3勝8分20敗、勝ち点17。昨季はこの結果を誰が予想しただろうか。J2に所属する20チーム中、最下位の成績だ。今季も残すところ7試合。シーズン途中から指揮を執る武藤覚監督と、勝利を目指し奮闘する選手たちに、サポーターへの思いや苦しい状況の中で懸命に前を向く姿を紹介しよう。
星野志保(EIKAN GUNMA編集部)
今季は、開幕前から写真週刊誌よる大槻毅監督のパワハラ疑惑報道(後に、パワハラがなかったことがクラブにより確認されている)をはじめ、サポーターによる試合後のバスの取り囲み、大槻毅監督の解任、残留争いの大事な時期のキャプテンの移籍など、負の連鎖が続いている。
まず、今季、クラブを襲った不運な状況を振り返ってみよう。
大槻監督体制3シーズン目を迎える今季の新加入選手の記者会見で、クラブは「勝ち点51、10位以内」(※)の目標を掲げた。昨季の成績が勝ち点57、11位と、J2が22チーム制となって以降、クラブ史上最高の成績を残したため、J1昇格を狙うステップアップの年になるはずだった。
※今季からJ2が20チーム体制になったのに伴い、試合数が4試合減ったため、この4試合を2勝2敗と考え、昨季の勝ち点から-6を引いた数字を目標の勝ち点とした。
この会見で、大槻監督は「僕がこのクラブに来て感じたのは、やっぱりネガティブな空気がちょっとでもあると良くないんだなということでした。だから僕が絶対にやりたいのは、毎日、ポジティブでいること。ポジティブにちょっとでも成長できるように頑張りたいと思います」と語っていた。
だが、開幕前の週刊誌によるパワハラ疑惑記事で、チームは「ポジティブ」にはいかない状況に陥り、負の連鎖が始まった。
2月25日の開幕戦から2試合を引き分け、今季初勝利は3月30日の7節・徳島ヴォルティス戦。2勝目は、7月7日の23節・愛媛FC戦。この2勝はいずれもアウェイでのもので、ホーム初勝利は9月1日の29節・ブラウブリッツ秋田戦だ。勝ち点3になかなか手が届かず、リーグ戦31試合を終えてまだ3勝しかできていない。タラレバになるが、もし開幕戦前の週刊誌の記事がなければ、もっと勝利を積み重ねられたのではないだろうか。
櫛引政敏選手は、「本当にレベルの高い選手は、脅迫じみたことをされています。海外に目を向ければ、負けたら国に帰れない難しい状況にある選手もいるわけです。そういうことを考えると、あの記事が出たから勝てないというのは、僕はちょっと違うと思います」と、今の状況は自分たちが原因ときっぱり語った。
さらに、観客のブーイングに選手が萎縮し、良いパフォーマンスが出せないのではないかと櫛引選手に尋ねると、「ファンやサポーターがどうのこうので、ブーイングによって選手としてのパフォーマンスがネガティブな方向に変わるというのは、僕は信じられないです。あくまで個人的な意見ですが、周りの影響を受けてパフォーマンスが悪くなる選手は、そのレベルでしかない。僕は、自分のやるべきことをしっかりやるだけだと思っています」と、プロ意識の高い言葉が返ってきた。
では、負けたくないという気持ちが強く、ミスを恐れて積極的なプレーができなくなっているのではないのか。武藤監督はこう語る。
「ゲームで、勝たなきゃいけない負けたくないという思いは選手たちの中にあると思います。メンタルの強さは絶対に必要だし、選手が力を出せる方向に持っていくのは僕がやらなきゃいけないこと。選手も含めスタッフと一緒に、そういう雰囲気づくりをしていかなきゃいけない。ベストを尽くさないと絶対に結果はついてこないので、強い気持ちを持ってやるしかないと思っています」
今季、勝ち点3を拾えない試合が続いている状況を選手たちはどうみているのだろう。4-0で勝った7月7日の愛媛FC戦で2ゴールを挙げたFW佐藤亮へ、2日後の練習後に話を聞いた。
「今まで勝てなかったのは自分たちの責任だし、自分たちに足りないものがあるから勝てないのだと思っています。ただ、毎日練習を積み重ねて、監督から求められているものを体現しようとする姿は、決して間違ってないと思っています。サッカーは個人競技ではないですし、上手くいくシーズンもあれば、上手くいかないシーズンもあります。チームにスーパーな選手が来たから一気に勝てるようになるというわけでもありません。チームは総合力だと思うので、選手一人ひとりが同じ方向を向いてチームを高めていけたらいいと思っています」
チームが苦しい状況でも応援し続けてくれるサポーターについてはどう思っているのだろうか。
「多くの方に現地(スタジアム)に足を運んでいただいて、僕たちに声を届けてくれるのはとても嬉しいです。ただ、自分たちからお願いして応援してもらうものではないと思います。自分たちの戦う姿を見て、サポーターが『この人たちについていきたい、応援していきたい』と思ってもらえるようなチームでなければいけない」(7月9日、佐藤選手)
「ホームで1年ぶりの勝利で、ファンやサポーターの皆さんの喜ぶ顔を見て、『勝たなきゃいけない』と思いました。勝たなきゃいけないゲームを勝てていないのは本当に申し訳ない。試合に勝って、皆さんと一緒に喜びを分かち合うのが僕らの喜びですし、試合に勝たなきゃいけないと思っています」(9月4日、武藤監督)
良い変化も生まれている。今季、キャプテンを務めていた城和隼颯選手が、8月13日にモンテディオ山形に電撃移籍したことで、15日にGKの櫛引政敏選手が新たなキャプテンに就任した。櫛引選手は、青森山田高校から清水エスパルスに入団。その後、鹿島アントラーズに期限付き移籍するなど、日本のトップレベルを経験している。日頃から若手選手たちに、「試合のために、練習で何をするのかを考えなければいけない。ただ頑張っているのではなく、賢く頑張れ」と伝えていた。戦力を向上させるためには櫛引選手の厳しさが欠かせない。
櫛引選手をキャプテンにした理由について武藤監督は、「試合に出て、一番コーチングしているし、彼の言葉のもつ力は大きいと思っていました。今のチームは、皆、それぞれが一生懸命にやっているんだけれど、サッカーは1人じゃできないスポーツ。まだまだ互いに要求し合う部分が足りません。彼は、その要求ができる選手なので、僕は一番適任だと思いました。彼がキャプテンらしいプレーをしてくれると、チームも良くなると思っています」
サッカーのキャリアの中で初めてキャプテンを務める櫛引選手は指名されたことについて、「このチームに来た時から、年齢的なことも含めてチームをまとめる立場という意識を持って日々取り組んでいたので、単純に肩書がついただけと思っています。やることは今までと全然変わらないと思います」と淡々と語った。
櫛引選手のキャプテン就任は、リーダーとしてチームメイトに意見しやすくなり、プロとしての高い意識をチームにもたらしてくれるはずだ。
残り7試合。J2残留が厳しくなる中、試合結果に一喜一憂する状況は続く。
9月20日時点でJ2残留圏内である17位大分トリニータの成績は7勝11分13敗、勝ち点32。ザスパが残り7試合を全勝しても勝ち点は38。大分と16位で勝ち点33のロアッソ熊本のどちらかが2勝した時点でザスパのJ3降格が決まるという非常に厳しい状況だが、この残り7試合を悔いなく、全力で戦ってほしいと願う。
そして、選手の背中を押し、勇気づけるのはサポーターの役目だ。ホーム戦では、選手とサポーターが一体となって勝利をつかみ取ってほしい。ザスパの意地を見せてくれ!
<了>