
5月30日の記者会見で、ザスパ群馬がベイシアグループの傘下に入ることが発表された。29日に第三者割当増資で発行した株式をベイシアとカインズが引き受け、議決権保有割合が50.4%(ベイシア25.2%、カインズ25.2%)となり、ザスパは同グループの傘下に入った。今後、クラブにどんな変化がもたらされるのかを、記者会見での土屋裕雅氏(ベイシア、カインズ代表取締役会長)、赤堀洋氏(ザスパ代表取締役会長)、細貝萌氏(代表取締役社長)のコメントから探る。
文・写真/星野 志保
プロスポーツクラブが大企業の傘下に入る流れは、ビッグクラブに成長するために欠かせない。潤沢な資金力や経営ノウハウをクラブに投入することで、成長を加速できるからだ。近年では、FC町田ゼルビアが好例だ。サイバーエージェント代表取締役社長の藤田晋氏が町田の代表取締役社長兼CEOに就任し、同社が積極的にクラブ経営に関与したことで、町田はJ1に昇格しただけでなく、J1一年目から優勝争いをするなど、Jリーグの強豪クラブに急成長した。ザスパもこの流れをつかんだ。
5月29日、第三者割当増資で発行した株式をベイシアとカインズが引き受け、議決権保有割合が50.4%(ベイシア25.2%、カインズ25.2%)となり、ザスパはベイシアグループの傘下に入った。翌30日の記者会見では、ベイシアグループの経営ノウハウやネットワークを活用し、クラブの強化と地域一体型の成長を目指す方針が示された。今後は、群馬県の190万人の人口基盤を生かし、ファン拡大と競争力向上に取り組む。
ザスパがベイシアグループの傘下に入った最大の利点は、経営基盤の安定だ。ベイシアの代表取締役社長である相木孝仁氏とカインズの代表取締役社長CEOである高家正行氏が社外取締役として経営陣に加わり、運営を支援する。両氏は既存の経営陣を支えながら持続可能な成長を目指す。この体制により、経営の効率化や戦略的な意思決定が加速するだろう。
さらに、ベイシアグループのリアル店舗のネットワーク、デジタルマーケティング、経営戦略の豊富な経験をザスパに注入できる点も、クラブ成長に欠かせない。カインズは群馬県内に30店舗(全国259店舗)、ベイシアは同38店舗(全国135店舗)を展開する。群馬県内在住の同グループの会員数は、「カインズが約50万人、ベイシアが約37万人(※1)」(土屋会長)おり、リアル店舗やSNSを通じてザスパの魅力を発信し、スタジアム観戦につなげられる。顧客だけでなく、ベイシアグループには群馬在住の従業員が約8000人おり、家族やOBを含めると約5万人にザスパの魅力を伝えられる。顧客数約87万人と従業員や家族約5万人を合わせ、約92万人にアピールできるのは大きい。
※1 カインズとベイシアの両方に登録している会員もいるが、ここでは別々にカウントしている。
今季のホーム戦の1試合平均観客数は2578人で、J3降格により集客で苦戦している。会見で赤堀氏は、「リアル店舗やベイシアグループの会員とつながり、スマホのコンテンツや動画でザスパに触れる機会を増やし、スタジアムに来場してもらえるようにしたい。サッカーだけでなく、場外イベントも含めて『また行きたい』と思える楽しい体験を提供する仕組みを作りたい。ただ、こうした仕組みを我々だけで広げるのは難しい。ベイシアグループの資本、人的支援、ノウハウを活用し、集客を増やしたい」と語った。ザスパは最近、YouTubeに力を入れており、「直近3週間での動画再生回数はJ3で1位」(赤堀氏)だ。既存のファンやサポーターだけでなく、ベイシアグループの群馬県内の広域ネットワークを活用することで、スタジアム観戦者が増えるだろう。
ベイシアグループは「For the Customers(すべてはお客様のために)」を企業理念に掲げ、より良いものをより安く提供することで、地域の暮らしを豊かにする。ザスパを傘下に収めたことについて、土屋氏は「スポーツは地域に喜びや感動をもたらし、世代を超えた触れ合いの輪を広げ、コミュニティや経済を活性化する。スポーツは暮らしを豊かにする。これはベイシアグループが取り組むべき領域だと考え、決断に至った」と会見で述べた。
地域とのつながりを大切にするベイシアグループは、ザスパと共に「ハブ」の役割を担い、地域の暮らしを豊かにする。「ハブ」とは、既存の株主やザスパに関わる人々がバラバラに活動するのではなく、一体となって群馬を盛り上げるという意味だ。そのために、事業基盤を安定させ、「選手が意欲的に安心して頑張れる環境」(土屋氏)を整える。ホームタウンが一丸となって持続的な応援を行い、選手のモチベーションを高める。選手のモチベーションが上がれば勝利が増え、観戦者に「また見たい」と思わせ、継続的なファン獲得につながる。ファンが増えれば、スポンサー企業や地元にメリットが生まれる。ザスパのスポンサーになることで新規顧客の獲得につながる。また、県外から訪れる対戦相手のファンが県内で飲食・宿泊・観光することで地域経済が潤う。さらに、ベイシアグループが取り組む選手のセカンドキャリア支援(※2)により、引退後の不安が軽減され、選手がサッカーに集中できる環境が整う。これまで選手獲得に苦労したザスパだが、「選手に選ばれるクラブ」になることも期待される。
※2 ザスパの元選手・清水慶記氏がカインズの支援を受け、マフィンのプロデュースやチョコレートブランド立ち上げに挑戦している。2025年4月には、ザスパの4選手に対し、カインズ前橋小島田店でビジネスマナー研修や店舗見学・実務体験などのキャリア研修プログラムを実施した。
ベイシアグループのザスパへの経営参画は、クラブにとって新たな時代の幕開けだ。経営のプロフェッショナルによるサポート、潤沢な資本による選手補強、地域との強い結びつきを通じて、ザスパはJ3リーグでの競争力強化とファンベースの拡大を図る。細貝氏は「今回の増資は、クラブのさらなる成長と地域の皆様に誇りを持っていただけるクラブ作り、そしてJ2への早期復帰とJ1昇格という目標の実現に向けた大きな一歩です。群馬県前橋市出身の私が先頭に立ち、クラブを前進させたい」と決意を語った。県内のサッカーファンにとって、スタジアムで勝利を共に喜び、群馬の誇りを感じる瞬間が増えるだろう。
<了>