ・パヴィチェヴィッチHC(元モンテネグロ代表HC、16年に日本バスケットボール協会技術委員会アドバイザー就任し来日。17年から22年までA東京のHC)の下でバスケットを勉強したいという気持ちだったのですか。

水野HC もっとバスケットボールを学びたい、もっと学ばなければダメだと思ったんです。北海道でHCをしていたときは、与えられた環境の中でプレーオフを目指すという目標に対して、できる限りのことをしていました。北海道で5年間過ぎたとき、本当にありがたいことに(指導者として)評価していただきました。このまま北海道に残る道もありましたが、北海道をよりよいチームにするためには、あのときの自分だとHCとしての引き出しが少ないと感じたんです。
 そんなとき、一緒に仕事をしたいと思える人(パヴィチェヴィッチHC)からACの話をいただいたので、「勉強するチャンスがあるんだったら、アシスタントに戻って、1回バスケットをしっかり俯瞰して、いろんなことを見られるようになるのもすごく大事なんじゃないかと思いました。北海道を離れることにすごく悩みましたが、もっとチャレンジすべきなんじゃないのか、もっとやれることはあるんじゃないかという思いもあったので、最終的にはA東京のACになる決断をしました。でもそれは簡単なことではありませんでした」

――A東京のACになって、得られたものは何でしたか。

水野HC A東京では文化の大切さを知りました。選手を徹底してサポートをするスタッフと、それに応えようとする選手たち。A東京はそういう人たちの集まりでした。本当にA東京での1年目は衝撃的で、勝つためにはこういうものが必要なんだと教えてもらいました。それは練習や練習前の準備も全部含めてです。
 やっぱりA東京は常に勝つことを求められるチームなので、そういう中で仕事をするプレッシャーもありましたし、日々やらなければならないことを高いレベルで求められるというのもありました。そういうものをA東京で学びましたし、サンダーズでもそれを生かさなければいけないと思っています。

――サンダーズに来てから、新たにチームのルールを決めたりしたのですか。

水野HC いや、それはないですね。ただ、ちゃんと考える、あきらめない、徹底するところは徹底するというのは選手たちに伝えています。チームを作る上で、大事なところをちゃんとやるというのも選手たちに求めています。そういう姿勢が、今シーズン、接戦になっても頑張ってあきらめずにプレーできているところだと思います。その気持ちの強さが本当に選手たちの中に身につくかどうかはまだシーズン序盤なのでこれからだと思います。チームとしてまとまって、一つになってといういい文化はできてきていると思います。

――サンダーズへ来ると決めた理由に、クラブが掲げる地域創生に賛同したとおっしゃっていました。なぜバスケットに地域創生が欠かせないのでしょうか。

水野HC やっぱり、僕らの存在が地域の皆さんの、そして誰かの人生を幸せにする存在でありたいと思っています。例えば、サンダーズの試合を見て僕たちと一緒に戦ってくれることによって、一瞬でも幸せな気持ちになったり、心にたぎるものがあふれてきたり、嫌なことを忘れられたり…と本当に何でもいいんですよ。サンダーズという“非日常”の存在が、皆さんの生活の中で「今日、試合に勝ったね。あの選手頑張っているよね」と話題にしてもらえることで、僕たちの存在が“日常”の存在に変わっていく。ただ、「応援しているよ」と言ってもらえるだけじゃなく、僕たちの勝ち負けに一喜一憂したり、試合で戦う姿勢を見せられていないときに「なんだよ」って言ってもらえたりする存在。そういうことって、自分たちに近い人しか思わないと思うんです。皆さんの感情を揺さぶる存在になるということは、皆さんの“日常”の一部になること。それができたら本当の意味での地域創生になると思っています。
 今、試合会場で、太田の皆さんの熱気をすごく感じます。会場もありがたいことにほぼ満員になるような状況が続き、毎試合約2500人の人たちが体育館に足を運んでくれています。(来年4月に)新アリーナが完成したときに、目標にしている約5000人の人たちが毎試合、会場を埋める状況になれば、もっと面白いと思うんです。そのためには、僕たちが見るに値する、皆さんと一緒に戦うに値するチームじゃないと、その目標は叶わないと思っています。僕は、それを示せるようなチームづくりをしていかなきゃいけないと思うんです。

2023年4月に完成する新アリーナ「オープンハウス・アリーナ・オオタ」。太田市の新たな名所となりそうだ(提供/群馬クレインサンダーズ)
新アリーナは、日本最大級の可動式センタ―ビジョンや世界最高峰のサウンドシステムを導入。観客がワクワクするような空間づくりのため、会場演出にもこだわった(提供/群馬クレインサンダーズ)

――指導者として、大切にしていることはありますか。

水野HC 情熱を持つこと、変化を恐れないこと、誰よりも汗をかくことです。
 情熱を持つというのは、やっぱり好きなことを仕事にしている以上は、どれだけ大変だったとしても、その状況を楽しむべきだと思うし、情熱を持って自分の仕事に向き合うことは必要だと思っています。情熱は他の人にも伝播していきますから、僕は情熱のある人と一緒に仕事をしたいと思っています。
 変化を恐れないというのは、成功体験があるとどうしてもそれに縛られてしまいます。でもその成功体験が毎回、同じように成功に導いてくれるとは限らないわけです。その都度、自分たちにとって何が最善策なのかを考えた上で、トライ&エラーを繰り返して答えを見つけ出し、課題を解決できるようにしたいと思っています。それをやるには勇気が必要です。自分にとっての成功の方程式があった場合、それをずっとやり続けることほど楽なことはありません。バスケットで言えば、対戦相手も対策を立ててくるし、以前対戦したときよりも相手チームの選手も成長しているので、成功の方程式が毎回必ず同じ答えを導いてくれるとは限らないんです。軌道修正や調整は絶対に必要だし、ときには抜本的にまったく違うことをやらなければいけない。HCは決断の連続という状況に置かれるので、勇気を持って決断して、それに対しての結果は甘んじて受け入れる。責任をとることを怖がってしまっては決断ができないですから。
 そして、誰よりも汗をかくというのは、僕はこのチームをよくするために最大限、自分ができる準備とプランを練って、それをチームにちゃんと示していくことです。

試合中の厳しい表情とは違い、インタビューでは笑顔を絶やさずに取材者が話しやすい雰囲気を作ってくれた水野HC

――インタビューの最初の方で、指導者になって学生時代の自身のバスケットへの取り組みを見たときに、「いや、これではうまくならないわ」とおっしゃっていましたが、プロバスケットボールの指導者の立場で、どんなことをすればよかったと思っているのですか。

水野HC ただガムシャラにバスケットをやって満足するのではなく、ちゃんと課題にアプローチして、その課題を捉えた結果、どういうことが生じたのかと考えて、もっときちんとバスケットに向き合うべきでした。それをやっていなかったので、選手としては大成しなかったんです。才能がある才能がないという前に、自分の本来持っているものを最大限生かすことができなかったと思っています。

――それは、プロを目指して一生懸命にスポーツに取り組んでいる子どもたちにも伝えたいですね。

水野HC でも、まずは子どもたちには、自分たちがやっている競技を好きになってもらうことが一番重要です。好きじゃないと上手くはならないですから。好きなスポーツであれば時間を忘れてやりますよね。特に子どもなら、やらされているのではなく、自分からやりたくてしているというのがすごく大事だと思うんです。もっと年齢が上がってきたときに、練習を中身のあるものにしていく必要があります。なので、子どもたちには単純にバスケットが楽しいなって思って、もっと上手になるのはどうしたらいいのかを考えながら練習をしてほしいですね。そうすれば、必然的に上手になっていくと思うんです。

 昨季終了後に吉田真太郎GMに新HCについて尋ねたところ「皆さんが納得する人物だと思います」という返事が返ってきた。吉田GMが水野HCを評価したポイントは何だったのだろうと思っていたが、今回のインタビューで水野HCはサンダーズの成長のためには欠かせない指揮官であることに納得した。「自分から行動しないと、自分の欲しいものは得られないし、自分のなりたいものになれない」と水野HCが言うように、今度は群馬でサンダーズを日本一にする夢を、選手、スタッフと共につかみ取る。

<了>

■Profile
水野 宏太(みずの・こうた)

1982年8月2日生まれ、東京都出身。都立駒場高校からウエストバージニア大学に進学し、コーチの勉強を始める。帰国後は、ACとしてリンク栃木ブレックス、男子日本代表、レバンガ北海道で指導の経験を積み、2013-14シーズン途中で北海道のHCに就任。2018年からさらにバスケを深く知るためA東京のACとなり、今季からサンダーズにHCに就任した。