明日、太田で開幕戦を迎えるサンダーズ。水野HCの下で強豪チームへと成長する

2022年9月24日に太田市民会館で開催された新体制発表記者会見

いよいよ明日の10月1日にホームで開幕戦を迎える群馬クレインサンダーズ。開幕を前に、今季のチームについて8月の入団会見、9月の新体制発表記者会見からざっとおさらいしよう。
文/星野志保(EIKAN GUNMA編集部)

 サンダーズは今季、新ヘッドコーチ(HC)に指導経験豊富な水野宏太氏を迎えたほか、NBAでプレー経験のあるカイル・ベイリー氏をアシスタントコーチに、ラグビー界で活躍していたストレングス&コンディショニングコーチに和田洋明氏を招聘するなど、スタッフ陣を充実させた。また選手も日本バスケットボール界の「ファンタジスタ」と呼ばれる並里成選手(PG)、ヨーロッパの最高峰のリーグでプレーしていた身長212㎝のケーレブ・ターズースキー選手(C)を獲得し、さらなるチームの強化を図った。

 新HCに水野氏を招いた理由について吉田真太郎GMは、「我々はこの2年で一気にチームを成長させてきたクラブです。そろそろしっかりと自分たちの文化を作って、強豪チームに持っていく段階だと思っています。若手でエネルギーがある水野HCみたいなタイプがしっかりと文化を作り上げていくことが、これからサンダーズが本当の意味で強豪クラブになっていくのかなあと思いました」と語った。2021-22シーズンが終わってから比較的早い段階で「水野HCで行こう」と決めたという。吉田GMは、「戦術の幅やコーチングスキルも高い。今までの実績や経験をサンダーズで発揮してくれると思います。日本一のクラブに導いてくれるでしょう」と期待する。ちなみに吉田GMと水野HCは同じ40歳である。
 改めて水野HCの経歴を紹介しよう。
 水野HCはアメリカの大学を卒業後、2008-09シーズンに当時JBLに所属していたリンク栃木ブレックス(現・宇都宮ブレックス)のアシスタントコーチとなり、翌シーズンにはトーマス・ウィスマンHCの下でJBL優勝に貢献。2013-14シーズンにNBL(新リーグ設立に伴い、JBLから名称変更)のレバンガ北海道のアシスタントコーチとなり、2014-15シーズンにはフアン・マヌエル・ウルタドHCの途中解任によりHC代行を務めた。2015-16シーズンから3シーズンにわたりHCとしてレバンガ北海道を率い、2015-16シーズンにはクラブ史上初のプレーオフ進出に導いた。2018-22シーズンまで、ルカ・パヴィチェヴィッチHCの下でアルバルク東京のトップACを務め、就任1年目でB1リーグ優勝に力を尽くした。また2009-11シーズンには男子日本代表のアシスタントコーチを務めている。
 水野HCの強豪チームや日本代表でのコーチ経験が、サンダーズの文化を作るには欠かせないピースとなろう。なぜなら、水野HCも「文化づくり」の大切さを十分理解しているからだ。チームの始動日のミーティングで「日々向上するために、自分たち一人ひとりがどういうことをやっていくのかをしっかり考えて準備していく文化、コミュニケーションをしっかり取っていく文化を作っていく」と選手たちに伝えたという。
 チーム作りについては、水野HCは入団会見でこう話している。
「チームとしての強みをどれだけ出していけるのか、(選手)個々の特徴をどれだけ生かしていけるのかをやっていった中で、チームとして一つもまとまりを持って、試合に出ている5人が同じ絵を描きながらオフェンスとディフェンスをする力を持ったチームを作っていきます。HCは指針を示してチーム作りをしていく責任者です。選手、チームスタッフ、フロントスタッフを含めた全員が同じ絵を描いて進んでいかなければ強いチームにはなれません」
 今季の目標についても水野HCは、具体的な順位や数字よりも、文化づくりを掲げた。
「今シーズンの目標は、文化を作ることが第一。文化を作っていく中で、優勝に値するチームはどういうものなのかを考えながらやっていきます。それを一つずつつぶしていくことによって、(優勝を)達成できるようになるのかなと思います」

 今季のサンダーズは、「文化づくり」に力を入れるが、なぜそれが大事なのだろうか。わかりやすい例を挙げれば、昨季の宇都宮ブレックスを見るといい。昨季の宇都宮は外国籍選手が大幅に入れ替わり、開幕戦で対戦したサンダーズに2連敗を喫した。チームへ合流したばかりの選手もいたりと開幕前までにチーム作りが進まなかったのが影響した。しかし、宇都宮は長年培ってきた文化がある。シーズンを東地区4位で終えた宇都宮はワイルドカード1位でCSに進出し、最後にはB1リーグ優勝を果たした。例え選手やHCが代わっても、宇都宮のバスケットボールスタイルは変わらない。サンダーズも独自のバスケットボール文化を確立することで、強豪チームになる土台ができるというわけだ。

2022年8月23日に東京・銀座で開催された入団会見。左から吉田真太郎GM、並里成選手、水野宏太HC(写真提供/群馬クレインサンダーズ)

 今季も補強に力を入れた。2020-21シーズンから積極的な補強を行い、昨季の琉球ゴールデンキングスの準優勝に貢献した並里成選手と、昨季までヨーロッパ最高峰のユーロリーグでプレーした212㎝のケーレブ・ターズースキー選手を獲得。9月24日の新体制発表記者会見で吉田GMは、「新たな前人未踏を作る戦力が整いました」と、今季の補強に自信を見せた。
 並里選手は沖縄出身で、子どもの頃から米軍基地でバスケットボールに親しみ、福岡第一高校3年次にはウインターカップ準優勝に貢献。卒業後はスラムダンク奨学金第1回奨学生として渡米してNBAを目指し、NBAドラフトのリストに入るところまでいった。帰国後はリンク栃木ブレックス(現・宇都宮)に入団。その後、沖縄、大阪エベッサ、滋賀レイクスターズ(現・滋賀レイクス)、沖縄を経て、「もっとバスケットを学びたい」とサンダーズに入団。「プロキャリアを始めたときに、水野宏太さんはすごい経験をしていろんなバスケを見て、チームのあり方を学んできています。そこから僕がどうあるべきか、僕がどういう存在で、これから日本のバスケを盛り上げていくのかというところも含めてバスケットに対する姿勢の部分でも学びたいなと思っています」と入団会見時に語った。
 水野HCとは、2009-10シーズンに栃木で共に優勝を経験。今回、並里選手を獲得するため、吉田GMと水野HCで沖縄に行き直接交渉したという。吉田GMは、「この2人(水野HCと並里選手)は、優勝請負人かなと思っています」と入団会見で語っている。
 並里選手は、高い得点能力を持ち、抜群のゲームコントロールと創造性あふれるプレーから「ファンタジスタ」との異名をとる。入団会見で、「ファンタジスタと言われて15年ぐらい。いまだにしっくりきていません。体は小さいですが日々鍛えているので、体は強いほうだと思っています。強いディフェンスと速い展開の攻撃に持っていって、周りの選手を生かすところをこれからやっていきたい」と語り、謙虚なところを見せた。こうしたところも彼が多くのバスケファンから愛される理由なのかもしれない。
 残念ながら、並里選手は右第5趾基節骨骨折(右足小指の付け根の骨折)のため、コート復帰は未定となっているが、サンダーズのユニフォームを見てプレーする日も近そうだ。

 そして、今季のもう一つの補強の目玉が、ケーレブ・ターズースキー選手である。昨季までイタリアトップリーグであるセリアAのオリンピア・ミラノに所属し、ヨーロッパ最高峰のユーロリーグでプレーをしていた選手である。212㎝の長身と鍛え抜かれた強靭な体格でゴール下を制圧するだけでなく、その体からは想像もできない素早い動きを見せる。性格も温厚で仲間思いであり、体を張ったディフェンスもできる。プレシーズンマッチを経て、徐々にチームにフィットし始めている。新体制発表記者会見でターズースキー選手は、「新しい国、文化への移行がスムーズにいっています。素晴らしいチームメイト、スタッフに囲まれて幸せだと思っています」と、早くもチームに溶け込み始めているようだ。

 さて、開幕戦の相手は滋賀レイクス。2016-18まで並里が所属したチームである。昨季までの「滋賀レイクスターズ」からチーム名を変更。2021年9月に株式会社マイネットが運営会社の株式の75%を取得しクラブの経営強化を図っている。また、サンダーズをクラブ存続の危機から救い、オープンハウスとのつながりを結んだ立役者である群馬プロバスケットボールコミッションの元社長の宇留賀邦明氏がマイネットに入社し、クラブの営業力強化に力を尽くしているというサンダーズとも縁のあるチーム。滋賀を率いるのは、2019-20シーズンに佐賀バルーナーズをB2に昇格させ、翌シーズンにB2昇格初年度に西地区3位でプレーオフ進出に導いた率いたスペイン代表ACだったルイス・ギル・トーレスHCだ。昨季は、14勝43敗、勝率.246で西地区10位と不本意な成績に終わった。今季は補強に力を入れ、宇都宮からテーブス海選手を、外国籍ではジェイコブ・ワイリー選手(PF/C)とケヴィン・マーティン選手(SF/PF)、イヴァン・ブバ選手(C)を獲得。水野HCは滋賀に対し、「昨季の課題を見据え、しっかり補強してきた印象」と語った。

 サンダーズは、プレシーズンマッチで沖縄に1勝1敗、「プレシーズンカップinふなばし」(サンダーズを含め、千葉J、富山、西宮の4チームが参加)では、決勝戦で千葉Jを76-75の接戦で下し優勝するなど、開幕戦に向け順調にチームづくりが進んでいる。

 「このメンバーで、一つの文化を作る。このメンバーで一つの目標に向かって走る。このメンバーで一つのチームを作り上げる」という意味を込めた新スローガンを掲げ、いよいよ明日、新生サンダーズが今季のスタートを切る!

<了>