群馬クレインサンダーズ
星野曹樹
2022-23シーズンに、新潟アルビレックスBBでの契約更新よりも、選手としての成長を求めて練習生契約でサンダーズに加入した星野曹樹選手。シーズン途中で選手登録を勝ち取り、今季もサンダーズでプレーすることを決断。努力をしてもベンチにさえも入れない苦しい時期に心が折れそうになったこともあったが、寄り添ってくれたキャプテンのトレイ・ジョーンズ選手の言葉で前を向き、ひたむきに頑張り続けた。今季最終戦となった仙台89ERS戦では、積極的にリバウンドに飛び込むなど、ディフェンス能力の高さを垣間見せてくれた。来季は仙台への移籍が決まったが、「頑張ることの大切さ」を教えてくれた星野選手の活躍を応援したい。
取材/星野志保(Eikan Gunma編集部)
*このインタビューは、5月10日に太田市内のパーティー会場で行ったもの。星野選手は13日にクラブから自由交渉リストに公示され、6月5日に仙台への移籍が発表された。
――2023-24シーズンが終了しましたが、シーズンを振り返ってどんな気持ちですか。シーズンを終えて「ホッとした気持ち」もありますか。
そうですね。でもやっぱり悔しい気持ちはあります。悔しい気持ちが一番ですね。
――どういうところが悔しかったのでしょう。
昨シーズンが29勝31敗と勝率5割に届かなかったというのがあり、今シーズンは4人の移籍選手がチームに加入し、「確実にチャンピオンシップ(CS)に行ける」「優勝を狙えるチームだ」と周りから言われたりしました。シーズンが終わってみれば勝率5割には届きましたが、目標のCS進出はできませんでした。もちろん(9連勝など)、いい時もありましたが、悪い時にその流れを自分たちで止めることができず消化不良に終わったシーズンでした。
――CS進出を逃したのは、シーズン序盤にトレイ・ジョーンズ選手とベン・ベンティル選手、ワイルドカード争いをしている終盤に、マイケル・パーカー選手とケーレブ・ターズースキー選手のビッグマン2人を欠く事態となったのも響きました。星野選手は、この状況をどうとらえていたのですか。
サンダーズというチームは、どちらかと言うと外国籍選手主体のチームというところがすごく目立っていて、その中でトレイ、ベン、マイク、ケーレブはチームの得点の半分以上を占める選手たちなので、彼らが抜けるとどうしても得点力が弱くなってしまうんです。そういった中で、野本建吾さんだったり、木村圭吾だったり、八村阿蓮だったりという選手の出場機会が増えて、彼らがステップアップしたところは良かったと思います。でもやはり結果だけを見ると、自分にとっては「成長」というよりも「課題」が見えたシーズンだったと思います。
――その「課題」とは、具体的に教えてもらえますか。
どちらかというと、自分たちのチームはオフェンスが大好きな選手が多いというイメージですが、そんな中でも自分の売りはディフェンスだったので、そこでチームを支えられるかなと、シーズン序盤から考えていたんです。でもなかなか実力不足でコートに立てませんでした。そんな中でも、もっと練習からハードにプレーしたり、アピールしたりして、コートに立つ機会を勝ち取るべきだったのかなと思います。
――シーズン序盤に星野選手がコートに立った時、持ち味を出せていない、プレーに迷いがあるなと思った試合もありました。
やはり、そう受け取られても仕方ないと思うんです。自分の中でやるべきことがなかなかまとまらなかった部分があって……。チームはあまりディフェンスが得意じゃないので、そこの部分でサポートしたいと思っていたんです。どちらかと言うとサンダーズはオフェンス主体のチームなので、それではなかなか評価基準に入らないのかなと思っていて、少し後ろ向きに考えてしまっていた部分はあったのかもしれないです。例えば、自分がシュートを打てる場面でも、自分よりもシュート確率の良い選手にボールを渡した方がいいのかなとか、自分で攻めたらターンオーバーになってしまうんじゃないかとか、コートに立った時にどうしてもオフェンス面での課題がぬぐい切れない部分がありました。そういうところで「迷いがある」と見られたのかもしれません。
――ですが、試合に出るごとに自信を取り戻し、リバウンドに粘りを見せるなど持ち味が発揮できるようになったと思いました。
それにはきっかけがあって、6、7試合ぐらい連続でベンチに入れない時に、キャプテンのトレイから「ちょっと、来てくれ」と呼び出されたんです。東頭俊典アシスタントコーチに通訳をしてもらったのですが、トレイが「僕にも、星野のような時期はあった。それでもやらなきゃいけない。若いからとか30歳を超えたベテランだからとか関係なく、星野がやっていることをやり続けてほしい。そこで評価されないことは絶対にないから」と言ってくれたんです。
トレイのような選手でも、過去に試合に出られないことがあったのにも驚きましたし、今年、キャプテンとして試合以外でもチームメイトを見ていてくれているのも嬉しかったので、なおさら「やってやろう」という気持ちになったのもあります。
――ジョーンズ選手の方から話に来てくれたのですね。
そうなんです。最初は、「何を言われるんだろう」と思いましたが、話をしてくれたのは嬉しかったですね。今まで、トレイとそんな話をしたことがなかったので。
――以前からジョーンズ選手は、チームメイトにアドバイスを?
昨シーズンはそんな感じではなかったですね。水野ヘッドコーチからシーズン前に、「今年はトレイにキャプテンをやらせたいのだが、どう思う」と相談を受けていたんです。ヘッドコーチはトレイにも、「もっと責任感を持って欲しい」と伝えたようで、トレイも今シーズンは積極的にいろんな選手とコミュニケーションを取っていましたし、試合に出られない選手に対しても「もっとこうした方がいいんじゃないか」と声をかけてくれました。怪我で試合に出られない時でも周りをサポートしてくれました。
――ジョーンズ選手のお陰で気持ちが吹っ切れ、星野選手の良さがコートで出るようになったのですね。
そうですね。もうガムシャラにやるしかないっていうのもありましたし、考えながらやるのはもちろんですけど、評価基準に入らないところでも自分は責任感を持ってやっていました。プレーする以上は評価も考えなきゃいけないのだろうけど、自分のプレースタイルが良くないというよりも、チームのプレーに自分がフィットしなかったのかなと思いますね。
――星野選手のSF(3番)のポジションには、ジョーンズ選手も八村選手もいます。そして怪我人の影響もあり、他のポジションもやらなければならなかったりと、難しい立場だったと思います。
今シーズンもサンダーズでやりたいと決めたのは自分なので、後悔はないです。切磋琢磨していろんな経験もできました。もちろん、つらいことの方が多かったですが、そんな中でも自分自身と向き合えたシーズンだったと思います。
――自分自身と向き合って感じたこととは?
率直に、「バスケットがしたい」と思いましたね。皆に褒められるからという理由で始めたバスケットを、怪我や挫折もありながら中学、高校、大学と続けてきて、そしてプロになって、いろんな課題に向き合いながらプレーしてきました。改めて自分と向き合って感じたのは、やはり自分を評価してくれる、自分の強みを分かってくれる場所でプレーするのも選択肢の一つだということです。
――サンダーズでの2年間で学んだことを教えてください。
やり続けることの難しさが一番かな……。どうしても試合に出られないと、「なんでだ」とか、「こんなに努力しているのに」と思いがちです。でもそんなことはお客さんには分からないことですし、自己満足と言われても仕方のない部分でもあるので、自分のやるべきことをやり続けることが大切だと学びました。本当に一日一日が勝負なんです。特に今シーズンは、チームで一番早い昨年の7月2日から自分と野本さんの二人だけで練習を始めました。自分でも勝負の年だと思っていて、トレイや阿蓮ともポジションが被ることが多い中で、「何とかしよう」としていたんですけど、もっと頑張らなきゃだめだなと思いました。
――思い通りにいかなかったシーズンでしたが、星野選手がコートに立つとアリーナが沸き、多くのファンに愛されているなと思いました。コートに立った時の声援はどう思いながら聞いていましたか。
少ない時間の中で結果を出さなくてはいけない難しい立場だったので、何をすべきかという考えが頭の中を巡っていて、なかなかファンの人たちの歓声が聞こえなかったんです。後で映像を見返した時に、「こんなに応援してくれているんだ」と感じることも多々ありました。ファンの人たちのために、もっとプレーする姿を見せられたらよかったですね。
――今シーズンは、シーズンの最初からオープンハウスアリーナ太田で試合が開催され、観客数も一気に増えました。
ホーム戦30試合で、毎試合5,000人を超える人たちが足を運んで、大歓声で盛り上げてくれて、太田市としても群馬クレインサンダーズで盛り上がっているなと本当に実感しました。だからこそ、CSに行って、皆さんに優勝を届けたかったです。
――来シーズンは、勝負の年になりますね。もうクラブとは契約の話をしましたか。
明日(5月11日)、吉田(真太郎)GMと面談があるんです。自分の思いも伝えつつ、フロント側が自分に対してどう思っているのかを聞いた上で判断したいです。この2年間、サポートしてくださった人たちのためにも、これからもバスケットボールを通じて恩返ししたいと思っています。
自分は、もっと街に貢献したいなと思っているんです。昨シーズン、まだ練習生だった頃に、吾妻特別支援学校にバスケットボールを教えに行ったことがあるんです。最初は恥ずかしがってボールにも触ってくれなかった子どもたちが、「シュートはこう打つんだよ」「パスはこういうふうに出して」といろいろと教えていくうちに、彼らから「シュート勝負しますか」と冗談を言ってくれるようになったんです。バスケットボールにも興味を持ってくれたようで、これからも地域貢献活動に参加したいと思いましたね。辻(直人)さんも「スリーピース」という能登半島地震で被災された病院や児童養護施設などの子どもたちの支援のための(3Pシュート1本決めるごとに3,333円を積み立てるという)社会貢献活動を続けています。自分も5月5日の最終戦の前に、(五十嵐)圭さんと一緒にレモネードスタンドプロジェクト(レモネードの売上を小児がんの支援にする活動)を手伝いました。
プロ選手として、自分たちはある程度影響力があると思うので、これからも貢献活動を通じて街と一緒にスポーツを盛り上げられれば、さらにバスケットを通じて街が盛り上がるのかなと思っています。
――最後に、応援してくれているファンの方にメッセージをお願いします。
まずは、「今シーズン、本当にサポートをしていただきありがとうございました」と伝えたいです。繰り返してしまうんですけど、今シーズンは悔しい気持ちが一番にあって、皆さんにもっと勝ちを届けたかったし、優勝して皆さんと喜び合いたかったなと言うのが正直な気持ちです。昨シーズンは29勝、今シーズンは31勝と、少しですが勝率は伸ばせました。サンダーズは後ずさりせず前に進んでいるクラブです。群馬クレインサンダーズはこれからも進化し続けていくと思うので、皆さんと一緒に(高みに)登っていきたいなと思っています。
<了>
■Profile
星野曹樹(ほしの・ともき)
1997年11月5日生まれ、新潟県出身。魚沼市立堀之内小学校~魚沼市堀之内中学校~帝京長岡高校~白鴎大学~新潟アルビレックスBB。今季は、プロとしての成長を考え、新潟との契約更新をせずにサンダーズに練習生として加入。12月1日に選手契約を勝ち取った。2年目の今季もサンダーズでのプレーする道を選び、シーズン終了後に移籍を決断。仙台89ERSへの移籍が決まった。ポジションはSF、195㎝・90㎏。
<代表歴>
2018年 第41回李相伯日韓大学バスケットボール競技大会
2019年 第42回李相伯日韓大学バスケットボール競技大会
2019年 第41回ウィリアム・ジョーンズカップ 3位