3度ザスパに加入した小柳達司が語ったクラブ愛

ザスパは特別なクラブと語った小柳。クラブにとっても特別な選手だ(2024年10月27日徳島ヴォルティス戦)©THESPA

――ザスパで過ごした約2カ月半の感想はいかがですか。

 時間的にはすごく短かったのですが、結果的に言えば、まったく勝てなかったので、すごく残念で悔しいシーズンになりました。

――いろんな思いを持ってザスパに戻ってきたと思いますが。

 なかなか自分の思い描いたものとはかけ離れてしまった感じですね。自分で(チームを)少しでも変えようと思って、自分も変わろうと思っていましたけど、なかなか難しい。それにそんなにすぐに変わるものではないし、結果を出すのはさらに難しいと思いました。

――武藤覚監督の下で守備の立て直しを図りましたが、短い時間の中では守備の改善は難しかったですか。

 そうですね。対戦相手によって戦術は変わりますが、戦術の前に個人で守らなければいけない部分が多いので、個人で守る時に相手にはがされてしまったり、それ以前にこぼれ球に反応できなかったりと、ベースの部分で戦えていない局面が多く見られました。自分も含めてですけど、そういう部分は時間をかけてというよりも、練習での意識の部分が1年間の取り組みとして出せなかったと感じました。

――その状況の中で、ベテランとして選手たちにどのように気を配っていたのでしょうか。

 自分が練習からしっかり意識してやることで、若い選手を中心に自分についてきてくれればいいと思いましたし、戦術の部分を話す時も伝え方には気を付けていました。結果に表れなかったので、口だけになってしまいました。ちょっと残念ではあります。

――秋田からシーズン途中でザスパに移籍して、外から見ていたザスパと、実際にチームに加入して中から見たザスパについてどのように感じましたか。

 サッカーはピッチだけじゃなくて、人間性の部分だったりチームの雰囲気だったりと、ピッチ外の部分も試合に影響します。ほとんどのスポーツもそうだと思いますが、ピッチ外の部分も大事にしなければいけない。もちろん戦術や個人のプレーも大事ですが、クラブ全体がもっと大きくなるためには、ピッチ外の部分も見直していかないと結果は出ないですし、クラブとしても成長していかないんじゃないかと思いました。

――小柳選手にとって、ザスパは大学卒業後に加入した「プロデビュークラブ」で、今季でザスパ加入が3度目になります。ザスパはどんな思いのあるクラブですか。

 最初にサッカー選手としての土台を築いたクラブなので、恩人のような選手や指導者もいたりしてとても特別なクラブです。もちろん契約満了になっているのできれいな思い出ばかりじゃないですが、それも含めて自分のプロサッカー選手としてのキャリアを語る上で欠かせないクラブです。自分の力を生かせる場所にいるので、そういった部分では今シーズンに関してはもっとクラブの力になりたかったですね。

――2015シーズン終了後にザスパを契約満了になった時は、やはり悔しい思いをあったのですね。

 (契約満了でクラブを去るのは)サッカー選手としては仕方のないことです。でも、お世話になった人たちがいるのは変わらないですし、そういう人たちへの感謝を自分は大切にしているんです。いろんな辛いこともありましたが、今思えば「まあ、そんなこともあったな」というぐらいですね。

――その辛いことが、サッカー選手としての糧になったのではないですか。

 それは確実にありますね。ザスパを契約満了になった時に「これからもサッカー選手を続けるんだ」という強い気持ちになったのは間違いないです。

――2018シーズン途中にもザスパに加入しています。所属していたクラブから声がかかるのはどんな気持ちだったのですか。

 ツエーゲン金沢では試合にあまり出られなくなっていた時で、ザスパが後ろの選手として必要としてくれたんです。他のJ2クラブからも声がかかっていましたが、試合に出ないとサッカー選手としてどうなのかという気持ちもありましたし、群馬は慣れている土地でしたし、マツさん(松下裕樹/2007~12年、2015~18年にザスパに在籍、高崎市出身)や知っている選手もまだ多くいたので、それが加入の決め手になりました。

ホーム最終戦に臨むため選手バスから降りた小柳。誰よりも感謝の気持ちを忘れない小柳は、J2に残留させられなかった悔しさを誰よりも噛み締めていた(2024年10月27日徳島ヴォルティス戦)©THESPA

――そして今シーズンが3度目のザスパ復帰となりましたね

 すごく迷いました。ブラウブリッツ秋田では、試合に出たり出なかったりしていましたが、ベテラン選手として自分を必要としてくれました。ただ自分のサッカー人生は着実に終わりに近づいていますので、自分の人生のストーリーとして、サッカー選手としてスタートしたザスパに移籍した方がいいんじゃないかと思ったんです。
 それに、秋田では自分のためにサッカーをしているという気持ちがすごく強くなっていて、何かを変えたいと思っていたんです。クラブのため、人のため、もちろん家族のためにサッカーをしたいと考えた時、ザスパならそれができると思いました。ザスパは僕にとってすごく特別なクラブなんです。

――今回、ザスパに移籍するに当たり、かつてザスパのチームメイトだった人たちに相談はしましたか。

 コウキ(風間宏希)にも連絡しましたし、マツさんとか有薗真吾(ザスパ群馬U-18 コーチ/2009~15年までトップチームの選手としてザスパに在籍)には、相談というか、「行きます」という連絡はしました。

――かつてのザスパにあって、今のザスパにないものは感じましたか。

 昔のザスパは、環境も悪かったし給料も低かったので、「泥砕くガムシャラに」を大事にして、練習から100%の力でサッカーに取り組むクラブでした。僕もその影響を受けて最後までやり切る、足り切る走り切る気持ちでやってきました。ルーキーの時からそれを実践してきたおかげで、サッカー選手として長くやれているのだと思っています。
 今季、ザスパに来た時に感じたのは、今のザスパに泥臭くガムシャラに、100%の力でやり切るというのが足りないと感じました。厳しい言い方かもしれないですが、選手たちに甘さを感じました。だからこそプロの厳しさを伝えるのが僕の役目だと思ったんです。とはいってもシーズン途中からチームに入ったので、言い方には気を付けつけていました。ただ、もっと強く言うべきだったと反省しています。
 自分が過去2度ザスパに在籍していた時と比べて、(ザスパークができたりと)練習環境も良くなっていまし、若い選手たちの考え方も変わってきています。時代の流れがあるにせよ、最終戦で戦ったいわきFCは選手がひたむきに頑張る良いチームだなと思いました。そういうチームがサポーターの心をつかむんだなと感じました。今のザスパは「ひたむきに頑張る」という部分が減ってしまっています。本当に寂しいですね。

――選手たちがひたむきに頑張るようになれば、ザスパも変わっていきそうですね。

 ピッチ内だけ頑張っていても戦えないし、成長するための準備はピッチ外から全部つながっているので、やっぱり練習からひたむきに頑張らない駄目だと思います。

――以前のザスパは金髪禁止など外見の部分にも決まりがありました。髪を染めるのは個人の自由ですが、ザスパとして個人として結果が出ていない中で、「自己表現をサッカーで見せてほしい」と思っていました。

 僕は、金髪であろうが飲みに行こうが、サッカーに必死に取り組む選手はそういうことを関係なしにやると思います。サッカーを追求する部分はプロ選手として持っていなければいけないし、もしサッカーに70%しか集中できていないのであれば、残りの30%もやらないといけない。髪を染めることで気持ちがリフレッシュできれば良いし、外見よりも気持ちの切り替えの方が大事なんじゃないかなと思います。

――来シーズンは、日本で活躍し、海外でもプレーした細貝萌さんが社長に就任します。選手としてはどう思いますか。

 細貝さんは、すごいキャリアのある選手で、今年のチームの雰囲気を肌で感じている選手なので、すごく良い方向にザスパを変えていってくれるんじゃないかなと期待しています。僕もザスパに残れれば力になりたいし、もうザスパはいい方向にしか進まないと思っているので、会社と共に一緒に歩みたいですね。

――小柳さんが来季もザスパに残ると仮定して、どのようにザスパの力になりたいと考えていますか。

 選手として成長し続ける部分を、練習から、試合前の準備からしっかりと若い選手たちに伝えたいですね。もちろん自分も成長しなければいけないので、その姿をしっかり見せるところは間違いなくやらなければならないと思っています。
 この世界は、クラブから「いらない」と言われれば終わりなので、自分が後悔しないように必死にサッカーに取り組んでいきます。

――最後に、小柳さんを応援してくれるサポーターに一言お願いします。

 (J3降格は)すごく残念な結果ですし、自分が加入してからもあまり勝てなくてすごく責任を感じています。ですが、こういう時だからこそ、サポーターの皆さん、スポンサーの皆さんの力が必要ですし、皆さんに力を貸してもらうには、自分たちについてきてくれるような姿勢を見せなきゃいけない。自分たちにそういう姿勢を見せるので、これからも応援をお願いします。

<了>

■Profile
小柳達司(こやなぎ・たつし)

1990年2月7日生まれ、千葉県出身。専修大学松戸高校から日本体育大学を経て、2012年にザスパに加入。プロキャリアをスタートさせる。16年にツエーゲン金沢に移籍し、18年8月に期限付き移籍でJ3に降格していた古巣のザスパに戻った。2019年にヴァンフォーレ甲府に完全移籍するも、2022年にブラウブリッツ秋田(2022-24年)に加入。2024年8月にザスパからのオファーを受け、6年ぶりに再び古巣に戻った。ポジションはDF。サイドバックからセンターバック、ボランチと複数のポジションをこなすユーティリティーさを持つ。181㎝・80㎏、利き足は右。