ファイナル ゲーム3
群馬クレインサンダーズ 98-75 茨城ロボッツ
[1Q]群23-11茨 [2Q]群26-19茨 [3Q]群24-27茨 [4Q]群25-18茨
2021年5月24日(月)太田市運動公園市民体育館 観客1902人
B2優勝をかけた茨城ロボッツのファイナルに臨んだ群馬クレインサンダーズ。1勝1敗で迎えたプレーオフファイナル第3戦。2戦先勝した方が勝つ。今季の最後の目標であるB2優勝を成し遂げるため、攻守にわたり最高のパフォーマンスを披露。試合開始直後からサンダーズが試合を支配した。
取材/Eikan Gunma編集部
前日、ホーム無敗を誇ったサンダーズに勝利して勢いに乗る茨城に対し、ホーム初の黒星を喫してファイナルを2戦で終えられなかったサンダーズ。試合前に、「試合の初めからエネルギッシュに試合をする」と誓い合った。「ロボッツさんは、共にB1に行く、B2の中でもトップレベルのチーム。昨日の敗戦でホームの連勝記録が途絶えてしまったが、昨日のうちに優勝を決められなかったことで、全選手が『もっとやらなきゃ』という気持ちになり、戦う気持ちを一人ひとりが持った」とマイケル・パーカーが語ったように、昨日から一転、試合開始からサンダーズの選手たちは躍動した。
試合開始直後に、ブライアン・クウェリのジャンプシュートが決まると、その20秒後にディフェンスリバウンドを拾ったパーカーが3ポイントシュートを決めて勢いづいた。その後も、パーカーやクウェリがスコアを重ねたほか、野﨑零也が茨城の小林からボールをスティールし、そのまま速攻でレイアップシュートを決めるなど、第1Qで23-11と茨城を突き放した。前日に苦しめられた茨城のシューター陣の3ポイントシュートもわずか1本に抑えるなど、サンダーズのディフェンスも機能した。
第2Qに入っても高い集中力を保ったディフェンスで、相手のターンオーバーを誘発。スティールからも得点チャンスを作った。圧巻だったのは、残り8分のサンダーズのタイムアウト明けのプレーだ。3ポイントライントップの位置にいたキーナンが、背後に走り込んできた野﨑にパス。キャッチした野﨑がすぐに3ポイントシュートを放ち、ネットに沈めた。
平岡富士貴ヘッドコーチ(以下、HC)は、「シーズンを通していろんな選手がラッキーボーイになりましたら、今日は野﨑がそのラッキーボーイ。それぐらい躊躇しなければやるでしょうというのが僕の本音です」と、自ら名古屋FEから引っ張ってきた野﨑の活躍に目を細めた。その2分後にも野﨑が左サイドから3ポイントシュートを決めるなど、このクオーターだけで8得点を決め、ラッキーボーイがチームをさらに勢いづけた。
第3Qは、サンダーズのターンオーバーが増え、茨城に連続得点を許す場面もあったが、相手の攻撃を24秒間守り切る(攻撃側は24秒間にシュートを打たなければならない)など、攻守ともにエネルギッシュに戦い、ゲームの主導権を渡さなかった。
73-57で迎えた第4Q。残り9分31秒で、ディフェンスリバウンドを取ったトレイ・ジョーンズが速攻を仕掛けて、野﨑がレイアップシュートでスコア。その1分後には野﨑のディフェンスリバウンドからキーナンがジャンプシュートを決めるなど、第4Q開始からわずか2分半で9得点を挙げ、サンダーズの攻撃のギアがさらに上がった。
残り3分57秒で、笠井康平のディフェンスリバウンドからのパーカーのダンクシュートで91-65と、この日最大の26点差をつけ、試合の行方を決定づけた。
試合は、98-75で、一度も相手にリードを許さずサンダーズが圧勝。前日の敗戦の悔しさをバネに、攻守共に今季最高のパフォーマンスを見せてリーグ初制覇を果たした。そして、「レギュラーシーズン5敗以内」「B1昇格」「B2優勝」という目標をすべて達成し、2020-21シーズンを終えた。
昨日の不甲斐ない敗戦から復活し、今季の集大成とも言えるプレーでの勝利に平岡HCは、「前人未踏というスローガンを掲げてここまでたどり着きました。いろんなプレッシャーがある中で、最後に素晴らしい試合をしてくれた選手たちに感謝しています」と、ほっとした表情で選手たちを称えた。そして、苦しかった胸の内を明かし、今日の試合に臨んだ経緯を語った。
「ゲーム1は、追い上げられながらもかろうじて勝ちました。昨日のゲーム2は、ロボッツさんのゾーンディフェンスを攻めあぐねて足が止まり、最後、追いつけずに終わりました。ロボッツさんのイージーバスケット(簡単に得点されてしまうこと)が非常に多かった。私としてもこのレギュラーシーズン、このプレーオフを含めて、これまでやってきたことは何だったんだろうと、(昨日の試合後から)何度も何度も試合のビデオを見て、『こんなディフェンスをしていて、よくゲーム1を取ったな』と思いました。ロボッツさんにペイント内を崩されて、当然負けるだろうなという試合内容でしたので、私が尊敬するあるコーチに相談したところ、『お前のチームは堅実にプレーすれば絶対にどこにも負けない』という言葉をいただきました。今日はその言葉をお借りして、選手たちに『まずはディフェンスにおいて堅実にプレーしよう』と伝えました。それはイージーバスケットをやらせないことが一つ。セカンドチャンスをやらせない(オフェンスリバウンドを取らせない)のが一つ。何本かやられてはいましたが、オープンショットを、3ポイントシュートをシューター陣に気持ちよく打たせないこと。それから、ペイント内に侵入させないこと。ディフェンス面についてはまずそこを伝えました。オフェンス面では、何度ビデオを見ても、ゾーンディフェンスに対してオープンを作れているのですが、(そこが)見えていないことが非常に多かったので、選手たちには『見えていないところにチャンスはある』と話しました。進んでいる方向にしかビジョンがない選手が多かったので、『見えていないところはどこですか』ということも伝えました。あとは、昨日もここ(会見)で話をさせてもらったのですが、『躊躇するな』と。そして、『日本人選手も外国籍選手も、きちんとスクリーンをかけてハイポスト、ミドルポストをついていけば、ショートコーナーを含め必ず勝機はある』と話して、『勝たなきゃだめだよ。勝つチャンスがある以上、勝って成長しよう』と、選手を送り出しました」
今季は、日本バスケットボール界で長年活躍するマイケル・パーカーや元アメリカ代表候補のトレイ・ジョーンズなど、補強した選手全員がB1経験者と、開幕前からB2優勝候補の筆頭に挙げられ、「勝たなければ」というプレッシャーがチームにのしかかった。それだけでない。2017―18シーズンに秋田ノーザンハピネットが54勝6敗の勝率.900でレギュラーシーズンを終えた記録を抜く、5敗以内に抑えるという「前人未踏」の目標を運営会社が掲げたことや、B1昇格、B2優勝するとうハードルの高い目標も、チームにとってはストレスになった。レギュラーシーズンでこれまでのリーグ連勝記録22(2017-18シーズンに秋田が達成)を大幅に更新する33連勝を達成し、レギュラーシーズンではホーム無敗記録も樹立。ファイナルで茨城に勝てば、最後の目標であるB2優勝も成し遂げられる。
試合後に、記者から「プレッシャーが解けたのはいつか」と聞かれた平岡HCは、「残り3分を切ってからですね」と答えた。91-69と22点差をつけて勝利を確実にしたときである。そして笑顔でこう付け加えた。
「こういうプレッシャーを味わえる経験できるって、最初は失礼ながら、『何を言っているんだろう』と思いましたけど、自分がやると決めた以上は、当然、会社の方針に沿ってチャレンジして、やり切らなきゃという責任を感じてできたので。今は、本当に終わって、言葉に言い表せないです」
Bリーグが誕生した初年度から、群馬クレインサンダーズを率いる平岡HC。5シーズンの間に3度プレーオフに進出。ちなみに、昨シーズンは、新型コロナウイルス感染拡大の影響でプレーオフは開催されなかったが、2018-19シーズンはプレーオフでファイナルに進出したものの、クラブがB1ライセンスを取得できなかったため、準優勝してもB1昇格を果たせなかった。
ようやく5シーズン目で達成したB1昇格、B2優勝。
「B1昇格は絶対条件でしたし、僕の契約が今年までだったので、覚悟は決めていました。そういった中で、家族に『負けたらHCを辞める』という話はしていましたし、今日は、長男の誕生日でもあるので花を添えたかったというのもありました。なかなか妻とも話していないですが、『男なら勝ってこい』とLINEが来ていました。よく覚悟と言いますが、これだけ結果を出す大変さ、勝つ大変さ、会社が掲げたミッションを達成する大変さを感じたことはなかったです。本当に勝ててよかったなという感じです」と、平岡HCは重圧から解放された。
クラブ創設2シーズン目の2013-14シーズンから在籍している大泉町出身の小淵雅は、B1昇格について、「率直にうれしいです。ここまで来るのにいろいろあったし、大変な期間が長かったですが、今季、ガラッとチームを変えてくれて勝つためにしっかり力を入れてくれた会社にすごく感謝しています。それに対して結果が出ると、ブースターさんもついてきてくれますし、群馬がこんなに(1902人という大勢の観客がきてくれるように)なったのなんて、今まで見たことがないので、すごくうれしい」と笑顔を見せた。
これまで、「どういうクラブを目指すのか、将来が見えない」とチームを離れていった選手がいた中で、小淵は群馬出身選手として、群馬のバスケットボール界のためにチームに残り、力を尽くしてきた選手である。来季からB1で戦うチームに対しては、「皆さんに応援されるチームってどういうのかなと考えたとき、ひたむきに頑張る姿を見てもらうことが大事なんじゃないかと思います。もちろん勝つことも大事ですが、『見ていて元気がもらえる』『頑張っているところを見たら、明日から仕事を頑張れる』と思ってもらうことが、これからの群馬にすごく求められるのかなと思います」と答えた。
そして、応援してくれる人たちにも、「言葉で言い表すのは難しいですが、皆さんの応援なしに、今日のようなプレーをすることも、B2で優勝できるようなチームになることもできなかったと思うので、本当にありがとうございました」と、小淵は感謝の言葉を忘れなかった。
B1の千葉ジェッツから期限付き移籍でB2のサンダーズに加入し、チームの心臓として活躍したマイケル・パーカー。この人の加入なしに、今季の偉業は成し遂げられなかっただろう。
今季を振り返ったパーカーは、「記録をいろいろ残して終えたシーズン。コートの内外で、チームメートと友情を育めたので、とても楽しいシーズンだった」と語った。そして、「来季、またサンダーズでプレーしたいか」との記者の問いには、「B2のチームに来て、1年で昇格するというサクセスストーリーを作れたので、このチームに残れるなら残りたい。過去、いろんな強豪チームでプレーし、今度はB2からB1に行ったこのチームをちゃんとB1で戦えるようにしたい。僕が現役を終えたとき、いい話になると思うから」と、シーズン中にはなかなか見せなかった穏やかな表情で語った。
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来季はいよいよB1での戦いが始まる。すでに来季の地区分けもBリーグから正式に発表されており、サンダーズは東地区で戦うことが決まった。東地区には、今季B1のファイナルを戦った宇都宮ブレックス、千葉ジェッツ、天皇杯で優勝した川崎ブレイブサンダーズなど強豪がひしめく激戦区だ。今季以上に厳しい過酷な戦いが予想される。6月10日時点で、来季のサンダーズの陣容はまだ発表されていないが、群馬で初めてプロチームがトップリーグで戦うため、さらに多くの県民がサンダーズを注目するだろう。今秋から始まる新シーズンが待ち遠しい。
bjリーグ時代に下位が定位置だったチームが、日本一を目指す新たなストーリーが始まる。
<了>