沖田優監督の下で超攻撃的サッカーを掲げたザスパは1年でのJ2復帰を目指す。J3でスタートを切るザスパ群馬にとって、2025年はどんなシーズンになるのだろうか。
開幕戦前日の練習後、沖田監督と選手に開幕戦を迎える心境やチームの状態などを聞いた。
取材日/2025年2月14日
開幕戦前日は非公開練習だったが、練習後に選手たちが囲み取材に応じてくれた。まず、にこやかな表情で記者の囲みの中に入ったのが、今季、松本山雅FCから期限付き移籍をしているキャプテンの米原秀亮選手だ。
記者から開幕戦を明日に控えた気持ちを聞かれた米原選手は、「ワクワクしています。サポーターの皆さんに、今年はこういうサッカーをするんだというのを早く見せたいです」と笑顔を見せた。チームが始動して5週間半経ったが、その表情から充実した時間を過ごしたことが伝わった。
開幕戦はFC琉球との対戦になるが、「相手どうこうというより、(相手は関係なく)主体的にやるサッカーなので、チームが始動して5週間半で積み上げてきたもののやるだけです」と米原選手に気負いはない。
チームが目指している攻撃的なサッカーについても、「チームが始動したばかりの頃は難しいかなと思いましたが、練習試合を積み重ねたことで自信をもってプレーできるようになりました。(相手のプレーに合わせた)リアクションサッカーよりも、自分たち主体でやるサッカーは楽しい」と目を輝かせた。
開幕戦は、沖田監督にとってもプロクラブで初めて監督として采配を振るう。特別な思いはあるのだろうか。
「自分がどうこうっていうよりは、攻撃的なスタイルでいく初戦なので、ザスパらしい新しいものをお見せしたい。選手たちもそれに向かってやってくれていると思うので、自分のことよりもそっちの方が大事だと思っています。『いい準備をして、相手を圧倒しよう』と選手たちには話しています」
昨季J3で14位のFC琉球と開幕戦を戦うことについては、「琉球は、歴史的にしっかり攻撃ができるチーム。今季、監督が代わっても、そういうチームを作っていると思います。ただ、今、自分たちはいい状態なので、相手がどうであれ、自分たちの力を出すことに注力しているので、いつも通り自分たちのサッカーを表現することのほうが大事だと思います」と、対戦相手よりも自分たちにフォーカスする。
囲み取材が行われた午後12時の時点で、明日の試合のメンバーを選手たちに発表していなかった。「あと数時間悩んで決めたいと思います。できれば全員(試合のメンバーに)入れてあげたいと感じるぐらい、皆、ここまでよくやってくれました」と語った沖田監督。選手全員に気を配る優しさがあふれていた。
では、取り組んでいる超攻撃的なサッカーについて、どれくらい選手たちに浸透しているのだろうか。沖田監督はこう語る。
「自信をもって失点を恐れずに、しっかりボールをつないでゴールに向かっていく。相手のゴール近くでできるだけ長い時間プレーところは選手全員がイメージできていると思います。あとは、それをお客さんの前で表現してもらいたいですね」
長いシーズンの中でうまくいかないこともあるだろう。そんな状況になったときはサッカースタイルを変えて勝ち点を取りに行くのだろうか。
「攻撃的なサッカーをやめる時は、僕がザスパを辞める時です」ときっぱり。最後まで攻撃的サッカーを貫く覚悟だ。
そこで欠かせないのが、「攻撃的なマインドをもつこと」。沖田監督は、「プロの公式戦でお客さんの前で、攻撃的なマインドを表現するのはすごく勇気のいることだと思います。ミスした時にネガティブにならずに攻撃を続けられるメンタリティーが大事。例え、明日、試合開始早々に失点しても、選手たちは絶対に点を取ってくれると信じています」
ミスを怖がらないで挑戦し続けるメンタリティーは簡単に身につくものないと思うのだが、5週間半のトレーニングの中で沖田監督はどのようにしてそのメンタリティーを選手たちに植え付けていったのだろうか。
「僕自身は、選手がミスをしてもそれはこっちの責任だから、選手は自分のプレーに集中して楽しみながらサッカーをやってくれればいい。それが新しいザスパを作ることにつながると思うんです。選手たちはこの5週間半ですごく成長をしてくれたので、ちょっとびっくりしています」
選手たちを伸び伸びとプレーさせることがミスを怖がらないメンタリティーづくりにつながっているようだ。
今季は、チーム作りも注目したい。沖田監督が、松本から期限付き移籍をしている新加入の米原秀亮選手をキャプテンにしたのは、「ポジション的にも攻撃の中心で、年齢的にもチームの真ん中ぐらいで、どの選手とも積極的にコミュニケーションを取れる」という3つの理由からだ。「この1年で絶対に成長したい」という気持ちの強さも評価された。
米原選手にとってはサッカーのキャリアの中で初めてのキャプテンとなる。昨季、所属していた松本で、プレーオフに進出しながらJ2に昇格できなかったことから、「どんなチームが昇格できて、どんなチームが昇格できないのか」が身に染みてわかった。そのため、「個人のことよりチームが大事。皆が同じ方向に向けるようにいろんな選手と話をしたい」と話す。
また、副キャプテンには、青木翔太選手、高橋勇利也選手、船橋勇真選手の3人が選ばれた。青木選手は、2019~21年までザスパに所属していたためクラブをよく知る選手でもある。「どんな時でも練習を引っ張ってくれる」と沖田監督の信頼も厚い。米原選手と同い年の高橋選手は向上心が強く、キャンプ中の練習試合で失点した時には、選手たちを集めて話をした行動が評価された。船橋選手も「高橋選手に負けず劣らずのサッカーが大好きで、一生懸命にやる姿を見て他の選手は何かを感じてくれると思う」と沖田監督は期待する。
このほかにも、「7~8人ほどチームを引っ張ってくれる選手がいるほど、楽しみな集団」と沖田監督は語る。
昨季、ブラウブリッツ秋田から期限付き移籍し、今季は完全移籍となった小柳達司選手も「チームのために」という気持ちが強い選手の一人。2012年にプロキャリアをザスパでスタートさせ、これまで2度のザスパ復帰を経験しているだけあり、クラブへの思いも強い。
「自分は関係ないと思う選手が多ければ多いほど、チームはマイナスの雰囲気になるのを去年実感しました。そうならないように選手たちの表情を見ながら、悩んでいる選手たちとざっくばらんに話をしたいと思います」と、チーム最年長選手としてのチームのために力を尽くす覚悟だ。
サッカースタイルを変え、チーム力も向上させたザスパが、開幕戦でどんなゲームを見せてくれるのだろうか。新生ザスパに期待しながら、シーズンを通じてチームの成長を見守りたい。
<了>