切磋琢磨こそ成長の源。ライバル達との幸せな関係

セレッソ大阪・日本代表

坂元達裕


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2021年3月25日の国際親善試合韓国代表戦(日産スタジアム)、3月30日のFIFAワールドカップ2022カタールアジア2次予選兼AFCアジアカップ中国2023予選モンゴル代表戦(フクダ電子アリーナ)の日本代表メンバーに、前橋育英高校出身の坂元達裕(セレッソ大阪)が初選出された。それを記念し、2019年10月に発表したサッカーライター・安藤隆人氏による坂元選手のコラムを再掲載する。
©安藤隆人 ©星野編集事務所


今季、東洋大学からモンテディオ山形に加入したFW坂元逹裕。J2第35節時点でJ1昇格プレーオフ圏内である4位、自動昇格圏内である2位に勝ち点差2まで迫るチームにおいて、開幕戦から出番を掴むと、【3-4-2-1】の右シャドーとしてレギュラーに定着をした第3節・町田ゼルビア戦でプロ初ゴールをマーク。これまでリーグ戦全35試合に出場し、6ゴールを挙げて、大活躍を見せている。この躍進の裏側にあるものとは――。

文・写真/安藤隆人  編集/星野志保

 プロ1年目からブレイクの時を迎えている、山形の若きストライカー・坂元逹裕。彼のこれまでの成長の軌跡には、切っても切れない高校3年間のライバルたちの存在が大きな影響を与えていた。
 「高校の時は徳真と凌磨が『Wエース』でした。年代別日本代表でU-17W杯(2013年、UAE大会)にも出ているし、1個も2個も上のレベルでサッカーをしていて、自分と大きな差があると感じながらプレーをしていました」
 前橋育英高校時代、同級生にはMF鈴木徳真(徳島ヴォルティス)、渡邊凌磨(アルビレックス新潟)という1年次から年代別日本代表に入り、この年代のトップシーンでプレーしていた2人のタレントがいた。常に自分の上を行く存在がいることで、坂元は「早く追いつきたい」と必死で日々のトレーニングに打ち込んだ。
 さらに同級生には中学時代に同じFC東京U-15むさしでチームメイトとして切磋琢磨するも、共にFC東京U-18に昇格出来なかったMF小泉佳穂(FC琉球)がいた。
 「僕にとって佳穂の存在はとてつもなく大きくて、中学からずっと喧嘩を繰り返しながらも、一緒に刺激し合いながら成長して来ました。一緒に成長したいと思うと共に、絶対に負けたくない相手です」
 同じ悔しさを共有し、前橋育英での成長を誓い合った親友であり、時には感情を剥き出しにしながら、真正面からぶつかり合える貴重な存在。お互いが素でいられるからこそ、中高という多感な時期に高め合える関係性を深められた。
 そして、坂元に刺激を与えたのは、この3人だけではなかった。同級生には他にもGK吉田舜(ザスパクサツ群馬)、MF吉永大志(現・福島ユナイテッドFC)など将来的にJリーガーとなる選手が多数おり、高3になると熾烈なレギュラー争いを展開。加えてこの年代はBチームも含めて意識が高い選手が揃っていたため、FWとしてレギュラーを掴んでいた坂元にとって息の抜けない毎日が続いた。
 「今思うと物凄く幸せな環境でサッカーをさせてもらっていたと思います。高校の3年間はずっと周りに引っ張ってもらったからこそ、今があると思っています」
 高校卒業後は東洋大学に進学、入学当時は関東大学2部リーグに所属していたため、小泉が進学した青山学院大との戦いが、坂本の心に大きな火をつけていた。
 「ずっと一緒だったのが別々のチームになったことで、より負けたくない気持ちが強くなりました。佳穂は1年時から試合に出ていて、活躍をしていた。それが本当に悔しかったですし、青山学院大と当たるときは、めちゃくちゃ気合いが入るんですよ。『絶対に俺が出て活躍してやる』と思えたし、よりモチベーションを高く持ってサッカーに打ち込むことができた」
 坂元も徐々に頭角を表すと、大学2年時には主軸として活躍し、チームも念願の1部昇格を果たした。そして、1部での2年目のシーズンとなった大学4年の昨年はエースナンバー10を託されるまでになった。
 関東大学リーグ1部で東洋大のエースストライカーとして活躍し、チームを創部初となる全日本大学サッカー選手権大会(インカレ)出場に導いた彼は、9月に来季からの山形入りが決まった。
 順風満帆な大学サッカー生活を送る中で、彼は苦しむ親友の人生を変えた。1部に昇格した東洋大に対し、青山学院大はなかなか2部リーグで結果が出ず、1部に上がることができなかった。チームの10番を背負っていた小泉は、坂元に「俺、サッカーは大学までにしようと思っている」と打ち明けた。
 「ここで辞めるのはもったいない。絶対にやれると思うし、プロに行けばまた違う景色が見えるから。佳穂だったら出来るよ」
 坂元は真剣に親友に想いをぶつけた。小泉がいたからこそ、今の自分がある。この言葉に小泉は突き動かされ、坂元の後に続くように琉球入りが決まった。
 9月23日、山形はアウェイで琉球と対戦。この試合で先発出場した坂元は、1−1となるゴールをマーク。74分に交代を告げられると、3−1の山形リードで迎えた83分にベンチスタートだった小泉が投入され、ここから琉球が2点を返し、3−3のドローに終わった。ピッチに一緒に立つことは出来なかったが、試合後に久しぶりに直接言葉を交わした。
 「戦えなかったのは残念ですが、やっぱり佳穂はうまいなと思ったし、向こうも僕がゴールを決めてかなり刺激を受けていた。それに嬉しかったのが、佳穂が山形戦の次の町田ゼルビア戦で(今季初の)スタメン出場をしたことで、僕も物凄く刺激を受けました」

 J2第35節のアウェイ・ジェフユナイテッド千葉戦で、山形は4−1の快勝。スタメン出場で勝利に貢献した後のミックスゾーンで、坂元はこう目を輝かせながら口にした。「昨日の福岡戦も佳穂は出ていましたよね」と、小泉の話になるとまるで自分のことのように笑顔で語る姿に、今も続く2人のかけがえのない関係性が浮かんで見えた。
 「僕は本当に幸せだなと思います。ライバルがたくさんいて、僕は相当負けず嫌いなので、他の選手が活躍する姿を黙って見てきたわけでは無かった。すべて自分の成長の材料にすることができています」
 間違いなく今は逆に坂元がライバルたちに大きな刺激を与えている。あの代の前橋育英のメンバーの中でまだJ1でプレーする選手はいない。現時点で一番結果を残し、J1昇格に一番近い場所にいるのが坂元だ。
 「自分がJ1昇格を決めることができれば、みんなもどんどん結果を残してJ1の舞台で戦えるようになると思うので、そこは目指しているところです。まずはJ1昇格にすべてを懸けたい」
切磋琢磨。これを体現し続けてきた坂元逹裕は、今を全力で駆け抜ける。己の目標に向かって一直線に――。

■Profile
坂元達裕(さかもと・たつひろ)
1996年10月22日生まれ。FC東京U-15むさしから前橋育英に進学。高3時に選手権準優勝を経験し、東洋大学へ。今季から山形に加入し、第31節の柏レイソル戦からリーグ戦3試合連続ゴールをマークするなど活躍中。
*2019年10月時点のもの