吉田真太郎取締役に聞く。B1昇格へ向けた補強が奏功。チーム強化のポイントとは

試合前の会場で、心を込めてお客様の対応をする吉田真太郎氏
(2021年2月19日、ヤマト市民体育館前橋)

今季、勝率9割超という驚異的な数字で、B2優勝、B1昇格に向けて突き進む群馬クレインサンダーズ。その快進撃の要因は、今季初めて強化を担当した吉田真太郎取締役の力によるところが大きい。今回、マイケル・パーカー選手やトレイ・ジョーンズ選手などB1でもトップレベルの選手を獲得できた経緯や、将来のビジョンなどを聞いた。

取材/星野志保(EIKAN GUNMA編集部) 取材日/2021年2月19日

外国籍選手、帰化選手はB1トップチームの編成

――今季、初めて選手の補強を担当されましたが、慣れない仕事で大変だったのではないですか。

 普段、オープンハウス・ディベロップメントで開発事業を担当しているんです。いわゆる仕入れの仕事です。選手の獲得も開発事業もどちらも仕入れる仕事なので、そんなに大変ではなかったですね。

――今季、外国籍選手、帰化選手、日本人選手と、すべてB1経験者を獲得しました。それは必ずB1に昇格するというクラブ側の意思の表れを感じ取れました。今季の補強についての意図を教えてください。

 今季、B1に必ず昇格させるというゴールを定めていたので、まずは勝てる選手を集めることが一番にやるべきことでした。
 具体的に最初に何を考えて選手の獲得に動いたかというと、まずはB1に昇格できるチームを作るということです。今季のBリーグのレギュレーション(ルール)では、外国籍選手3人、帰化選手1人をチームに入れることができる(試合では、外国籍選手2人、帰化選手1人が同時にコートに立てる)。それをフルに生かせるような形がいいなと思っていました。スタッツ(公式記録)などさまざまな資料を見ながら研究したり、いろんな人の話を聞いたり、選手の性格の面も考慮したり。自慢ではないのですが、今、うちにいる選手たちは、皆、性格がいいんですよ。いろんな人に協力をしてもらいながら、獲得したいと思う選手についてのヒアリングを徹底的に行いました。

トレイ・ジョーンズ選手

――マイケル・パーカー選手(帰化選手)、トレイ・ジョーンズ選手、ブライアン・クウェリ選手、ジャスティン・キーナン選手の4人がうまくチームにはまったと思います。パーカー選手もバスケ雑誌『ダブドリVol.10』の取材で、「このチームは(吉田)GMが上手く作り上げてくれたなって感じている。とてもうまく嚙み合っている。特定の選手ってことはなくて、誰とでも上手くできていると思うよ。お互いがお互いの良さを引き出して、弱いところを補っている」と答えていました。

 彼らそれぞれの役割がはっきりしていて、彼ら自身もやるべきことが明確になっているので、やりやすいんじゃないかなあと感じています。

――特に、トレイ・ジョーンズの活躍は目覚ましいものがあります。対戦相手も特にトレイを警戒していますね。

 彼の能力は高いですから。彼がチームに来てくれることになったとき、B2で優勝できるんじゃないかと思いましたね。彼はもともとアメリカ代表で、ワールドカップ2019中国大会の予選に呼ばれるほどの選手。能力の高さは半端じゃないです。それにすごくクレバーな(頭のいい)選手なので、どんなバスケットにも合わせられるんだと思うんです。それに千葉ジェッツでマイク(マイケル・パーカー)とも一緒にやっていますし、マイクの日本バスケ界での価値も理解しているというのもあり、トレイ自身も群馬に溶け込みやすかったんじゃないですかね。

ジャスティン・キーナン選手

――トレイ、パーカー、クウェリ、そしてキーナンという4選手の合わせのプレーを見ていても息がぴったり合っているなと感じます。

 そもそも皆、能力が高いんです。クウェリ、キーナンの2人も、昨年、B1で1試合平均20得点以上取っている選手ですから。身体能力が高いだけの選手だとなかなか合わないですけど、うちの選手たちは皆、クレバーです。それにキーナンの破壊力は半端じゃない。40分間(の試合)の中で悪い流れのときもありますが、キーナンのような選手がいると、苦しいときには相当活躍してくれるんじゃないかと予想していました。

パーカー選手を獲得できたことは奇跡

――日本バスケ界を代表する選手の一人、マイケル・パーカー選手を獲得できたことは驚きでした。パーカー選手の加入が決まったのはいつ頃だったのですか。

 キーナンとクウェリが先に決まって、その後ですね。最後にトレイ。もし、マイクが獲れなかったら、ポジション的に考えて、トレイは獲れませんでした。

――パーカー選手が千葉ジェッツを出そうだという話は、耳に入っていたのですか。

もちろん。Bリーグのレギュレーションが変わって、千葉は日本国籍を取ったギャビン・エドワーズを帰化選手として登録するため、同じ帰化選手であるマイクをチームに置けなくなったんです。オープンハウスの本社がある丸ビルにマイクに来てもらって、約6時間にわたっていろんな話をしました。その中で、群馬が目指すビジョンについても語らせてもらったんです。そうしたらマイクが、「前向きに考えてくれる」と言ってくれたので、「これはもしかしたら可能性はある?」という感じになったんです

――パーカー選手が欲しいと思っているところに、そういうラッキーな状況が訪れたと?

 そうです。来てくれることが決まったときは、興奮しました。

――パーカー選手を獲れたのは、千葉のGMの池内さんと吉田さんが知り合いだったことが大きかったと思いますか。

 そうだと思います。池内さんにはいろいろと編成に関して勉強させてもらっている関係性だったのですが、本当に運がよかったと思います。マイクとの話の後、池内さんに連絡をして「ここまで話をしました。こういう条件ではどうですか」と丸一日かけて交渉したりして、精神的に疲れましたが、疲れが吹き飛ぶくらい、とてもしびれた出来事でしたね。

マイケル・パーカー選手

――パーカー選手も納得して群馬に来られたのですね。

 納得してくれたと思います。彼のようなトップレベルの選手がB2のチームに入るなんて、間違いなく受け入れられないことだと思いますから。それでも入ってくれたのは、群馬というチームの未来に期待してくれたんじゃないかと思っています。彼を獲れたのは奇跡でした。

――今季、これまでの連勝記録22を大幅に更新する33連勝を達成し、チームは現在、9割超の勝率でB2 リーグ1位をキープし続けています。これはパーカー選手の存在が大きいのではないですか。

 大きいと思いますね。オンザコート3(外国籍2人+帰化選手1人)が使えるのは大きいし、B1のトップレベルのクラブがやっていることをB2でやっている。クウェリ、マイク、トレイの3人を見たら、B1のトップチームですよ。

ブライアン・クウェリ選手

優勝経験者と勝っているチームのマインドを注ぎ込む

――外国籍選手、帰化選手だけでなく、日本人選手についてもB1経験者を獲りました。

 日本人のところでは、一番強化すべきところはポイントガード(PG)だと思っていました。小淵雅選手がチームに残ってくれることになって、一つ安心したところではあります。あとは、B1経験者で、クレバーで、ハードワークできるPGを探していました。そんな中、名古屋ダイヤモンドドルフィンズの笠井康平がなかなか出番に恵まれていなかった。彼は青山学院大学のときにキャプテンもやっていて、非常にいい選手だなと思っていたところ、移籍する可能性があるというのを知りました。それからは2日1回、彼に電話をして、「群馬はどうだ、どうだ」って、アプローチしました。

笠井康平選手

――吉田さんの思いが、笠井選手の心を動かしたわけですね。

 私、しつこんです(笑)。マイクもそうですが、笠井もB1の選手なので、群馬のことなんて全然知らないんですよ。まずは群馬がどういうチームなのかと説明するところから始めました。
 PGに笠井が来てくれることになって、次に優勝経験者と勝っているチームのマインドを入れたいという思いがありました。上江田勇樹は新潟アルビレックスBBで2018-19シーズンに中地区優勝をしているメンバー。B2なら問題なく活躍できるだろうと思い、上江田に来てほしいと思っていました。シューターには、宇都宮ブレックスから山崎稜が来てくれることになりました。これもチームにとっては大きなことだったですね。そして最後に決まったのは田原隆徳。外国籍選手も決まって、日本人選手もB1から来ることが決まっていたので、田原から積極的にアプローチをしてくれましたね。

上江田勇樹選手
山崎 稜選手

――その田原選手ですが、今季、一時期、ベンチにも入れないことがあり、苦しんでいました。そこから努力して今ではプレータイムを勝ち取っています。

 彼はいいマインドを持っている選手なんですよ。

――これまでのチームは、アウトサイドシュートを高確率で、肝心なところで決められなかったのが課題でした。

 シューターは、普段、外していても、肝心なところで入れられる選手が欲しいと思っていたんです。ウチのチームはインサイドが最強なので、シュート確率の高い選手がいるだけでB2でトップレベルのチームになる。実は、上江田も新潟でスタメンを張っていたぐらいシュートがうまいんです。今、3ポイントシュートの成功率が40%近くあるんです。B2でよくあるのが、外国籍選手の能力がいくら高くても、外からのシュートの確率が悪いために、対戦相手に守備で中を固められて、外国籍選手のフラストレーションが溜まってしまうことです。外のシュートの確率の高い選手を置くことで、さらにインサイドが生きてくるのかなと考えました。

田原隆徳選手

「来たくて来たくて、しょうがない」
そう思ってもらえる空間を作りたい

――2019-20シーズンのチーム人件費は1億8000万円ぐらいでしたが、今季はどれぐらいだったのですか。

 最終的に2億5000万ぐらいかと思います。

――B1でトップ争いをするためには5~6億円、7~8億円のチーム人件費が必要だと言われています。

 私の中では、人件費が高ければいいのかというのがあって、そこまでチーム人件費にお金をかけなくても、若手の育成はもちろん、選手の組み合わせ次第では、人件費に高いお金をかけなくても日本一を狙えるんじゃないかと思っています。2023年に太田市にアリーナが完成(予定)しますので、2022-23シーズンにはB1で優勝争いをしていたいですね。

――そのためには来季はB1に行っていたいですね。

今、杉本天昇や菅原暉も加わり、チーム内の競争がさらに激しくなっています。日本一を狙えるチームになるためには、今いる既存の選手たちの成長に期待したい。勝てる選手になってほしいですね。
何よりも今季、平岡ヘッドコーチ(以下、HC)は、大きなプレッシャーを感じていると思います。平岡さんは中学・高校・大学と日本一を取っています。チームを常勝チームへと導いてくれるHCだと思っています。今季B2優勝することによって平岡HCにとってもステップアップになります。手腕に注目してください。

――日本一になるためには、フロントスタッフの強化も欠かせせんね。

 それは絶対に必要です。

――成長するクラブは、スタッフがしたいことをするのではなく、「お客様に楽しんでもらうためにはどうしたらいいか」を第一に考えて仕事をしています。今のサンダーズはそれができていると思います。

 まだまだですが、やりたい方向には進み始めています。もっともっとできることはあると思っています。お客様にもっと喜ばれるチームになっていかないと、クラブとして発展し続けていかないですから。昨年7月にクラブはオープンハウスの完全子会社となってから1年も経っていないですが、お客様が群馬の試合を見るために、会場に来たくて来たくて、しょうがないという空間を作りたいですね。例えるなら東京ディズニーランド。ディズニーランドのような空間があることによって外に出る楽しさを覚えたり、全身を使って好きな選手を応援することで健康にもいい影響を与えたりします。私たちは、群馬県が誇るものの一つになりたいと思っていますし、皆さんから「自分のチーム」と言ってもらえるような存在になりたいですね。
 2023年に予定通りアリーナが完成したら、演出もNBAに近いようなものを計画しているんです。たぶん皆さん、びっくりすると思いますよ。どうか楽しみにしていてください。

<了>

■profile
吉田真太郎(よしだ・しんたろう)
1982年12月30日生まれ、静岡県出身。小4からバスケを始め、強豪・中央大学でもプレー。2005年にオープンハウス入社。現在、オープンハウス・ディベロップメント常務執行役員開発事業部長。19年6月から群馬クレインサンダーズの取締役も兼務。今季からGMとしての役割も担う。