2年ぶり7度目の甲子園出場に向け、守備力を強化。夏はチーム力で勝負する!
2年ぶり7度目の甲子園出場を目指す前橋育英。今春の大会では、準決勝で健大と対戦し、0-4と4点ビハインドで迎えた9回表に、健大のエース・小玉湧斗投手を捕らえ、5番石川太陽選手、6番塩谷浩政選手、7番岩﨑投手の連続安打に、9番代打の植杉幸汰選手の満塁ホームランを放ち一挙に4得点を挙げ打線が爆発した。しかし9回裏の先頭打者を1塁に出すと、盗塁と守備のエラーで1点を献上。悔しいサヨナラ負けを喫している。
この敗戦がチームの成長の糧になり、選手たち自身も力がついたことを実感している。成長した前橋育英の選手たちが今夏、どんな戦いを見せてくれるだろうか。
取材/Eikan Gunma編集部 取材日/2023年6月8日
「自分たちは1年生大会で健大に0-7で大敗していて、健大と昨秋に戦った時も1-4で負けたんです。バッティング、スイングスピード、守備力、ピッチャーの投手力で健大との力の差を感じました」とキャプテンの小田島泰成選手が振り返ったが、春は1点差の勝負まで迫ったことに、選手たちは練習の成果が出ていることを実感。荒井監督も、「0-4での負けじゃなくて、追いついたのも大きいと思います」とチーム力がついたことを感じている。
また、春の前橋商との準々決勝でも3-5と2点リードされながら、8回に4点を挙げ逆転勝利を挙げるなど、チームに粘り強さも出ている。
「(前橋商戦、健大戦で)打線がよくつないでくれました。子どもたちには計り知れない可能性があるんだなと教えてもらいました」と荒井監督も選手たちの頑張りに感心する。なかでも健大との試合で同点満塁ホームランを放った植杉幸選手について、「いつも出ている子ではないんですけど、代打でホームランを打ったのですから、大したものだなと思いました」とその活躍に目を細めた。
夏の大会では、「旬」の選手を起用する。植杉幸選手のように「劇的に良くなることもある」(荒井監督)からだ。そのために荒井監督は、「この選手はこうだ」と先入観を持たず、選手一人ひとりと向き合い、彼らの気持ちを盛り上げて力を発揮しやすい環境を作っている。「『お前、ダメだよな』って言ったら、大人だって頭にきますよね。子どもも一緒だと思います」と、生徒の目線に合わせた指導も前橋育英の特徴だ。
現在、部員数は73人。荒井監督は、生徒一人ひとりに気を配る。言い替えれば、1対73通りの指導をする。練習中でもいろんな選手に声をかけ、ときには「○○(選手名)は楽しいから、あと20年ぐらいチームにいてくれないか」と、たわいもない会話をしたりして、選手たちと信頼関係を築いている。守備の練習中にエラーをしても、荒井監督が叱ることはない。一生懸命にやった上でのミスは、本人が一番わかっているから、そこで叱ると選手が委縮して能力を出せなくなるからだ。
そして、選手一人ひとりに役割があることを伝えている。「時計の部品は大体200ぐらいと言われていますが、1つでも部品が欠ければ、時計は動かないわけです。ウチもそれと同じです。選手一人ひとりに役割があり、誰一人欠けてはならないんです」とチームのまとまりを重視する。
例えば、ウォーターボトルに水を入れてサポートしてくれる選手がいるから滞りなく練習ができる。試合では、スタンドで応援してくれる選手たちがいるから、試合に出ている選手がピンチの時に力を発揮できる。
試合に出ているメンバーがチームの看板を背負っているのではなく、73人全員で「前橋育英硬式野球部」を構成しているという意識が高いのが、このチームの魅力の一つでもある。
さて、夏の戦力を見ると、春に故障していた岩﨑鈴音投手らの主力メンバーが復帰するのは好材料だ。堅守を誇る前橋育英が、春の健大戦で珍しくエラーを4つ出していたが、夏の大会までに守備の練習に重点を置き、課題克服に徹底的に取り組んだ。
「ウチは、そんなに攻撃に爆発力がないので、何とか守り切れる守備を作っていかなければいけないんです」と荒井監督。
練習では、荒井監督がノックを打ちながら、「1アウト1塁!」「1アウト1、3塁!」「1アウト2塁!」「9回の裏、同点、2アウト2塁!」と、ランナー付きのノックで状況判断を磨き、プレーの精度を高めている。
守りの中心はショートの久保田晃晟選手。守備範囲が広く、これまで何度もチームのピンチを救ってきた。センターを守る塩谷も俊足と打球の読みの良さで、チームを助ける。
投手陣は、最速145キロのエース・岩﨑投手が柱。変化球の精度も高く、牽制やバント処理も上手い。そしてもう一人の柱が、2年生の黒岩大翔投手。最速138キロで、ストレート、カーブ、スライダー、チェンジアップを投げる制球力の高い左腕。打たせて取るピッチングが特徴。この他、信澤快都投手、高橋平投手、植杉一樹投手(2年)、井上奨瑛投手もベンチ入りしており、投手層は厚い。
攻撃では、1番打者の可能性が高い小田島選手が鍵を握る。出塁率が高く、チャンスを作れる選手で、盗塁技術にも優れている。理想は、小田島選手、塩谷選手、久保田選手でチャンスを作り、黒岩投手、石川選手で返すパターン。下位打線でチャンスを作り、上位打線で得点につなげることもできる。攻撃では、持ち前の粘り強さを生かし9回トータルで勝負する。
前橋育英の最大のライバルとなるのが健大だ。前橋育英が県の頂点に再び立つためには、今夏ナンバーワンと言われる健大のエース・小玉投手を打ち崩さなければならない。荒井監督も「最終的に健大の小玉君を打てるかどうかという目で見ておかないと、(練習試合でも)点が入ったら『よし』じゃなく、『小玉君だったらどうなんだろう』という見方をするようにしています。小玉君は簡単には打てるピッチャーじゃないと思います」と警戒する。
毎年のように夏の大会に合わせて力のあるチームを作り、試合ごとに成長を見せる前橋育英。「一日も長く、3年生たちと野球がしたい」と荒井監督が望むように、前橋育英の選手たちが目指すのは、甲子園出場。そして、2013年以来の全国制覇だ。
<了>