夏の高校野球2021 市立太田高校 編

高校野球選抜大会群馬県大会が、本日10日から始まった。新型コロナウイルス感染拡大の影響で、昨夏は県独自の大会となり優勝しても甲子園にはつながらなかった。今夏は2年ぶりに甲子園につながる大会とあって、出場チーム61チームが夢の舞台である甲子園を目指して熱い戦いを繰り広げる。
ここでは、JARTAやラプソードなど、最新のトレーニング方法を積極的に取り入れてチーム強化を図っている市立太田、5大会連続甲子園出場を目指す前橋育英、春の王者で夏の初制覇を狙う関東学園大附属の3チームを紹介する。

取材/EIKAN GUNMA編集部

練習試合後に、津久井監督から背番号を渡される選手たち(7月7日、市立太田野球グラウンド)

目の前の一戦に集中し
打力と走力で勝ち進む

 先を見たり、何かにとらわれないで、自分たちのゲームをする。これが春の大会から学んだことだ。
 春の準々決勝(城南球場・第二試合)館林戦。第一試合で、健大高崎が農大二高に敗れた試合を目の当たりにした市立太田の選手たちは、「もしかしたら(優勝まで)行けるのではないか」と浮足立った。練習試合でこれまで一度も負けたことのない相手。しかも館林はエースが登板していなかった。1回戦11安打、2回戦は16安打、3回戦は18安打と打ち勝ってきたため、勝つ自信はあった。しかし結果は0-7と完敗。自慢のバットも振れずにわずか2安打に抑えられた。
 夏に向け、館林戦での悔しい敗戦は忘れない。夏の大会では、1回戦で樹徳高校と対戦する。キャプテンの武智悠太朗は、「自分たちは健大をずっと見て野球をしてきたんですが、前の試合で農二に負けてしまったんです。館林はこれまで練習試合で一度も負けたことがなかったので、心に隙があったのかもしれません。夏はまずは、目の前の試合に集中して一戦一戦戦っていきます。相手がどこであろうと先を見すぎない。目の前の試合を自分たちの形で戦っていくことが一番」と春の反省を夏につなげると誓った。

津久井孝明監督

 選手たちは、健大を目標に練習に取り組んできた。その理由を津久井孝明監督はこう語る。「健大はいいチームだと思います。新チームになったときから、健大に力があるのは分かっていたので、ずっとターゲットにしてきました」
 春の大会が終わったGW中に、健大と練習試合をしたときのこと。夏にエース番号を背負う大澤祐一郎に「ここに投げてごらん」と言ったら、案の定、4番の小澤周平に140メートルぐらい飛ばされた。「じゃあ、今度はここに投げてごらん」と、そこに投げさせると、健大の主軸たちを三振に抑えることができた。
「我々からすると、『ここに投げたらこうなる』っていうのはわかるんですが、選手たちにはわからない」と、実際に体験させて選手に考えさせる。「相手がストレートを待っているときは、こういうボールを投げたらどうなるのか。ストライクが取れるボールがストレートしかなかったらどうするのか」と、対話を重視しながら練習を積み重ねてきた。「ここへきて、ようやく自ら考えて工夫して投げられるようになった」と、エースの成長ぶりに目を細めた。

身体能力を高めるトレーニングであるJARTAをする投手陣


 津久井監督は普段から、対話を通して「気づき」を重視した練習をしているが、今年はさらにそれが生かせる夏になりそうだ。なぜなら、新型コロナウイルスの影響で、これまでの大会ではチーム関係者しかスタンドに入れなかった。夏に向け対戦相手になるであろうチームのデータが取れていないのである。
 「対戦相手のデータがない中で、試合で1イニング見れば、相手ピッチャーの変化球とストレートのフォームの違いがわかりますが、選手たちにはわからない。その場での対応が求められます。ベンチからはわからなくても、ネクストバッターズサークルだと、『曲がりが早いから、ついていけそうだ』とか、『クセ球で、手元でシュート回転している』とわかる。一応、試合前のミーティングでその試合の基本設定はしますが、グラウンドに立たないとわからないこともあるので、その場の対応で選手たちが設定をし直さなければなりません。そのために、日常の練習や練習試合で彼らの引き出しを多くするようにしていました」と津久井監督。
 この夏、4人の投手陣で戦う。7月7日の近隣高校との練習試合では、4人全員が投げた。今成志月は低めに伸びのあるストレートを投げ、スリークオーターから投げる左腕・石関廉也、サイドスローの右腕・武藤陽大は、クイックや間を使ったりという工夫をしながら打者を翻弄する。最後に1イニングを投げた大澤は、ストレートが走り、変化球でもカウントが取れるなど、4人がそれぞれ自分の持ち味を生かした投球を披露。もちろん、その4人の力を引き出す武智のリードも光っていた。
 また、攻撃では、大会打率5割を超える大和田陸をはじめ、冬に毎日3000本振り込んできた成果で、どの打順からでも出塁できるようになった。
 津久井監督も「みんな振れるようになり、三振も少なくなりました。バットスイングが強くなったので、ギリギリまで(球を)引き付けられるようにもなり、甘い球をミスショットせず、打ち返せるようになりました」と3000本スイングの効果を語った。
 打てるようになると次は、ランナーをどう進塁させるのかに重点を置いた。7月7日の練習試合でも、一塁にいた小川由起が、1打席の間に二盗、三盗を次々と成功させ、足で1点をもぎ取るなど、見事な走塁を見せた。
 10日から始まる夏の大会。市立太田は11日に樹徳と対戦する。目標はもちろん甲子園に出場することだ。だがその前に、決勝戦まで勝ち進み、ターゲットにして練習をしてきた健大との対戦を選手たちは楽しみにしている。
 GW中に健大と練習試合を2試合行ったが、いずれも1点差で負けている。「見ている人からすると、『市立太田もやるじゃないか』と思うかもしれません。強打の健大の選手たちが必死に1点を取りに来ていました。あの時点で何をやっても健大に負ける気がしました。健大はいいチームだなと思いました」と、津久井監督が感じた力の差を、夏はどこまで埋められているのだろうか。まずは、目の前の戦いに集中し、市立太田の野球で夏を勝ち進む。

監督室に貼られた野球部員の心

■抱負を語る。

武智祐太朗

キャプテン、捕手、163㎝・52㎏、右投右打、太田綿内中出身

渡されたばかりの背番号とキャプテンマークを手に笑顔を見せる武智。今夏、ユニフォームを一新。清水聖義市長の太田を宣伝したいとの意向で、漢字の「太田」になった

――いよいよ夏の大会が始まります。どんな気持ちですか。

武智 去年も試合に出ていたんですが、緊張はあまりしていません。どちらかというと落ち着いています。自分たちのやってきたことをやるしかないというのが強く、練習をやり込んできたので、その成果を出すだけです。

――春から夏に向け、強化してきたことは?

武智 走塁練習を徹底的に行ってきました。冬は1日3000スイングをしてひたすら振り込んできました。バットが振れるようになったので、その成果が出たのが春の1~3回戦。しかし、ベスト8から先はエース級のピッチャーがいたり、簡単には打たせてもらえない。ただバットを振れているだけでは試合には勝てないんです。それが春の準々決勝の館林戦で、わずかヒット2本に抑えられました。じゃあ、どうやって点を取っていくのかと言ったら、ヒットが出なくても足を絡めて点を取っていくことが大事になります。チームとして走塁は突き詰めてきたと思っています。
 個人的には、自分は打順が2番なんですが、そんなにバッティングはよくないんです。上位打線につながる所なので、バントをしたり、転がしたり、エンドランを仕掛けたりと、自分がアウトになっても次につながる最低限の仕事ができるようにしてきました。「このカウントならこの球が来るだろうな」と予測したり、監督から「この球を打てよ」と言われたときには思い切りバットを振って打つ。1球で仕留められるようにしたいです。
 結構、走塁は得意なんですが、走攻守バランスよく練習をしてきた中で、攻撃ではもっと走塁の意識を高くして、守備ではピッチャーにランナーを意識せずに投げてもらえるようにする。盗塁の送球は徹底してベースより右側にしっかり投げようにしています。

――キャッチャーとして4人のピッチャーをリードしますね。

武智 皆、それぞれにタイプが違うんです。今成君が変則ピッチャーで、真っすぐが伸びてくるので、それを生かしつつ低めも生かす。大澤君は真っすぐが結構走っていて、変化球でカウントが取れる。石関君と武藤君は、間を使って投げています。球速がそれほどなくてもクイックを使ったりして、それぞれに自分なりの工夫をしています。ピッチャー4人のうち、誰が出てもいいという感じですね。

――トレーニングでJARTA(ジャルタ/身体能力を高めていくためのトレーニング)を取り入れていますが、その効果はどんなところに出ていますか。

武智 去年の夏ぐらいから監督に教えてもらってやっているのですが、胸と股関節の可動域が広がりそれがバッティングにつながっています。

――初戦は、樹徳と対戦します。

武智 春の大会のことになってしまうのですが、練習試合で館林に負けたことがないのに、負けてしまったんです。自分たちの前の試合で、ずっとターゲットにしてきた健大が農二に負けてしまって、誰も口にはしませんが、各個人に心の隙があったんじゃないかと思います。夏の大会では、まずは目の前の試合に集中してやっていくだけです。相手がどこであろうと先を見すぎない。目の前の試合を自分たちの形で勝っていくことが一番。

――夏に戦ってみたい相手はどこですか。

武智 健大です。ずっと健大を目標にやってきたので、関学大附も前橋育英も強豪ですが、やっぱり健大。「健大にはこういうピッチャーがいて、こういうバッターがいて」と意識してきて、「そういう意識で健大のピッチャーから打てるのか」「これができないと健大には勝てないぞ」と言われて練習してきたので、健大が目標でした。組み合わせで健大とは決勝戦でしか当たれませんが、決勝まで勝ち進んで、甲子園に行きたいです。

大和田 陸

三塁手、175㎝・90㎏、右投右打、太田木崎中出身

ここぞのときに1本を打ってチームを助けたいと意気込む大和田

――夏の大会がいよいよ始まります。どんな気持ちですか。

大和田 ドキドキとワクワクがありますね。ドキドキは約2年半やってきたことがしっかり出せるのかどうか。ワクワクは、これから夏体が始まるからです。

――春の準々決勝の負けの原因は何だと?

大和田 チームでヒットが2本しか出なくて、つまらないことにとらわれ、チーム全体でやっていこうということができなかったんです。それで後手に回ってしまいました。ゴロを転がしていこうというのに、フライが多くなり、3人がフライで終わった回もありました。

――つまらないことにとらわれていたというのはどういうことだったのですか。

大和田 自分たちの前の試合が健大と農二で、健大が負けたんです。それで皆の気持ちがちょっと緩んでしまった。今まで練習試合で館林に負けたことがなかったので、自分たちは勝てると過信していました。それが大きな敗因だったと思います。

――それで、目標を目の前の試合に集中するという意識になったわけですね。

大和田 一戦一戦を丁寧に戦っていこうというのを、春の大会の館林戦から学びました。

――夏に向け、バッティングフォームなど変えたことはあるのですか。

大和田 春から夏にかけては、フォームは特に変えていないですが、バットの長さを83~84㎝~86㎝に変えました。遠心力を使って遠くへ飛ばすためです。最初は、バットが長くていつもの感覚で振れなかったのですが、ようやく長いバットにも慣れ、長打が出せるようになり、外のボールも拾えるようになった感じがします。

――初戦の樹徳との対戦では、柏崎日祐と對比地厚太という好投手がいますね。

大和田 對比地とは、中学の時に太田選抜で同じチームだったので仲が良かったんです。彼とは、高校で1~2回しか対戦していないんですけど、互いに刺激し合う仲なんです。柏崎は、中学のときにも対戦したことがあって、その時から意識していた相手ではあります。柏崎はテンポが速くて、球にキレがあって、コントロールもいい。自分たちの代ではいいピッチャーだと思います。

――夏はどんなプレーをしたいですか。

大和田 たくさん練習をしてきたので、ここぞの場面で1本(ホームランを)打ちたいですね。この1年、チーム全体で1キロの重さのバットを使ってたくさん振ってきました。自分は1.1キロのものを使って、1日3000本を振っていました。打って勝つ野球をしたいです。

――進路はもう決まったのですか。

大和田 はい。東都リーグの大学で野球を続けます。3つ上の代には、山村航大さん(國學院大學)や今井大輔さん(中央大学)がいて、その先輩たちを目標に頑張ってきました。昨年10月に東都リーグの試合を見に行き、自分も明治神宮球場でプレーしたいという気持ちが強くなり、東都リーグの大学に行こうと思ったんです。

――大学の先は考えていますか。

大和田 大学で成績を残して、プロに行きたいですね。今の成績では行けないので、大学4年間で力をつけたいと思います。

――目標の選手は誰ですか。

大和田 二人いて、一人は去年の中央大学のキャプテンで、今年、横浜DeNAベイスターズに入団した牧秀悟選手で、もう一人は埼玉西武ライオンズの中村剛也選手です。二人とも4番打者としてチャンスに強くて、ここっていうときにホームランを打てる選手だからです。自分は、4番は打率ではなく打点が必要だと思っていて、チームがここで1本ほしいというときに打てるのが4番だと思っているんです。彼らのような選手になるのが目標ですね。

大澤祐一郎

投手、181㎝・71㎏、右投右打、太田薮塚本町中出身

背番号1番の期待に応える活躍を誓う大澤

――今日、背番号1をもらいましたね。

大澤 1番をもらえるとは思っていなかったんです。最近、納得のいくピッチングができなくて、周りがいいピッチングをしていたので、自分はなぜできないんだろうと思っていました。監督が、最後は自分を信じて1番をくれたのかなと思うので、その期待に応えるために大会で活躍したいですね。

――今日(7月7日)の練習試合で、最後に1イニング投げました。最近はピッチングに納得がいかなかったということですが、今日の調子はどうでしたか。

大澤 自分の中ではよかったと思います。大会前の最後の練習試合で、良いピッチングができてよかったです。

――春から強化してきたことはありますか。

大澤 メンタルを強化したいと思っていました。ファーボールを出したときに周りが見えなくなることがあって、ボールが真ん中に入って打たれたりして、自分のピッチングができなくなってしまうので、声掛けを大事にしていこうと。2ストライクに追い込んでから、球が甘くならないように、野手に「準備」と声をかけたり、「フライが行くな」と思ったときも野手に声をかけて準備してもらったりしていくことで、自分も楽に投げられると思うんです。それから、ストレートの質も磨いてきました。ストレートがあってこその変化球ですから。

――ラプソード(ボールの回転数や回転軸をデータ化する弾道測定器)を使ったと聞きました。

大澤 2回ほど使いました。自分は回転軸がシュート回転しているので、空振りを取るというより、打たせて取るタイプのピッチャーだということがわかり、精神的に楽に投げられるようになりました。

――5月に、トレーニングでJARTAをしているところを見せてもらいましたが、ピッチングに変化は現れましたか。

大澤 自分は胸筋の動きが悪いので、JARTAをしていることで、胸の筋肉の動きがよくなり、投げるときに上半身だけじゃなく、下半身も一緒に使えるようになりました。それに、投げるときに力みが出てしまうのですが、JARTAのおかげで力まなくなり、肩や肘に負担がかかることなく楽に投げられるようになりました。

――夏の目標は?

大澤 甲子園出場です。高校に入ったときから掲げている目標なので、達成したいですね。

――初回は、樹徳との対戦になります。

大澤 相手のデータもわかっているので、勝てない相手ではないと思っているので、やるべきことをやるだけです。

<了>