「選手として何も残せていない」と眠れない日々を過ごしたサンダーズの木村圭吾選手。この屈辱をバネに成長を誓う。

最終戦後のセレモニーの挨拶で、苦しかったシーズンについて語った木村選手(2024年5月5日仙台戦、オープンハウスアリーナ太田)

 やっと終わったな、長かったなって感じです。

 新潟では、ほぼ毎試合出場していて、40分間フルでコートに立っていることもありましたが、今シーズンはその逆で、試合にほぼ出られない。出てもちょっとだけで、試合の終わりの2分というのもありました。正直、屈辱的だったし、良い思いはしなかったです。

 正直、本当に寝れなかったし、目を閉じたら悪いことばかり頭に浮かんできました。言い方は悪いですけど、「来季、仕事があるのかな」とか……。ちょっとでも試合に出て活躍したら、それが材料になって、来季またサンダーズでプレーできるかもしれないし、他のチームに売り込むことだってできますが、試合に出るチャンスさえなかったら、選手として見せられるものが何もないんです。「どうしよう」と悩みましたね。そんな状況で練習に行って、そこでまた上手くいかなかったらどんどんどんどん気持ちが滅入ってしまう。そういうことが、結構ありましたね。
 そんな苦しい状況の中で助けてくれたのがチームメイトでした。最終戦のセレモニーでも話したのですが、アシスタントコーチの池田親平さん、菅原暉、五十嵐圭さんは僕の話を本当によく聞いてくれました。ホッシー(星野曹樹)もそうだし、野本建吾さんも並里成さんも、本当にみんなが僕を助けてくれました。
 特にベン(・ベンティル)は、僕が英語を話せるのもあり、「お前は、もっとやれるのに、それを(チームは)わかっていない」とずっと言ってくれていたんです。ベンはコーチにも、「何で圭吾を使わないんだ。圭吾を使った方がいい」と本気で言ってくれたこともあったんです。ベンは、「人を見下す」ような言い方をするんです。言い替えれば、「俺が一番だぜ!」って感じなんです(笑)。NBAにもちょっといて、ユーロリーグでもプレーしているような選手からそう言ってもらえたのは心に響きました。ベンの専属トレーナーが日本に来た時には一緒にワークアウトをさせてもらったり、食事に連れて行ってもらったりと、本当にベンには良くしてもらいました。
 今、名前を挙げた人たちだけじゃなく、他のチームメイトも皆、僕に声をかけてくれましたし、本当に仲間に支えられたシーズンでした。

シューターとしての能力が高い木村選手。4月27日の秋田戦では、3Pを5本中3本を決め、この日15得点を挙げる活躍を見せた(写真は1月27日三河戦、オープンハウスアリーナ太田)

 やっぱりバスケットが楽しいから、試合に出て、ちょっとでもプレーできれば嬉しいし、あの大歓声のアリーナでプレーできるのも嬉しいし、それこそファンの皆さんも温かく迎えてくれるし、そういう中でプレーできるのはやっぱり最高に嬉しいんですよね。
 ベンチに入れても試合に出られないこともあったので、正直、不貞腐れた時もありましたけど、やっぱり試合では、良い感じで振る舞わなければなりません。そういう態度もコーチたちは見ていますから。

 すべてアシスタントコーチの池田さんのおかげです。ベンチに入れるかどうか分からない時でも、全体練習の2時間前ぐらいから僕の練習に付き合ってくれましたし、全体練習後も最後まで残って僕の練習を見てくれました。そういう準備してくれたので、僕は不貞腐れたままでいることはできなかったです。僕から練習に付き合ってほしいとお願いはするんですけど、「次の相手はこういう癖があるから、こういうことしたら上手くいく。だからこういう練習しよう」と親身になってくれた池田さんのお陰で、短い時間でも3Pシュートを決めることができたんだと思います。いざ試合に出た時でも、その通りに自分がやるだけでしたから、池田さんの準備がなかったら、試合に出ても自分の持ち味を出せていなかったと思います。もちろん池田さんだけじゃなく、他のコーチングスタッフ、リバウンドを取ってくれるマネージャーと、サンダーズのスタッフ全員のお陰で、いつ試合に出てもいい準備はできていたと思います。

プレータイムは少なくても、能力の高さを垣間見せてくれた。プレータイムがもう少し長ければ、さらに成長した姿を見せてくれたのではないだろうか(2024年3月27日秋田戦、オープンハウスアリーナ太田)

 自分が試合に出ている時に、相手にボコボコにされることはなかったので、このレベルでも自分はできるんだと思いましたし、練習でもトップクラスの人たちと一緒にやっていけたのは、やっぱり自信になりましたね。辛抱強くやり続けることが本当に大事だなっていうのは、改めて実感したシーズンでした。

 僕は、新潟では“ディフェンスが良いキャラ”だったのですが、サンダーズに来たら“ディフェンスができないキャラ”になっていました(苦笑)。練習で「ディフェンスが良い」と褒めてもらえるのに、試合では信頼してもらえない。試合で「マークマンを変われ」と言われたりして、ディフェンスができないと見られていたのはショックでしたね。
 新潟の時には、相手のエースのマークについたりして、それなりに守れていたと思うんです。相手に30点も40点もやられたわけじゃなかったですから、ディフェンスには自信があったんです。

 日本のどのチームと試合をしても、トレイとベンを止められる選手はあまり見なかったほど、あの2人はBリーグでもトップクラスの選手だと思います。試合で、トレイやベンが調子が良くて自分たちでシュートを打てるような場面でも、わざわざ僕にパスをくれたり、「こういうプレーでお前が(シュートまで)行けよ」と言ってくれていたので、得点の部分では彼らに認めてもらっていたのかな。そういう選手に信頼されているのは嬉しかったし、もちろん彼らから学ぶところはオフェンスでもディフェンスでもたくさんありましたね。

最終戦後に集合写真を撮影。ベンチ外だった木村選手はユニフォームに着替えて遅れて合流したところ、チームメイトの手荒くも愛情あふれる出迎えを受けた(2024年5月5日仙台戦、オープンハウスアリーナ太田)

 でも、ここにいるか分からないです。やっぱり、自分を生かせる場所でプレーするのか一番だと思うんです。でもサンダーズでの1年は無駄だったとは全く思っていません。いろいろ学べたので、それを来季に生かしたいですね。

 先ほどチームメイトに助けられたと言いましたが、もちろんファンの皆さんにも本当に助けられました。試合に出たら大歓声で迎えてくれたり、シュートが入ったらすごい歓声で盛り上げてくれたりと、僕に期待してくれているのが分かるぐらい、温かく接してもらいました。皆さんの声援を聞くと、「ここでプレーしていてよかった」と思いましたし、手紙や差し入れをいただいた時は、「こんなに期待してもらっているんだな」と嬉しい気持ちになりました。そのたびに頑張ろうと思えたので、本当にサンダーズのファンの皆さんには感謝の気持ちでいっぱいです。

<了>

■Profile
木村圭吾(きむら・けいご)
2000年11月8日生まれ、東京都出身。実践学園中学時代は全国制覇を成し遂げ、八王子学園八王子高校時代はスコアラーとして将来を嘱望される存在だった。19年3月、高校卒業後に第12回スラムダンク奨学生として渡米。同年9月にセント・トマスモア・プレップに入り、20年8月にNCAAディビジョンⅢのセントジョセフ大学に進学。21年にコロナの影響で急遽帰国し、新潟アルビレックスBBに加入。2023-24シーズンに群馬クレインサンダーズに移籍。来季はB2の福井ブローウィンズでプレーする。ポジションはシューティングガード(SG)、188㎝・82㎏。