
今年2月に代表取締役社長代理兼GMとして地元群馬のクラブ経営に関わっていた細貝萌氏。4月25日の定時株主総会および取締役会で、正式に代表取締役兼GMに就任した。今年2月から社長の業務についている細貝氏は、自身の「社長としての現在地」をどう受け止めているのか。そして、株式会社カインズ代表取締役社長CEOの高家正行氏と、株式会社ベイシア代表取締役社長の相木孝仁氏が取締役に就任したことでクラブ経営にどんな変化が期待されるのだろうか。
文・写真/星野志保
正式に代表取締役社長兼GMになったことについて、「精神的な部分で、より自覚を持って、時間を過ごしていきたい気持ちでいます」
2月から代表取締役社長代行兼GMで、社長業をスタートしていた細貝氏は、4月25日の定時株主総会および取締役会で正式に代表取締役に就任した気持ちを語った。今年2月から社長業務に就いていたとはいえ、「代行」が肩書から外れたことで、責任の重さを改めて感じているようだった。
細貝氏は、昨季を最後に20年のプロサッカー選手生活に終止符を打ってすぐにザスパの代表取締役社長に就任。現役引退直後の代表取締役社長への就任に、「経営者として経験不足」という見方をする人もいた。
「『サッカーをしていたから、経営なんて分からないよね』『経営者は無理だろう』と言われることも多いと思います。それは自分自身が一番分かっています。自分自身のことをしっかりと理解していますし、だからこそ(経営者として)成長したい欲があります。僕の仕事の質に関してはもっと学んでいかなければならないところが多くありますが、そこは量でカバーして質を上げられるように努力している状況です」と細貝氏は自分の経営者としての“現在地”を客観視していた。“社長”という肩書がつくと、「自分は偉いんじゃないか」と勘違いする人もいるが、細貝氏からはクラブを背負う、スタッフや選手の生活を背負う覚悟と社長業に真摯に向き合おうとする姿勢が感じられた。
今回の定時株主総会および取締役会で、株式会社カインズ代表取締役社長CEOの高家正行氏と、株式会社ベイシア代表取締役社長の相木孝仁氏が取締役に就任することが決まった。日本を代表する企業でもある2社がクラブ経営に参加することで、ザスパの経営基盤の強化が期待される。
Jリーグでは大企業の資金力によるクラブ運営が、昇格の要因の一つになっている。言い替えれば、“町クラブ”のままではJ1昇格は難しいということ。参考になるのがFC町田ゼルビアだ。
町田は、2018年10月にサイバーエージェントが株式の80%を取得したのを機に、徐々にクラブの経営基盤が強化された。さらに、2022年12月1日にサイバーエージェントの代表取締役社長の藤田晋氏が町田の代表取締役社長兼CEOに就任してからは、エイベックスのトップパートナー契約締結などもあり23年のスポンサー収入が前年比約80%増の26億5600万円(22年は約5億円)と激増。豊富な資金力を背景に積極的な補強を展開し、クラブをJ2リーグ優勝、J1昇格に導いた。
今季、ザスパは1年でのJ2復帰を目指し、シーズン中の戦力補強に力を注いでいく。そのためにはスポンサー収入の拡大は欠かせない。カインズ、ベイシアが経営に積極的に携わることで、町田のようにスポンサー収入が増え、経営基盤が強化されることを期待したい。
そして、今回の定時株主総会・取締役会で、発行可能株式総数を大幅に増やすことも承認された。経営基盤の強化策の一つで、新たに発行した株式を特定の第三者(法人や個人)に引き受けてもらい、資金調達をスムーズにできるようにする狙いがある。
一方、当期の運転資金として1億5000万円を準備した。内訳は金融機関などから1億円を借り入れ、新株発行で5000万円を調達している。
2005年にJリーグ入りザスパ。ようやく経営が強化でき、J1昇格へ向け地盤固めができそうだ。
進み始めたアカデミー改革
JINSとパートナー締結
GMを兼務する細貝氏がトップチームの強化と共に力を入れているのが、アカデミーの改革だ。これまで独立法人だったアカデミーを昨年、クラブ直属の下部組織に変更したことで改革しやすくなった。
まず、トップチームを指揮する沖田優監督やコーチ陣がアカデミーの選手たちを指導するようになった。「トップチームの選手に教えている内容はこういうものだよ」と下部組織に伝えるためだ。アカデミーからトップチームに選手が昇格した時に、チームにフィットしやすくなる。さらに、練習を通して直接トップチームのコーチ陣が指導することで、アカデミーの選手たちのモチベーションを上げる効果もある。
「(アカデミーの選手たちには)トップチームに上がってこられるようになってほしいと思います。サッカーをしている限りは当然、サッカー選手になるという夢を持っていると思います。その夢に近づいてもらえるように、僕もいろんなチャレンジをしていきたいと思っています」と、細貝氏は下部組織への思いも語った。
アカデミーからトップチームの選手を輩出できるようにならなければ、Jクラブとしての成長はない。
そのアカデミーに、力強い支援が決まった。ザスパは4月23日に、株式会社ジンズ(前橋本社/前橋市川原町、2024年8月期の売上高/653億200万円)とクラブパートナー(ゴールドパートナー)を締結。主な内容は、アカデミーへの包括的なサポートである。具体的には、アカデミーの選手、スタッフが着用するトレーニングウエアへのロゴ掲出、選手育成・キャリア教育プログラムへの支援(サッカーノートへのロゴなどの掲出)、アカデミーが保有するバス1台へのロゴ掲出である。
国内大手のアイウエアメーカーであるジンズとのクラブパートナー締結は、アカデミーの活動を支えるだけでなく、ザスパにとっても今後のスポンサー収入増加のきっかけになると期待したい。
2005年にJリーグに入ってから20年が過ぎた。カインズとベイシアが本格的に経営に関わることで、ようやくザスパの経営基盤が強化される。2030年のJ1昇格を実現してほしいと願う。
<了>