機動破壊のその先へ。打倒・育英を掲げる逆襲

高崎健康福祉大学高崎高校


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2021年3月19日に、第93回選抜高校野球大会が開催される。昨年は新型コロナウイルス感染の影響で中止となったセンバツ。今年は群馬から、関東大会を制した健大高崎が出場する。圧倒的な打撃力を誇る健大高崎が機動破壊からいかに進化していったのか――。2019年6月に発表された記事を紹介する。

©菊地高弘  ©立川一光  ©星野編集事務所


群馬の頂点を狙い、練習に励む健大高崎野球部の選手たち(2019年6月3日撮影)

健大高崎を支えた「ブレーン」がいなくなった……。周囲がざわめく中、健大は新たな挑戦を始めていた。「機動破壊」のその先へ。そこに活路があると信じて。

菊地高弘=文 立川一光=写真

 「機動破壊」は消滅の危機にある。
 そのニュースを耳にした時は信じられなかった。健大高崎の葛原美峰アナリストと葛原毅コーチが退任したというのだ。
 葛原アナリストはデータ分析やチーム運営の助言などでチームを支えていた。健大高崎の旗印である「機動破壊」というフレーズの生みの親でもある。葛原コーチは走塁指導を担当し、盗塁技術から緻密なトリックプレーまで、選手に細かく仕込んできた張本人である。その2人が抜けるということは、健大高崎のお家芸になった相手にプレッシャーをかける攻撃的な走塁ができなくなるということではないか。
 さまざまな事情があり、葛原親子はチームを去った。青栁博文監督は「葛原親子には健大高崎の基礎を築いてもらいました」と感謝を口にして、「それでも他にもたくさんスタッフがいますから、全員の力を合わせてやっていきます」と前を向いた。
 山下航汰(巨人育成)をはじめ、1番から長距離砲がズラリと並び、全員の高校通算本塁打数を合わせると200本を軽く超える高校屈指の強打線を擁した昨夏。圧倒的な優勝候補に挙げられながら、天敵・前橋育英に敗れた。さらに昨秋、今春と三度にわたって前橋育英に苦杯を喫している。

青栁博文監督

 そんな悪い流れに拍車をかけるような名物指導者の離脱に思えるが、青栁監督は意外なことを口にした。
「世間のイメージでは、『健大高崎といえば機動破壊』ということになっていますが、機動力はあくまでも攻撃の一部です。まず塁に出ないことには走れません。それに、機動力を重視した野球で最近は勝てていないという現実もあります。これからは『機動破壊』の基礎は残しつつ、その先に行かないと勝てないと考えています」
 改革はすでに始まっている。新年度から赤堀佳敬コーチが指導スタッフに加入。赤堀コーチは強打のチームとして知られる盛岡大付で打撃論を学んできた、26歳の若い指導者である。早くも1年生大会(若駒杯)で指揮を執り、その攻撃的なエッセンスをチームに注入している。赤堀コーチは「1年生でもバックスクリーンに放り込むほど力をつけてきた選手もいますし、楽しみです」と語る。とはいえ、現時点では1年生を中心に指導しており、その成果が目に見えて現れるのは少し先のことになるだろう。
 春から戦力的な上積みも期待できる。「春は3年生の大会」と青栁監督が語るように、今春の関東大会ではベンチ入り18人が3年生だった。しかし、夏に向けて中軸候補の強打者・安齋駿斗や、長身本格派左腕の下慎之介ら将来有望な2年生が戦力に加わる見込みだ。青栁監督は「下級生が5~6人はベンチに入るかも」と競争の激化を期待する。

赤堀佳敬コーチ

 もう一つ、大きな変化がある。それは前橋育英へのライバル心を剥き出しにしていることだ。青栁監督は強い口調で言う。
「これまでは『育英さんは意識していない』と言ってきましたが、これだけ育英さんにばかり負けていたら、そんなことは言っていられません。慶應義塾高と練習試合をしたとき、いかに慶應が早稲田という存在を意識して、高め合ってきたかを感じました。早慶戦のように、思い切り意識するのもいいと思ったんです。今年は選手にも、あえて育英を意識させるようにしています」
 勝機はあると見ている。選手個々の力量は遜色ない。あとは普段通りの力が出せるかどうか。その究極のテーマをクリアすべく、健大高崎は準備を進めている。
 2019年夏、「機動破壊」が新たなフェーズへと移行することは間違いない。それは決して後退ではない。そのことを証明するための戦いは、まだ始まったばかりだ。

<了>